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JR東日本が初めての「運賃値上げ」を申請 2026年3月実施予定 4つのポイントをチェック!

ITmedia Mobile 2024年12月10日 15時0分

 東日本旅客鉄道(JR東日本)は12月6日、国土交通省に鉄道運賃の改定を申請した。改定は2026年3月に実施する予定で、同社が1987年に発足以来初めての“値上げ”となる(※1)。この記事では、本改定のポイントをまとめる。

 なお、本記事における「運賃」は乗車券の料金を指す。乗車券以外のきっぷ(急行券/特急券、指定席券や特別車両券(グリーン券)など)の料金は含まない。

(※1)消費税の新設/改定に伴う値上げと、IC運賃の導入時を除く

●ポイント1:運賃体系の整理

 JR東日本の運賃体系は、大きく分けると「幹線」「地方交通線」「電車特定区間」「山手線内」の4種類が用意されている。これらは同社の前身である国鉄(日本国有鉄道)時代から存在する区分で、大ざっぱにまとめると以下のような位置付けとなる。

・幹線:人または貨物の輸送が多い路線

・地方交通線:人や貨物の輸送が少ない路線

・幹線と地方交通線をまたがって乗車する場合は、幹線の乗車距離と地方交通線の「換算キロ(実際の乗車距離×1.1)」を足し合わせた上で、幹線運賃で計算する

電車特定区間:幹線のうち、特に乗客の多い大都市圏の路線/区間

・現在は「東京」と「大阪」の2種類が設定されている

・運賃は通常の幹線運賃よりも割安

・電車特定区間外にまたがる場合は、通常の幹線運賃を適用する

山手線内:東京の電車特定区間のうち「山手線(運転系統)」とその内側にある路線

・運賃は電車特定区間よりもさらに割安

・乗車駅と降車駅のいずれも「山手線内」である場合にのみ適用

 今回の運賃改定では、運賃計算の簡素化を目的に、東京における電車特定区間と、山手線内の運賃区分が廃止され、幹線と地方交通線の2種類に整理される。その代わり、東京の電車特定区間/山手線内の運賃に加算されている「鉄道駅バリアフリー料金」(※1)は廃止となる

(※1)バリアフリー設備を整備するための費用を運賃に上乗せする形で徴収するもの(普通運賃の場合は一律で「1乗車当たり10円」)

 先述した通り、電車特定区間の運賃は幹線の通常運賃より割安で、山手線内の運賃は電車特定区間運賃よりもさらに割安だ。そのため、今回の運賃改定では電車特定区間、特に山手線内で完結する運賃の値上げ感が強くなる。

 一方で、電車特定区間外で乗車する場合は、区間にもよるが値上げ感はそれほど大きくない。

●ポイント2:値上げ幅は「平均7.8%」(通勤定期券は値上げ幅大きめ)

 今回の運賃改定は、全ての運賃で平均すると「7.8%の値上げ」となるように行われる。具体的には以下の通りの方法で行われる。

・普通運賃(普通乗車券や交通系ICカードの残高で乗車する場合の運賃)

・10kmまでは現行の税抜き運賃を4.7%値上げ

・11kmから600kmまでは賃率(※2)を4.7%引き上げ(601km超の賃率は据え置き)

・IC運賃の設定線区については「きっぷ運賃≧IC運賃」になるように調整(※3)

定期旅客運賃(いわゆる「定期券」の運賃)

・通勤定期運賃は平均で12%の値上げを実施

・6カ月通勤定期については、普通運賃に対する割引率を最大で約5%削減

通学定期運賃は平均4.9%の値上げ

・割引率は従来通りで据え置く

(※2)1km当たりの運賃(※3)現行運賃では、ごく一部にIC運賃の方が高額な設定となっている距離帯もある

「特定区間」の設定を見直し

 通常、鉄道の運賃は乗車距離で決まる。しかし、路線の置かれた環境によっては距離ではなく“区間”で定めた「特定運賃」を設定することがある。特定運賃が適用される区間は「特定区間」と呼ばれ、主に以下の2つの理由で設定される。

1. 2つ以上の鉄道会社が1つの線路を共有している場合

3. 線路共有区間のみ乗車する場合の運賃は、低廉な方の会社に合わせて設定する

6. 他の鉄道会社との競合が激しい場合

8. 競合区間について、相手の会社と同額かより安い運賃を設定する

 JR東日本の特定区間は全て2つ目の理由から旧国鉄時代に制定されたもので(※4)、同社発足から一度も見直しを実施していない。しかし、会社設立から四捨五入で40年を迎えた昨今、路線網や運行体系の変化によって競合がなくなった、あるいは少なくなった区間もある。

 そこで今回の運賃改定に併せて、JR東日本は計30区間ある特定区間のうち、18区間を廃止する方針を示した。残る12区間についても、内方調整(区間の一部廃止や適用経路の見直し)を実施する予定だ。

 ただし、同社は特定区間の廃止/内方調整に関する届け出は運賃改定の“認可後”に行うとしており、その詳細は別途告知するという。

(※4)1つ目の理由に近いものとして、常磐線の北千住~綾瀬駅間もあるが、この区間は東京地下鉄(東京メトロ)の単独区間(千代田線)となるので当てはまらない。なお、この区間で完結する乗車券は、JR東日本を含むJRグループ各社では購入できない(東京メトロの北千住駅/綾瀬駅の自動券売機と、一部駅の定期券売り場でのみ購入可能)

●ポイント3:JR他社にまたがる運賃は「通算加算方式」に

 JR東日本を含むJRグループ6社では、会社をまたいでも運賃を通算できる制度が導入されている。

 元々、この仕組みは旧国鉄が分割民営化される際に盛り込まれた。分割民営化後、JRの本州3社(※5)が完全民営化されることに伴い、国土交通省は2001年に「新会社がその事業を営むに際し当分の間配慮すべき事項に関する指針」を発出し、JR会社法(※6)の適用対象外となる3社を含めてJRグループ間の運賃は通算するように“指導”されている。その後、九州旅客鉄道(JR九州)もJR会社法の適用対象外となったが、その際もほぼ同文の指針が発出されており、現在に至っている。

(※5)JR東日本、東海旅客鉄道(JR東海)、西日本旅客鉄道(JR西日本)(※6)正式名称は「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」で、現在は北海道旅客鉄道(JR北海道)、四国旅客鉄道(JR四国)と日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)の3社に適用される

 現在、JRグループの本州3社の運賃は電車特定区間を除いて共通だ。一方で、JR北海道、JR四国、JR九州の3社は本州3社よりも“割高”な運賃を適用している。

 しかし先述の通り、JRグループの運賃は通算できるようになっている。そのため、運賃の異なる3社にまたがって乗車する場合は「通算加算方式」で運賃を計算する。この方式では本州3社の運賃を「基準運賃」とした上で、以下の手順で運賃を計算する。

1. 乗車した区間の営業キロまたは運賃計算キロ(※7)を求める

2. 1で算出されたキロ数をもとに、基準運賃を計算する

3. 運賃の異なる3社における営業キロ/運賃計算キロを求める

4. 2で求めた基準運賃に、3で求めたキロ数に応じた「加算運賃」を足す

(※7)幹線区間の営業キロと、地方交通線区間の「換算キロ」を合計したもの

 加算運賃の額は、JR北海道/JR四国/JR九州の各社で異なり、2社以上にまたがる場合はそれぞれの会社において加算運賃を算出する。例えばJR四国の高松駅(香川県高松市)から児島駅~(本四備讃線/宇野線)~岡山駅~(山陽本線)という経路でJR九州の門司駅(北九州市門司区)に至る乗車券を買う場合、運賃計算は以下の通りとなる。

1. 合計の運賃計算キロを求める

3. JR四国エリア(高松~児島間)の営業キロは44.0km

4. JR西日本エリア(児島~岡山~下関間)の運賃計算キロは395.2km(※8)

5. JR九州エリア(下関~門司港間)の営業キロは6.3km

8. 合計の運賃計算キロ(445.5km)から、基準運賃は7480円となる

9. JR四国エリアおよびJR九州エリアにおける加算運賃を求める

11. JR四国エリアの営業キロは44.0kmなので330円加算(※9)

12. JR九州エリアの営業キロは6.3kmなので、30円加算

15. 合計の運賃は、基準運賃に350円加算した7840円

(※8)運賃ルール上、山陽本線(幹線)の岩国~櫛ケ浜間(または両駅を通過する)乗車券を購入する場合、距離の短い岩徳線(地方交通線)経由で乗車したとみなして計算を行うため「運賃計算キロ」となる(※9)本四備讃線の宇多津~児島間(瀬戸大橋区間)の加算運賃を含む

 今回の運賃改定が成立した場合、JR東日本の運賃はJR東海/西日本と異なるものとなる。そこでJR東日本では現行の運賃(≒改定後のJR東海/JR西日本の運賃)を「基準運賃」とした上で、自社区間に「加算運賃」を設定する。加算額は「JR東日本における値上げ相当分」とされている。

 ニュースリリースで例示されているものとして、JR東海の御殿場駅(静岡県御殿場市)から国府津駅を経由して自社の大船駅(神奈川県鎌倉市)に至る乗車券の運賃計算がある。その計算手順は以下の通りだ。

1. 合計の営業キロを求める

3. JR東海エリア(御殿場~国府津間)の営業キロは35.5km

4. JR東日本エリア(国府津~大船間)の営業キロは31.2km

7. 合計の営業キロ(66.7km)から、基準運賃は1170円となる

8. JR東日本エリアにおける加算運賃を求める

10. JR東日本エリアの営業キロは31.2kmなので30円加算

13. 合計の運賃は、基準運賃に30円を加算した1200円となる

●ポイント4:東海道新幹線と東海道本線の一部が“別路線”に

 日本における高速鉄道の代名詞ともいえる「新幹線」だが、その名の通り「新しい幹線(鉄道)」として誕生した。そのこともあり、新幹線の多くは運賃上「在来線の別ルート」という扱いとなっている。この扱いに当てはまる新幹線は以下の通りだ。

・東海道新幹線(東京~新大阪間)

・東海道本線(東京~新大阪間)の別線として扱う

・新横浜駅は「横浜駅」、新富士駅は「富士駅」、岐阜羽島駅は「岐阜駅」とみなす

山陽新幹線(新大阪~博多間)

・東海道本線(新大阪~神戸間)、山陽本線(神戸~門司間)、鹿児島本線(門司~博多間)の別線として扱う

・新神戸駅は「神戸駅」、新尾道駅は「尾道駅」、東広島駅は「西条駅」、新岩国駅は「岩国駅」とみなす

九州新幹線(博多~新八代間/川内~鹿児島中央間)

・鹿児島本線(博多~新八代間/川内~鹿児島中央間)の別線として扱う

・新鳥栖駅は「鳥栖駅」、新大牟田駅は「大牟田駅」、新玉名駅は「玉名駅」として扱う

・新八代~川内間は完全な独立路線となる

西九州新幹線(諫早~長崎間)

・長崎本線(諫早~長崎間:現川経由ルート)の別線とみなす

・武雄温泉~諫早間は完全な独立路線となる

東北新幹線(東京~盛岡間)

・東北本線(東京~盛岡間)の別線として扱う

・白石蔵王駅は「白石駅」、古川駅は「小牛田駅」、くりこま高原駅は「新田駅」、新花巻駅は「花巻駅」とみなす

・盛岡~新青森間は完全な独立路線となる

上越新幹線(大宮~新潟間)

・高崎線(大宮~高崎間)、上越線(高崎~宮内間)、信越本線(宮内~新潟間)の別線として扱う

・本庄早稲田駅は「本庄駅」、上毛公園駅は「後閑駅」、燕三条駅は「東三条駅」とみなす

 運賃は基本的に新幹線乗車時も在来線経由とみなして計算される。そのため、上記の区間を含む新幹線の乗車券は在来線経由でも有効で、逆に在来線経由の乗車券は新幹線経由でも有効だ。

 ただし、運賃の計算や乗車経路など、例外も多数存在する(説明したいところだが、長くなりすぎるので割愛する)。

 先述の通り、JR東日本が運賃を改定すると、JR東海/JR西日本との間に運賃差が生じる。

 例えば東京山手線内(※10)と熱海駅の往復を考えた場合、現在(運賃改定前)はとりあえず「東京山手線内→熱海」「熱海→東京山手線内」の乗車券を買っておけば、在来線経由でも新幹線経由のどちらでも利用可能だったが、改定後は在来線(JR東日本)経由と新幹線(JR東海)経由で運賃に差が生じてしまうため、このような取り扱いは難しくなる。

(※10)東京駅から片道101km以上200km未満の乗車券に適用される特別な制度で、運賃計算を東京駅から(まで)とした上で山手線(環状系統)とその内側にある中央本線の東京~新宿間の各駅で乗降可能としている(ただし、東京山手線内に指定されている駅での途中下車は不可)

 運賃改定に伴いJR東日本(とJR東海)は東海道本線と東海道新幹線の東京~熱海間を“別路線”とすることとした。これにより、東京(山手線内)~熱海間の普通乗車券を購入する場合は必ず「東海道線(在来線)経由」か「東海道新幹線経由」を事前に指定しなければならなくなる。

 ただし、運賃値上げ後も以下の取り扱いは継続される。

・新幹線定期券(FREX/FREXパル)における在来線(東海道本線)への選択乗車

・東京~熱海間の新幹線定期券を持っている場合、東京~熱海間の東海道本線も利用できる

新幹線停車駅を2駅以上含む在来線の定期券での新幹線乗車

・東京~熱海間の在来線経由の定期券で、経路に新幹線停車駅が2つ以上含まれていると自由席特急券を別途購入することで新幹線の自由席に乗車できる

・横浜駅は「新横浜駅」と見なしてカウント

・Suica定期券の場合は、新幹線乗車可能区間について自由席特急券の事前購入は不要(自由席特急料金相当額をチャージしておく必要あり)

・定期券区間から新幹線を乗り越す場合は、乗り越し区間を含む自由席特急券と、乗り越す区間の普通乗車券を用意すればOK

●運賃改定は「認可制」 これからの流れは?

 日本の鉄道事業者が鉄道運賃の上限額を設定/改定する場合は、国土交通大臣からの認可が必要となる(※11)。そして設定/改定の認可に当たり、国土交通大臣は国土交通省内の「運輸審議会」に諮問しなければならない。そして運輸審議会での審議に当たっては、利用者からの意見聴取(パブリックコメントの募集)も行われることもある。

(※11)認可を受けた上限額の範囲内で値上げと値下げを行う場合は認可不要

 今回、JR東日本が申請したのは運賃の上限額変更申請なので、上記の手続きに沿って行われる。そのことに伴い、国土交通省では12月9日から23日まで、同社の申請に対するパブリックコメントを募集する。

 募集要項とJR東日本が提出した申請書類は電子政府総合窓口「e-Gov」で確認可能だ。

 パブリックコメントを寄せたい場合は、JR東日本からの申請書類の内容をよく確認した上で、要領に定める様式(書式)に基づいて意見を記述し、要領に定める方法(e-Govサイト、電子メールまたは郵送)で国土交通省に送付しよう。郵送の場合は締め切り日必着となっているため、郵送する場合は注意が必要だ。

 なお、パブリックコメントの内容は資料などの形で公表される場合がある(個人の場合は原則として匿名)。意見を寄せる際は、そのことを念頭に置くようにしたい。

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