Appleは2020年、世界最小の5Gスマホとして「iPhone 12 mini」を発売した。その翌年には「iPhone 13 mini」を発売したが、それ以降iPhone miniシリーズは途絶えている。
このiPhone 13 miniは、至高の小型スマホだった。指の第三関節までに収まる手のひらサイズで、5Gもサポートしている。高解像度のディスプレイで、WebサイトやSNSも快適に表示できる。それでいてアウターのポケットにすっぽり入り、目立たない。モバイルギアとしてのバランスのよさを気に入っていた。
しかしながら、時代はコロナ禍に入る。家の中でスマホを使う機会が増えて、大画面化が求められるようになった。5Gで動画視聴が浸透しつつある中で、今後miniモデルが主流となることはまず無いだろう。
ということで筆者はiPhone 13 miniを気に入り、「小型スマホ枠」として使い続けていたのだが、既に3世代をへたことで、さすがに買い替える時期が来たと悟った。
例年通り9月に「iPhone 16」が発表された際に買い替えたので、iPhone 13ユーザー目線で見たiPhone 16の使用感をレポートしたい。
●無印iPhone 16を選んだ理由
第1の理由は、単純に最も軽量だったからだ。iPhone 16は170gで、2024年のラインアップでは最も軽い。「iPhone 16 Pro」も選択肢にあったが、1世代前の「iPhone 15 Pro」が187gへの軽量化を果たしたのに対して、今回は199gへとリバウンドしてしまっている。次世代モデル以降でより軽量になったら買い替えを考えることにした。
2つ目の理由は、iPhone 16シリーズでは上位モデルとの性能差が少なくなっていることだ。というのもAI機能のApple Intelligenceに4モデルとも対応するため、プロセッサはいずれもA18シリーズに統一された。前モデルまでは無印iPhoneは1つ前の世代のチップを使うことが慣例になっていたため、世代間の差が埋まったことになる。
加えて、メモリについても非公表だが、レビュー記事などでは差分がなくなり、16シリーズは全機種で8GBを搭載していることが明らかになっている。この点でも、無印モデルと上位モデルの差が縮まっている。
3つ目の理由は、ソフトバンクの買い替えプログラムで、1年間だけお得に使えるからだ。
筆者はソフトバンクでiPhone 16(128GB)を14万5440円(税込み、以下同)で購入した。その理由は「新トクするサポート(プレミアム)」という買い替えプログラムだ。この機種で48回払いの割賦(分割支払い)を選択すると、最初の1年間は月々わずか3円という支払いになる。13カ月目以降は月額4410円となる。
1年後にスマホを返却すると残債不要となる「早トクオプション」を利用すると、端末代金は36円(3円×12カ月)だけの支払いで済む。ただし、返却時に1万9800円の早トクオプション利用料が発生する他、月額1450円の「あんしん保証パックサービス」への加入も必須となっている。これらを合計すると、実質3万8686円で1年間iPhone 16を使えることになる。
このプログラムを利用すれば、1年後により軽量なiPhoneが発売されたときに買い替えることができる。より気に入った機種が登場したときは、一括で購入する選択肢も残されている。そう考えてソフトバンクで購入することにした。
●サイズが変わっても直感的に操作できる
iPhone 16の本体サイズは71.6(幅)×147.6(高さ)×7.8(奥行き)mmとなっている。iPhone 13 miniと比べると明らかに大きくなったが、実際に使い始めてみると、違和感はほとんどなかった。これは、Appleが長年にわたって築き上げてきたiOSのUI(ユーザーインタフェース)の一貫性のたまものだ。
基本的な操作感やアプリの配置、設定画面の構成など、iOSの核となる部分は変わっていないため、サイズが変わっても直感的に操作できる。上部のノッチがダイナミックアイランドに進化したことも、むしろUIの一部として自然に溶け込んでいる。通知やシステム状態の表示がよりインタラクティブになり、情報へのアクセスがスムーズになった印象だ。
従来の着信/消音スイッチに代わって搭載されたアクションボタンは、ミュート機能以外にもさまざまな機能を割り当てられる。カメラやボイスメモの起動、ショートカットの実行など、自分の使い方に合わせてカスタマイズできる点は、使い勝手の向上に貢献している。
また、iPhone 16で新たに右下に搭載されたカメラコントロールボタンは、物理シャッターボタンとしても使える。ただし横位置での撮影時は指の長い人でないと押しづらく、やや使いづらい印象だ。むしろ縦位置での撮影時に、今後実装されるAI画像検索を起動するためのショートカットとして活用できそうだ。
移行プロセスは簡単で、iCloudバックアップを使用すれば、アプリの配置やシステム設定がほぼそのまま引き継がれる。Face IDの再設定など、最小限の初期設定で済むため、新しいデバイスへの移行に伴うストレスはほとんどない。
1週間も使い込むと、すっかりiPhone 16の操作に慣れ、むしろ大画面のメリットを実感するようになった。コンテンツを楽しむ時間が増えたと感じる。iPhone 13 miniを使っていたときよりも、ゲームをプレイする機会が増え、大きな画面で動画を視聴したりWebブラウジングをしたりする快適さを享受している。
もっとも、片手操作の容易さは確実に失われている。簡易アクセスという画面を下げる機能は健在だが、iPhone 13 miniのような完全な片手操作の快適さには及ばない。これは、大画面化に伴うトレードオフといえる。
ベッドサイドに置きっぱなしのiPhone 13 miniを手に取ると、「このサイズ感、密度がいいよね」と思わせてくれる。小さな画面に凝縮された情報、SNSを片手で完全に操作できる心地よさ、ポケットにすっぽり収まる安心感。それらの魅力を再確認させられる。
●iPhone 13 miniからは明確に性能が向上 ゲームのプレイでも実感
スペックの比較では、iPhone 13 miniのA15 Bionicチップに対し、iPhone 16ではA18チップを搭載している。具体的なベンチマーク結果を見ると、iPhone 16の性能向上が明確に示されている。
Geekbench 6によるiPhone 16のベンチマークスコアは、シングルコアスコアが3233、マルチコアスコアが7831、GPU(Metal)スコアが2万8048となっている。
iPhone 13 miniと比較すると、iPhone 16はシングルコア性能で約47%(2199から3233へ)、マルチコア性能で約49%(5244から7831へ)、GPU性能で約52%(18481から28048へ)の向上を示している。
直近のiPhone 15 Proと比較しても、iPhone 16は性能向上を達成している。シングルコア性能では約11%(2908から3233へ)の向上が見られ、マルチコア性能も推定で10%以上の向上が見込まれる。GPU性能においても、約3.5%(27105から28048へ)の向上が確認されている。
A18チップの高性能は、日常的なタスクの処理速度向上だけでなく、これまでモバイルデバイスでは難しかった高度な処理も可能にしている。従来はコンソールやPC向けだった大作ゲームタイトルをモバイルでプレイできるようになったのも、この性能向上の恩恵だ。
「バイオハザード ヴィレッジ」や「アサシン クリード ミラージュ」といった大型タイトルがiPhone 16シリーズでプレイ可能になった。A18チップの高性能により、これらのゲームではレイトレーシングが採用され、リアルな光の反射や水の動きが再現されている。また、高いフレームレートでのプレイが可能となり、モバイルでありながらコンソールに近い品質でゲームを楽しめるようになった。既存のモバイルゲームでも、ロード時間の短縮や動作のスムーズ化といった改善が見られる。
この性能向上は、ゲーム以外の日常的な使用シーンでも顕著に感じられる。例えば、筆者が頻繁に利用するFirefoxでのX(旧Twitter)Web版の閲覧では、iPhone 13 miniで経験していたような速度低下がiPhone 16では全く感じられない。モダンなWebアプリのような、メモリ消費量の多いアプリケーションでも、スムーズな動作が維持されている。
複数のアプリを同時に起動している状態でも、アプリの切り替えがよりいっそうスムーズになった。これは、ゲームのような負荷の高いアプリケーションと日常的なアプリを頻繁に切り替えて使用する場合にも有効で、ストレスなく作業を継続できる。
●端子がUSB Type-Cに バッテリーの持ちも向上
USB Type-C端子への変更は、ケーブルの汎用(はんよう)性と充電速度の向上のメリットが大きいと感じた。Lightning規格では最大20Wでの給電だったのに対して、iPhone 16ではUSB-PDベースなら最大27Wで給電できる。約30分の充電で本体容量の50%ほどが給電できるため、急いでいるときの充電にも対応できるようになった。また、MagSafe充電器を使用したワイヤレス充電もサポートしている。
ケーブルの汎用性については、日常的な使い勝手の向上を実感した。筆者は他にAndroidスマートフォンを数台併用しているが、Type-Cケーブルが併用できるだけで日々の煩わしさが大きく軽減された。例えば、外出時にケーブルを1本だけ持参すれば、iPhoneもAndroidも充電できるようになった。これまでは、iPhone用のLightningケーブルとAndroid用のUSB Type-Cケーブルを別々に持ち歩く必要があり、かばんの中でケーブルが絡まることも多かった。
ただし、データ転送速度に関しては、iPhone 16ではUSB 2.0相当の最大480Mbpsとなっており、Lightning端子を使用していた前モデルと比べて大きな変化はない。カメラからのデータ転送や動画用のストレージ接続などで、高速なデータ転送を期待する場合は、USB 3.0相当の転送速度を持つiPhone 15 ProやiPhone 16 Proシリーズを選択する必要がある点には注意が必要だ。
電池持ちも改善した。Appleの公式データによると、iPhone 16は通常の使用で最大20時間のビデオ再生が可能とされている。これは、iPhone 13 miniの17時間と比較して約18%の向上だ。
実際の使用感としては、1日の通常使用でバッテリー残量を気にする必要がほとんどなくなった。iPhone 13 miniを3年使用し続けてバッテリー残量が80%近い状態に落ちていた状態では、SNSなどを見ていると夕方にはバッテリーが尽きてしまう状態だった。
それがiPhone 16となると、朝7時に充電を外してから、SNSの利用、Web閲覧、音楽再生、約1時間の通話を含む通常使用で、夜10時の時点で30%程度のバッテリーが残っている。モバイルゲームも思う存分遊べる印象だ。
iPhone 16は急速充電にも対応しており、20W以上の充電器を使用すれば、約30分で50%まで充電が可能だ。
●カメラは1200万画素から4800万画素に 暗所に強いのもうれしい
本稿ではiPhone 13 miniとiPhone 16の比較となるため、技術進歩の速さを考慮すると単純な比較は難しいが、カメラシステムにおいて大幅な進化が見られる。
まず、メインカメラの解像度が1200万から4800万へと大幅に向上している。iPhone 15世代から搭載されている高解像度センサーはピクセルビニングを使用し、暗い照明下でも明るい写真を撮影できる。2倍クロップでのズーム撮影と、Apple ProRAWによるRAW撮影も可能となっている。
超広角カメラは両モデルとも1200万画素だが、iPhone 16ではより大きなセンサーとF2.2の絞り値を採用し、低光量下でのパフォーマンスが向上している。また、iPhone 13 miniにはなかった望遠機能として、iPhone 16では広角カメラからのクロップズームとなる2倍光学ズーム相当(52mm)が利用可能だ。明るい場所での撮影に限られるが、ちょっと寄って撮りたいというときに、画質劣化の影響を受けずに撮れるのはやはり便利だ。
写真処理技術においても、iPhone 16はPhotonic Engine(Deep Fusionの改良版)を搭載し、低光量下での画質が向上している。特に暗所での撮影性能の向上が顕著に感じられ、夜間の街並みや室内の薄暗い場所でも、明るく鮮明な写真が撮影できる。
試用した印象ではホワイトバランスの認識精度が高いと感じた。例えば、ホテルのオレンジ色の照明に照らされたプレゼンテーションの画像と登壇者のような、色味の判別が難しいシーンでもiPhone 16は適切な色味で撮れることが多かった。
●iPhone 16はよくできている それでもやっぱりminiが欲しい
この記事では深く言及しなかったが、iPhone 16での注目の要素は、やはりApple Intelligenceへの対応だ。日本での提供開始は2025年以降となるものの、AIを活用した新しい機能は、iPhoneの使い勝手を大きく変えることになるだろう。AIによる文章作成のサポートやコンテキストを理解した賢いSiriなどが使えるようになれば、日常的なスマートフォン体験が一変することになりそうだ。アップデートを楽しみにしたい。
iPhone 13 miniからiPhone 16への移行は、大画面化という点で少々の戸惑いはあったものの、性能面での向上は目を見張るものがあった。特に、プロセッサとGPUの性能向上、カメラシステムの進化、そしてバッテリー持続時間の改善は、普段使いで満足感をもたらしてくれる大いなるアドバンテージだ。USB Type-C端子の採用も、利便性の観点から非常に歓迎すべき変更だった。
一方で、小型軽量を求めるユーザーにとっては、miniシリーズの後継機が登場しないことは残念に感じるだろう。筆者としてもiPhone 13 miniの使用感は唯一無二で、「このミニサイズにカメラコントロールボタンがあれば最高なのに」と今でも思っている。
結局のところ、ユーザーの需要に応じて端末サイズは変化していくのだろうが、小型モデルの洗練された使用感が再評価される日が来ることを願わずにはいられない。