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Pixelのデザインは製品化まで約2年を要する――Googleデザイナーが語る哲学 国立新美術館で特別展示も

ITmedia Mobile 2024年12月11日 12時16分

 AIスマートフォンとして知られるGoogle Pixelシリーズは、その外観デザインにも独自の個性がある。12月11日から23日まで国立新美術館で開催される特別展示「GOOGLE HARDWARE DESIGN STUDIO DINING TABLE, 2024」は、そんなGoogleのデザインフィロソフィーを体感できる場となっている。

 本稿では展示の様子とともに、グループクリエイティブディレクターのRachel Rendely(レイチェル・レンデリー)氏、インダストリアルデザイナーの松岡良倫氏への取材から見えてきた、Googleが目指すデザインの世界を紹介する。

●色彩で魅せるハードウェアの世界

 花柄の壁紙を背景に設置された約5メートルのダイニングテーブルには、8つの異なる「場」が用意されている。これは、ミラノサローネ国際家具見本市で発表された「Making Sense of Color」の日本向けアレンジだ。

 展示されたテーブルセッティングには、デザインチームによって手作りされた要素が随所にちりばめられている。例えば、ケーキのオブジェは手作業で染色されたシリコンの層で作られており、各カラーの持つ喜びに満ちた個性を表現している。また、製品に使用されるリサイクルプラスチックのペレットや再生アルミニウムなどの実際の素材も、テーブルの装飾として効果的に取り入れられている。

 各テーブルセッティングには「Made by Google」というメニューカードが添えられており、その色が持つストーリーとともに、製品に使用されているリサイクル素材の割合なども記されている。例えば、火山ガラスを思わせる漆黒の「Obsidian(オブシディアン)」のセッティングでは、再生アルミニウムをテーブル装飾のモチーフとして使用。メニューカードには、その製品における再生アルミニウムの使用割合が示されている。

●Pixelデザインの柱は「人間性」「楽観性」「遊び心」

 Googleのハードウェアデザインでは、ハードウェアデザイン バイス・プレジデントのIvy Ross(アイビー・ロス)氏が掲げた「Human(人間性)」「Optimistic(楽観性)」「Daring(遊び心)」という3つのキーワードを哲学の柱としている。「テクノロジーが進化すればするほど、ハードウェアは人々に寄り添うものでなければならない」。この考えは、製品開発のさまざまな場面に反映されている。

 Pixelのデザインは、構想から製品化まで約2年を要する。「最初の3カ月ぐらいで基本的な方向性を決め、その後1年ほど設計とのやりとりを重ね、最後は量産準備に入ります」と松岡氏は説明する。この工程は構想に5%、設計者とのやりとりに90%、工場での品質管理に5%という配分で進んでいく。

 デザインの特徴的な要素である丸みのある形状について、松岡氏は「水の表面張力のような、自然な丸みを意識しています。まるで手作業で滑らかに削り出したような、そんな曲線を追求しているんです」と語る。1つの形状を決めるために約30種類ものバリエーションを作り、社内の3Dプリンタで実際のモックアップを製作。チーム全体で検討を重ねながら、最も心地よい曲線を選んでいくという。

 その丸みへのこだわりは、時に社内での議論も生む。「端末の角を丸くすることで、画面上で表示できる情報量が制限されてしまうため、ソフトウェアチームとはよく議論になります」と松岡氏は笑う。「アイコンを表示するスペースが少なくなってしまうと言われるのですが、それでも私たちはあえて丸みのあるデザインを選択しています」

●デザインは3年周期で見直し Pixel 9がその転換点に

 また、Googleは製品デザインを約3年周期で大きく見直すという。「カメラやディスプレイなどの技術は、毎年新しいものが出るわけではありません。3年ぐらい熟成しないといいものが出ないんです」と松岡氏は説明する。Pixel 8までは似たデザインラインを踏襲してきたが、Pixel 9シリーズはその転換点にあるという。

 テクノロジーの進化を受け入れながら、いかにPixelらしいデザインを実現するか。それが現在のデザインチームが向き合う重要なテーマとなっている。

 そして、デザインの進化は色彩表現にも及んでいる。「これまでのミニマルなデザインを追求してきたPixelですが、今回のカラー展開ではよりマキシマリスティック(※)な表現へとかじを切り始めています」とレンデリー氏は語る。

 Pixel 9シリーズでは、標準モデルのPixel 9にPeony(ピオニー)を、ハイエンドモデルのPixel 9 ProにRose Quartz(ローズクオーツ)という系統の違うピンクを採用している。

 「ピオニーは、とても大胆で、エッジの効いた、明るく遊び心のある色です。自信に満ちたピンクであり、より柔らかで上品なローズクオーツによって美しく補完されています。ローズクオーツには控えめながら甘さのヒントも残されているんです」とレンデリー氏は説明する。

 「私たちは特定の流行や他社の動向に左右されることなく、Googleらしさを追求しています。各製品にふさわしい色、そして製品のパーソナリティーや表現力を引き出す色を選んでいます」とレンデリー氏は説明する。「中性的な色から表現力豊かな色まで、幅広い選択肢を提供することで、誰もが自分に合った色を見つけられるようにしたいのです」

 色彩のインスピレーションは、特定の文化や地域に限定されることなく、自然界の要素から多くを得ているという。例えば、「Porcelain(ポーセリン)」というカラーは、セラミックスや砂の微妙な色の変化からヒントを得ており、特に日本の陶磁器からも大きな影響を受けている。

 国立新美術館1階ロビーで開催される本展示は、テクノロジーと人間性の調和という、現代のデザインが直面する課題への1つの回答を示している。写真撮影も可能で、入場は無料。Google Pixelの外観デザインに込められた哲学を、直接体感できる貴重な機会となるだろう。

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