2024年にデザインを刷新したAQUOSシリーズ。この変更に伴い、ど真ん中のミドルレンジモデルとしておなじみのAQUOS senseシリーズも、その見た目や中身を大きくリニューアルした。11月に発売された「AQUOS sense9」が、それだ。デザインがAQUOS R9に近づいていることに加え、ディスプレイやカメラなどが大きく進化。スマホに求められる“必要十分”を底上げした。
これと同時に発表されたのが、最上位モデルの「AQUOS R9 pro」だ。同モデルは、カメラに特化したスマホというコンセプトをより先鋭化させ、これまで搭載していた1型センサーに加え、超広角カメラやペリスコープ型の望遠カメラを搭載。3眼レンズ全体に対してライカのブランドである「VARIO-SUMMICRON(バリオ・ズミクロン)」という名称が与えられている。
スマホらしい見た目を維持していたこれまでもAQUOS R proに対し、AQUOS R9 proは、よりカメラらしいデザインに振り切っているのも特徴だ。では、シャープはこの2機種をどのようなコンセプトで開発したのか。その開発経緯を、同社の通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の中江優晃氏と、パーソナル通信事業部 商品企画部の清水寛幸氏に聞いた。
●カメラ、スピーカー、ディスプレイのギアをぐっと上げた
―― まず、AQUOS sense9についてうかがいます。もともと、これで十分という端末でしたが、今回は細かくあった不満も全てつぶされているような印象を受けました。どういうコンセプトで企画されたのでしょうか。
清水氏 みんなが慣れてきた結果、「こんなもんかな」とワクワク感がなくなってきていましたが、「もっとこういうことができるぞ」ということをお届けしたかった。それはカラーも含めたデザインと、触れていただいたときの機能の両面があります。ずっと言っていることですが、スマホに詳しくない方にも、これを薦めておけば間違いないと言い訳なしで言える商品にしたいと思っていました。
まず機能面からお話すると、一段ぐっとギアを上げたところが、カメラ、スピーカー、ディスプレイの3点です。カメラは標準のところはすごくいいと言われていましたが、それ以外のどのカメラを使ってもきれいに撮れるようにしました。超広角もそうですし、インカメラも性能を底上げしています。
スピーカーは、ステレオ対応したことが1つありますが、それに伴ってボックス型のスピーカーを配置する形にしています。今までは、お値段や構造上スペースがなく、筐体自体を反響させるスピーカーにしていましたが、そこをもう一段進化させるため、ハイエンドモデルにも使われるボックス構造を採用しました。
ディスプレイは、今までも1Hzから90Hzの可変リフレッシュレートをやっていましたが、その最大値を120Hzとハイエンド並みに上げています。また、明るさもピーク輝度が2000ニトになり、日差しの下でも明るく見えるようになりました。
【訂正:2024年12月25日15時50分 初出時、AQUOS sense9の輝度に誤りがありました。おわびして訂正いたします。】
発表後、唯一ご指摘をいただているのは、3.5mmのイヤフォンジャック(がなくなったこと)です。もちろん、ニーズがあることは理解しつつも、ワイヤレスイヤフォンに移行している方が多く、端末のスペースなども総合的に考え、今回は省くことになりました。
―― デザインが大きく変わったように見えますが、中身も総入れ替えぐらいになっていますね。
清水氏 ごっそり変わっています。共通点はメインカメラぐらいではないでしょうか。
中江氏 デザインを変えるタイミングだったので、(過去モデルとの)基板の共通化ができない状態でした。そういう意味だと、変えられるタイミングだったということです。
―― 細かい話ですが、バイブレーションも振動が細かなものに変わっています。内部構造を見直す過程で、ここも入れ替えたのでしょうか。
清水氏 以前のバイブは、バインバインと大きく動くのがイマイチと言われていましたが、このクラスでも使い勝手を追求することにしました。
中江氏 ここはチャレンジせざるを得ない部分でした。バイブでいうと、ハードウェアの入れ替えに合わせて、ソフトウェアのチューニングも頑張っています。企画メンバーや開発メンバーが集まり、何パターンものセッティングを変えた実機を並べて、検討しました。感覚だけでなく、どのぐらいで勢いを上げて、どのぐらいでブレーキをかけたらいいのかということを数値的に分析し、味付けを変えたものを触ってどれがいいのかを決めていきました。
●ハイエンドモデルで培ったライカ画質のノウハウが生かされている
―― ここまで変えている一方で、オープンマーケット版は6万円を切っています(メモリ6GB/ストレージ128GBモデルの場合)。コスト的には大丈夫だったのでしょうか。
清水氏 確かに部品によってはお値段が上がっているところもありますが、そこは弊社の技術陣も頑張りました。工夫したのが他モデルとの共通化で、そこがうまくいっています。例えば、メインの広角カメラに関しては「AQUOS R9」と共通化されていますし、超広角カメラに関してはAQUOS R9だけでなくAQUOS R9 proまで全て同じものになります。ボリュームを出せると費用面や調達面で有利になるため、そういった工夫でコストダウンを図っています。もちろん、SoCが違うので画質は完全に同じになるわけではないのですが。
―― その画質ですが、AQUOS R9やR9 proと違い、sense9はライカ監修ではないですよね。それでも、以前のAQUOS senseに比べるとカメラも写りはかなりよくなっていると思います。
中江氏 ライカ画質とはなんぞや、というところですが、確かにAQUOS R9やR9 proはライカの評価を受け、ブラッシュアップされています。一方で、中で開発しているエンジニアは同じなので、そのノウハウはしっかり詰まっていて、ライカ画質に近い性能は出せています。承認を得ているわけではないのでライカ画質かというと違うのですが、カメラに関しては、AQUOS senseはもちろん、AQUOS wishにもライカと一緒にやってきた技術が下りてきています。
―― 上位モデルでやったことが、全体のプラスになっているということですね。
清水氏 そうなっています。手前みそですが、この数年でカメラの画質はぐっとよくなりました。
中江氏 画質はどんどんレベルが上がるというより、ある正解があって、そこにどれだけ近づけられるかの勝負です。正解を知っているのと知らないのでは、勝負の仕方が変わってきます。ライカと組むことで、ライカという正解をもって画質調整ができるからです。今までは、いろいろな人が見て、「こっちがいい」「いや、あっちがいい」とやっていましたが、そういったブレはなくなりました。チューニングしていく中で、はっきり答えが出せるのはめちゃくちゃ強いですね。
清水氏 その裏側では、弊社の社員もとにかく写真を撮りまくり、地味にチューニングしています。単にライカが見てくれただけではありません。僕も家では子どもの写真を撮りまくっています(笑)。
●ガジェット的な部分は残しながら品位を共通化している
―― ちょっと話は変わりますが、賛否両論あったという新しいデザインもAQUOS senseにはとても合っているような気がしました。ミッドレンジで誰でも持ちやすそうなところとか。
清水氏 良くも悪くもガジェット感がないですからね。機能を表現していたこれまでのAQUOSを気に入っていた方には、拒否感があるかもしれませんし、逆にAQUOS R9 proはそういうところを意識して、ガジェット的な部分は残しながら品位を共通化しています。
中江氏 AQUOS sense9では、バイカラーにも挑戦しました。遊び心があって、持っていて楽しく、ファッション的な感覚でケースを組み合わせることができます。そういった楽しみ方も含めて、日常的に使うアイテムとしての印象もつけられたかなと思っています。
清水氏 デザイン刷新後は、どういうシーンで使うのかというところから逆算して、形状やカラーを考えるアプローチを取っています。今までは、物自体がかっこいいか、きれいかというやり方でしたが、これだったら家具などのインテリアと合うか、ソファなどのファブリックと合うかということを考えています。
中江がファッションと申し上げましたが、AQUOS sense9は、どういう複数の方が選ぶのかというところも強く意識しました。ブルーであればジーンズやチノパンに無地のシャツ、もっと落ち着いたスーツのような服装であればベーシックなカラーというように、デザイナーが工夫しています。
―― ケースとも組み合わせられるようになっているんですよね。
清水氏 どの色にどの色のケースを組み合わせてもいいよう、バランスを考えて作っています。私が今手に持っている端末はブルーにグリーンのケースを着けていますが、この組み合わせもカメラ部分との相性がいいですよね。
―― なるほど。ここでバイカラーが生きてくるわけですね。
清水氏 はい。これまでは、カメラ部分が全て黒でした。コスト面ではそちらの方が有利ではありますが、そこにあえて色をつけることでこういった楽しみ方が生まれます。
―― 形状が丸みを帯びているところも、ユーザー層や使い方に合わせたのでしょうか。
清水氏 その通りです。よりカジュアルな使い方で、スマホにどっぷりつかっているわけではないお客さまをイメージしています。よりリアルな日常生活の中で、サッと出せて取り回しがしやすいことが求められるので、サイズも6.1型と今どきのスマホとして小さくなっています。角も丸くして、カバンから取り出す際に引っ掛かりにくい。ディスプレイとの兼ね合いもありますが、そういった考え方でよりカジュアルにしています。
―― 手当たりもいいですね。
中江氏 AQUOS sense9は手のひらサイズなので、特にそう感じるかもしれないですね。この辺は、コンセプトに合わせています。
清水氏 デザイントレンドもありますが、丸みを帯びさせようとすると内部に少し遊びが必要になるので、スペック上の数字との戦いになります。さらに限界まで電池容量を増やして9mmなり8.9mmなりに抑えたいとなると、ピチピチの形状になってしまいます。ここは毎回せめぎ合いにもなります。これは私の予想ですが、どのメーカーも同じように考え、最近はスペックを取ることの方が多いのではないでしょうか。
―― そんなAQUOS sense9ですが、発売してからの売れ行きはいかがですか。
中江氏 まだこれからのところもありますが、KDDIさん(の店頭)が販売先に入ったこともあり、初速はAQUOS sense8比で約1.5倍に伸びています。
清水氏 AQUOS sense8は、auがオンラインストアだけだったことや、販路でいうとソフトバンクの取り扱いがなかったこともあります。ソフトバンクは「AQUOS sense7」のときも、「AQUOS sense7 plus」だったので、無印のsenseを販売するのは「AQUOS sense5G」以来になります。
●AQUOS R9 proは「本当にカメラを作った」といえるインパクトを追求
―― 同時に発表されたAQUOS R9 proにも驚きました。AQUOS R9のときになかったので、今年(2024年)はてっきり見送ったのかと思っていました。デザインも機能も振り切っていますね。
中江氏 本当に振り切った感じにしました。勇気がいる決断ではありましたが、「本当にカメラを作った」と言われるぐらいのインパクトを突き詰めていったら、この形になりました。
清水氏 20万円ぐらいのスマホを誰が買うのか、ということもあります。これができたのはAQUOS R9の存在も大きく、ハイエンドの要素を持ったいわゆる普通のハイエンドスマホがあったので、その上の20万円のものはもっと振り切ることができました。スマホの可能性を先に進めるのが、フラグシップモデルの役割です。では、その次は何かというときに、今までやってきた1型センサーの資産を掛け合わせてカメラ超えを目指しました。デザインした三宅(一成)さんには、カメラコンセプトで提案をお願いしますと言ったところ、この形が出てきました。
中江氏 カメラリングの部分は、もっとスマホっぽくボカしたデザイン案もありました。ただ、それだと箱を開けた瞬間の驚きがない。一番のフラグシップは、「おっ」と思われる驚きが重要な要素だと思っているので、こちらに決まりました。
―― 競合だと、Xiaomiも「Xiaomi 14 Ultra」がカメラ風のデザインでした。発売タイミング的に見て、偶然重なってしまったのだと思いますが、やはりカメラ重視だとこうなるのでしょうか。
清水氏 デザイン上、横持ちが正解というのがパッと見で分かります。細かいところだとロゴの向きもそうですし、AQUOS R9 proは背面の左側面にデジタルカメラっぽい余白もあります。縦にすると左右非対称になるので、そちらを上にして横持ちするということが分かります。このパーツも、途中までアルミでパネルを作っているので段差ができ、内部構造的には難しくなるのですが、それをあえて加工しています。
また、カメラリングはダイヤカットされていますが、ここも使っているうちにつぶれてしまわないよう、平面を持たせてそこが接地するようになっています。AQUOS R9 proにはAQUOS R9とデザイン言語を一緒にしたサンプルもありましたが、やはり何かが違う。ガジェットが好きな方向けという役割のものなので、根底の考え方はキープしつつも、届ける方の違いをデザインで表しています。
―― 大型のシャッターキーがちゃんと付いているのは、AQUOS R9 proならではですね。
清水氏 ここのくぼみも、横持ちしたときに指が自然に当たるようにしています。半押しももちろんでき、ボリュームキーを使ったズームの調整もできます。この設定は変更もできます。個人的なお勧めは露出の調整で、ズームよりそちらにした方が使いやすいですね。
●初の「VARIO-SUMMICRON」レンズを搭載 65mmの望遠撮影をライカが推奨
―― レンズは、VARIO-SUMMICRONになっていますが、VARIOがついたのは初めてですよね。
清水氏 初めてです。他社にもVARIOとついているものはありますが、これはラテン語で複数という意味で、SUMMICRONレンズを複数持っているレンズシステムということです。1型をやってきた中でカメラを超えたいというコンセプトをお話ししましたが、ライカともそれはたくさん会話してきました。次はどういうものがあるべきかというときにライカから強力に推奨されたのが、65mmのテレになります。ポートレートは65mmが最高なので、間違いないと言われたことも、これを選んだ決め手になります。
ただ単に焦点距離だけを65mm相当にするのではなく、メインでポートレートを撮りたいとなるとやはり画質も必要なので、センサーサイズは1/1.56型にしており、メインのカメラとして十分使っていただけるものになっています。
―― これまでは1型のセンサー1つで切り出しやリモザイクで画角を変えていましたが、3つに分散したことの効果はありましたか。
清水氏 AQUOS R8 proまでは普通のスマホの中で、一番いいカメラを目指していたので、ここまでゴテゴテにはできませんでした。見た目も普通のスマホの範囲に収めなければいけないという、ある種バイアスのようなものがあったからです。その中で、1型センサーだけで全領域を撮るという提案をしていました。今回は振り切る方向にかじを切ったので、カメラとしていろいろな被写体を最高の画質で撮れるものが必要と考え、超広角と望遠を付けています。
中江氏 今までは、1型センサーを最大限活用したかったという思いもありました。光学性能はいいので、あらゆるシーンで使えるからです。しかしながら、やはり被写体と画角の関係を考えたとき、普通の一眼カメラでもレンズを変えますよね。さまざまなものが被写体になるので、1つのカメラだけだとやはり厳しい。最適な状態で撮れることを目指すと、おのずとこの構成になりました。
―― 望遠は切り出しよりも解像感も上がるのでしょうか。
清水氏 1型からクロップよりも、1/1.56型をそのまま使った方が高くなります。
中江氏 レンズの影響もあります。1型をさまざまなところに使おうとすると、ゆがみや周辺減光でやはり無理をしてしまう。その意味では、広角の1型をよりいい状態で使えることにもなって、よかったと思います。
―― なるほど。広角なら広角で決め込んでレンズを作った方がいいということですね。
中江氏 はい。1型で超広角も標準もとやっていくと、超広角側に合わせて無理をした設計になってしまいます。
●あえてノイズを「消しすぎない」ことで雰囲気のある写りに
―― ちなみに、同じライカモデルでも、Xiaomiはフィルターを載せるなどして、UI(ユーザーインタフェース)の中にもライカという固有名詞をちりばめているような印象を受けます。AQUOS R9 proには、そういったフィルターがありません。
清水氏 そこの考え方は、悩むところです。ただ、われわれはライカと一緒にやっているので、AQUOSのカメラがいいと思っていただきたい。ライカを前に出せば出すほど自分たちのブランドが埋もれていくので、今のような形でバランスを取っています。一方で、ライカのイメージがつきやすいのも確かなので、他社のやり方もうまいとは思います。
中江氏 先ほどお話ししたAQUOS sense9はライカの認証を取っていませんが、絵作りに関しては同じように作っているといえます。(フラグシップモデルで)全面的にライカを押し出していないからこそ、そういった印象を持ってもらえる側面はあります。ライカモデルはいいよね、となってしまうと、逆にライカがないAQUOSは今までと同じと思われてしまう。それはもったいないですよね。せっかく協業してわれわれの技術力も上がっているので、それがいろいろなところに反映される方がいいという判断です。
―― よりライカの世界観を楽しみたい人には、Leitz Phoneもありますね。
清水氏 おっしゃるように、ライカのファンの中にはLeitz Phoneを選ぶ方もいます。
―― とはいえ、やはりライカと協業した端末で写真を撮ると、すごく雰囲気のある写真が撮れます。この雰囲気の正体は何なのでしょうか。
中江氏 恐らくですが、ノイズを消しすぎていないからだと思います。スマホで撮る写真は、きれいに撮ろうとしてノイズを消し、はっきりさせた絵が多い。一方で、ライカは写実的で、空気すらも撮影したというぐらい、ありのままになります。そのときにやっているのが、ノイズを消しすぎないことです。一見すると粗っぽい部分が残るように見えるかもしれませんが、ノイズを消すと、その分だけディテールも失われていきます。
●プロセッサにSnapdragon 8s Gen 3を選択した理由
―― 今回、プロセッサは「Snapdragon 8s Gen 3」です。フラグシップモデルだと、「s」がつかない「Snapdragon 8 Gen 3」も多いですが、なぜこれを選択したのでしょうか。
中江氏 「Snapdragon 8 Elite」も出ている中では、他にも上位のプロセッサはあります。ただ、パフォーマンスが出ないというユーザーの不満は既にだいぶ減っています。一方で、カメラはもっときれいに撮りたいというニーズはある。パフォーマンスとカメラ性能を2軸で考えたとき、Snapdragon 8s Gen 3はCPU性能が少し落ちる一方でISP(Image Signal Processor)は強化されていて、十分な性能が出ます。当然、コスト的な問題もあります。いくらフラグシップでも、めちゃくちゃ値段が上がりすぎてしまうのはよくない。その全てのバランスを考えると、今回の選択はベストだったと思っています。
実際、Snapdragon 8 Eliteがないと動かないものがあるとすると、世の中のほとんどのスマホで動かなくなってしまいます。そのユースケースが加速度的に広がるかというと、なかなか難しい。Snapdragon 8 EliteはCPUにOryonを使っていて、パフォーマンスと省電力のバランスが取れているのでモバイルにも使いやすいのですが、あれがないとどうにもならないというシーンはまだまだ少ない。そこにコストを投入するよりも、今使えるパフォーマンスとしてカメラ性能を上げていくことが必要だと考えました。
ただし、今後も同じかというとそうではありません。それがあることによって、ユースケースやユーザー体験が変わる瞬間は必ず出てきます。技術の進化でコンテンツも進化していくので、生成AIなどの動向も見ながら最適なSoCを選び続けなければいけないと考えています。
●技術からの提案で、カメラリングにマグネットでアタッチメントを装着
―― 販路に関しては、キャリア版としてドコモのモデルがあり、あとはオープンマーケット版だと思います。KDDIの「au +1 collection」もこれと同じと考えていいでしょうか。
清水氏 そうなります。KDDIさんには、オープンマーケット版とまったく同じものを取り扱っていただく形です。
中江氏 X(旧Twitter)などでも、auから出ないのかというお声はいただいていました。au +1 collectionはアクセサリー的な扱いではありますが、取り扱っていただけたのはよかったと思います。やはり日本市場においては大きな販路ですからね。
―― シャープ直販の「COCORO STORE」で買う人も増えているのでしょうか。
中江氏 その動きは大きいですね。最上位モデルのAQUOSを買ってくださる方は、他のAQUOSも使っていることが多い。そういう方は、COCORO STOREを使う傾向があります。一方で、各キャリアやIIJmioで買う方は、AQUOSをスマホの1つと見ているので、少しだけ層が違うような気もします。
―― 周辺機器も工夫されていると思います。カメラリングにアタッチメントを付けられるのは面白いですね。
中江氏 こういうものを作れると言ったら、乗ってきたのがエレコムさんとLooCoさんでした。AQUOS R9 proの設計をするときに、リングの部分がステンレスになっているので、レンズフィルターをじか付けしたいというところから企画が始まっています。
―― そこは、最初からフィルターを付ける前提だったんですね。
中江氏 技術メンバーからのアイデアです。今までだとケースがあって、そこにねじ止めするような感じでしたが、今回はカメラだよねというところからスタートしているので、じかに付けてしまおうと無邪気な発想から始まりました。ただ、この位置にマグネットをつけるのは正気ではないと思います(笑)。
清水氏 普通だと、地磁気センサーもジャイロも狂ってしまいますからね(笑)。作る側もワクワクしながらやっていたのがよかったです。
―― その干渉は解決できたのでしょうか。
清水氏 しました。ちなみに、この機種はQi対応ですが、通常だとQiも狂ってしまいます。ですが、微妙な位置調整をして解決しました。
中江氏 内部でもノイズが発生しないよう、保護をしています。
●オープンマーケット版は「海外のニーズ」を鑑みてシャッター音を消せるように
―― ちなみに、オープンマーケット版はシャッター音を消せるのでしょうか。
中江氏 シャッター音はなかなか扱いが難しく、われわれも全面的に押しているわけではありませんが、事実としては消せます。
清水氏 海外のニーズから来ている部分はあります。一方でキャリア版はキャリアからの要求があるのも事実です。
中江氏 人間の善意に委ねている部分はありますが、寝ている子どもを起こさずに撮れるというメリットはありますね。
清水氏 静かな飲食店での撮影もしやすくなります。われわれも(シャッター音を消せるようにしてほしい)という声があることは認識していますが、今回はその声に応えたというより、海外展開を意識しての仕様になります。
●取材を終えて:AQUOS R9の刷新がAQUOS sense9とAQUOS R9 proにも生きている
AQUOSシリーズ全体のデザインを見直したことで、AQUOS sense9はその外観だけでなく、設計も大きく変更することができた。スペックを大幅に底上げできた背景には、こうした事情もあった。コストアップにつながりそうだが、上位モデルなどとのパーツの共通化で価格は抑えており、競争力をさらに高めることができた格好だ。その結果が、好調な初速に結びついている。
対するAQUOS R9 proも、普通のハイエンドモデルとしてのAQUOS R9があったことで、より大胆なモデルチェンジを断行できたといえる。カメラ機能を強化したのはもちろん、デザインもカメラライクになり、ガジェットを好むフラグシップモデルのユーザー層によりフィットする端末に仕上がった。2機種とも、AQOUS R9でデザインやコンセプトを刷新した好影響が出ている。その意味で、2024年のモデルチェンジは成功だったといえそうだ。