2024年のモバイル端末カメラといえばXiaomi 14 Ultraが話題を席巻していたように思いますが、私はようやく「写真」が評価されはじめたなと感じました。
Xiaomi 14 Ultraのいいところは、極めて自然な写りをするところにあると思います。一時期のスマホカメラはSNSを意識してか、いかに鮮やでHDRが効いた絵が撮れるかにフォーカスしていました。しかしXiaomi 14 Ultraは明るいところは明るく、暗いところは暗く、色は極端に誇張されることはなく素直に映り、撮影時も、ポストプロダクションにおいても撮影者の意思が介在する余地があるのがよいのだという思想を感じられました。ライカとの共同開発のたまものでしょうか。
本来、写真とはレンズを通して光を集める行為であり、被写体と向き合う過程の中でどのように撮影者の思いを表現できるのかを考えながら向き合うものなのではないか。それに対して最近のスマホカメラはAIだの自動補正だの便利な機能が多く、撮影者の意思が介在しない無味乾燥で画一的なのではないか、最近はそんなことを考えていました。少しおじさんっぽいでしょうか? まだ20代なんですけどね……。
そんな思いが半分、もう半分は「Pentax 17」や「Rollei 35 AF」などの新製品が出てフィルムがロストテクノロジーになる流れが変わりそうだからで、フィルムカメラを始めてみてもいいかもしれないと考えていたところ、ひょんなことから初代のチェキ「instax mini 10」を入手しました。
●撮るまでが大変だったチェキ!
きっかけは実家の大掃除。棚の奥から出てきたのがOLYMPUSのフィルムカメラと期限切れから10年以上たったKodakのフィルムと、このinstax mini 10でした。
残念ながらOLYMPUSのカメラはレンズのモーターが完全に壊れており使い物にならなさそうでしたが、instaxの方は電池を交換してみるとなんと動くではありませんか! バッテリー式ではなく電池式であることに感謝しつつ、2024年後半から使ってみることにしました。instax mini 10は1998年製と私と同い年。そんなカメラと約20年ぶりの共演です。
いよいよ撮ってみようとして、まず直面したのがフィルム不足。
特にチェキはアイドル需要が激しく、どのお店に行っても在庫がない、在庫がない、在庫がない……!
インターネットでは転売価格ばかり。そりゃあ定価で1枚約80円のチェキが1枚1000円で売れるもんですから転売価格でも買うんでしょうね。チクショウいい商売しあがって。おかげで北欧旅行までにフィルム調達間に合わなかったぞ。
転売価格で買うのは自身の流儀に反するので粘ること数週間、結局何件かお店を回ってやっと定価のフィルムを入手できました。転売屋に情報をあげたくないのでどこで購入したかは秘密ですが、アイドルが少ない街の大手のカメラ屋さんなんかは在庫がある確率が高かった気がします。あと中規模のカメラ専門店でも購入制限付きで置いてあるところが多いです。
●チェキでできること、できないこと
確実にフィルムを入手できるようになってからは旅に出る・友人と会うといったシーンで持ち出して、某西新宿のカメラ屋さんで聞いた「フィルムは湯水のように使うものですよ」という言葉を真に受けて気軽に使うようにしていました。過去の記録から何枚か写真を紹介しましょう。
最もよく使い、よく映るのはやはり人物撮影です。友達や家族との思い出の場でチェキは大人気、その場でじわじわと写真が浮かび上がってくる体験はやはり強烈で、スマホで撮ってLINEで送る以上の思い出になります。現像液が入っていたいわゆるホワイトベゼルにサインをして記録にするのもいい思い出になるし、連絡先を記載してそのまま相手に渡すのも乙ですね。
現物が出てくるのが他のフィルムカメラにはないチェキのいいところなので、ぜひ活用したいポイントです。私は旅先での出会いで積極的に配っていました。
人物撮影では基本的にストロボを使うので、できる限りカメラから同じ距離に並ぶのがコツです。前後の距離差があると顔の明るさが全然違う結果になります。
なお、これは顔だけでなく背景に関しても同じことが言えます。明暗差が激しいと思ったよりも黒つぶれしてしまい何を撮ったか分からないようなシーンも多々発生しますね。
意外と面白いのが風景写真です。極端な明暗差なければ空の青・紅葉の赤が鮮やかに映ります。
ただし、明け方・宵の頃は少し難しいですね。白飛び黒つぶれが目立つので、仕上がりをイメージしてうまく構図を選ぶ必要があります。
スナップで使うのもなかなか面白いです。初めこそ1枚80円をスナップで使うのか、と抵抗感がありましたが、いざ撮ってみるといい写真が撮れる! チェキの画角は35mm換算で33mm程度(スマホでいうと1.5倍ズームぐらい)なので、風景を入れたスナップとしては最適な画角です。加えてフィルムらしい素直な映りをします。解像度は微妙ですが、明るいところは明るく、暗いところは暗く、色味も過度に誇張されずフィルムにありがちな色被りもないです。
夜景ははっきりいってほぼ無理です。最新機種は、シャッターを長時間開きながら撮影ができる「バルブモード」が搭載されているため、光の軌跡を撮ることが可能なようですが、初代チェキにはそのような機能はありません。明るいところを選び、暗いところは黒つぶれする前提で撮ってみると案外面白いものが撮れるかもしれませんが、ストロボの光度も考慮する必要があり非常に難しいです。
苦難があったのが飛行機に乗るとき。フィルムは手荷物検査のX線に感光してしまうためHand Checkが推奨されていますが、その過程で羽田空港も地方空港も100%試写を要求されました。空港に行く前はフィルムを空にしておくか、保安検査所で思い出になりそうな写真を撮る用意をしておく必要があります。
●最新のinstaxの機能に触れる スマホへの取り込みも可能
後続機種のinstaxではストロボの強制オフ、最短0.3mの近接撮影、10秒セルフタイマー、二重露光といった機能が搭載されているようで、撮影の幅がより広がります。
実はinstaxにハマったことで、秋向けコーデアイテムという意味も込めて上記機能を持つLeica Sofortの初期モデルの中古品を購入したのですが、こちらは初期不良ですぐに返品してしまいました。ですので、これらの機能はまたどこかで紹介できればと思います。
最新のinstax mini 99ではこれらに加えて絞りによるビネットモードや人工的な光漏れによるカラーエフェクトコントロールが可能になっています。デジタル処理ではなくアナログでこれを実現しているところはまさに変態的!(褒めています)
興味がある人はぜひともその開発秘話をご覧になってください。実機レビューは本誌おなじみ荻窪さんがしておりますのでこちらも必見です。
撮れたチェキの写真はそのまま保管することも可能ですが、富士フイルム公式が提供するアプリ「Instax UP!」でスキャンと管理が可能です。
スマホカメラで写真をスキャンすることでスマホへの取り込みが可能です。チェキの四隅をスキャンすることで反射を低減してスキャンすることも可能で意外と使いやすいです。何枚かスキャンしてみましたが、どうしても画質が低下します。手軽さとのトレードオフですね。できるだけ明るい場所で、暗い背景でスキャンするのがコツです。
また、このように無造作に広げたギャラリーチックで表示できる機能がなかなか面白いです。そのまま切り抜きシェアする機能もあるので友人へのシェアもでき、この機能はうれしい人も多いのではないでしょうか。
●写真とは何なのかを考えさせられた一台
2024年買ってよかったものを紹介するというお題に対して、(正確には買ったものではないものの)私の答えはinstaxになるかなぁと思っています。
フィルムを装填(そうてん)してシャッターを切るたびに取り返しのつかない一期一会の緊張感がある感覚。ISPもAIもなく、単純に光の読みが求められるフィルム写真はデジタルカメラの気軽さとは対照的に、慎重な観察と深い思考が求められます。チェキでそこまで? と思うかもしれませんが、チェキであってもそのような気持ちにさせられるのです。
写真とは何なのか、それを知るためにいま一度フィルムへの立ち返りをしてみてもいいかもしれない。実家から出てきたinstaxはそんなことを感じさせられたきっかけの一台になりました。