総務省は1月22日、インターネット上で広がる偽・誤情報や誹謗(ひぼう)中傷への対策を強化するため、新プロジェクト「DIGITAL POSITIVE ACTION」(以下、DPA)を立ち上げた。
プラットフォーム事業者や通信キャリア、IT企業・関連団体など計19の企業・団体が参加し、官民連携によるICTリテラシー向上と偽情報対策の一層の推進を目指す。
●公式Webサイトと会議体を中核に
DPAでは、まず参画企業の取り組みを集約して紹介する公式Webサイトを運営し、2月11日の「セーファーインターネットデー」に向けて各社の事例や啓発教材を充実させる方針だ。
また、総務省が事務局を務める会議体を設け、プラットフォーム事業者や通信キャリアが連携策を検討する場として機能させる。慶應義塾大学大学院法務研究科教授(憲法学・情報法学)の山本龍彦氏がDPAの会長を務める。
山本氏は「表現の自由を守りつつ、社会を混乱させる偽・誤情報を抑えるには、利用者の意識を変えると同時に、プラットフォーム側でも情報拡散を制限する仕組みづくりが欠かせない」と強調している。
川崎ひでと総務大臣政務官は「制度や技術面の対応だけでなく、災害や選挙など緊急度の高い場面でも正確な情報が届くよう、世代ごとの普及啓発を官民で進めることが重要だ」と述べており、ICTリテラシーを高めるための啓発活動やセミナーなども積極的に行う考えだ。
●プラットフォーム各社が進める具体的な取り組み
DPAには、Google、Meta(Facebook/Instagram)、TikTok Japan、X(旧Twitter)、LINEヤフーなどの主要プラットフォーム企業が参画している。
それぞれの企業は、偽情報拡散への対策やコンテンツモデレーションを独自に強化している。DPAの情報ハブとなるWebサイトでは、こうした各社の取り組みも紹介していく方針だ。
Googleでは、検索やYouTubeで「ファクトチェックラベル」や「情報パネル」を拡充し、公的機関など信頼性の高い情報を優先的に提示するようアルゴリズムを改良している。
FacebookやInstagramを運営するMetaは、外部のファクトチェック機関と連携し、誤情報と判断した投稿には警告を表示して拡散を抑制。AIによるモニタリングも導入し、違法・有害なコンテンツを早期に検知する仕組みを整備している。
TikTok Japanは「AIと人力モデレーションを組み合わせた監視の他、クリエイター向けの“デマ対策ワークショップ”を開催している」と説明し、虚偽コンテンツを早期に把握・削除できる運用体制を整備している。
X(旧Twitter)は「コミュニティノート」機能を強化し、ユーザー同士が投稿内容に注釈を付けることで、誤情報を補足・訂正しやすくする仕組みを目指している。
LINEヤフーは、メディアサービスと投稿型プラットフォーム双方で審査基準を厳格化し、「詐欺広告や誤情報を早期に検知して対処する体制を構築する」方針を打ち出している。
●通信キャリアも幅広い世代向け対策を推進
KDDI、NTTドコモ、ソフトバンク、楽天モバイルといった通信キャリアも、子どもから高齢者まで幅広い世代がインターネットを安全に利用できるような環境づくりに取り組む。フィルタリング機能の普及啓発や、学校・家庭での利用を想定したICTリテラシー教材の整備など、それぞれが実情に応じた対策を強化している。
●会議体で横断的な連携を図る
DPAの枠組みで参画企業・団体の連携を深める場として、総務省が事務局を担う会議体を開設する。ここでは各社が実施している施策や課題を共有しながら、「(事業者が)何が大事かを考え、どんな工夫をすれば利用者が正確な情報にたどり着きやすくなるかを一緒に議論してもらう」(総務省の吉田弘毅企画官)形を想定している。
DPAは新たな法人を設立するわけではなく、官民の協力関係を築くためのプロジェクトとして運営される。1月22日には先行Webサイトを公開しており、2月11日の「セーファー・インターネットデー」までに各社の取り組み紹介や啓発教材をさらに拡充する予定だ。
吉田企画官は「(あくまで会議体をベースに)参画企業の自主的な取り組みを促し、今後のイベントやシンポジウムなども通じて連携を強化していく見込みです」と述べ、複数年にわたってICTリテラシーの底上げと偽情報拡散防止を図る考えを示している。