スマートフォンのカメラで撮影をする際に避けて通れないのが「シャッター音」。特に、静かな場所で撮影をする際に、カシャッという音が鳴ると、気になるという人は多いだろう。一方、海外ではシャッター音が鳴らないケースが大半だ。そもそも、なぜ日本のスマホはシャッター音が鳴るのか。今回はキャリアへの聞き取りやアンケート調査の結果をもとに、シャッター音問題について考察する。
●スマホのシャッター音が鳴る理由とは? キャリアに聞いてみた
日本では2000年に発売された最初期のカメラ付き携帯電話「J-SH04」(シャープ製)では、既にシャッター音が鳴り、利用者が消せない仕様となっていた。理由は、携帯電話のような小型カメラでの「盗撮行為」を防ぐためとしている。
日本において携帯電話のカメラのシャッター音は法令、都道府県条例による規制もなければ、業界団体からの仕様の規定もない。極端な話、今すぐにでもシャッター音なしにできる。あくまで通信キャリア、メーカー間の“自主規制”として取り入れている。
それでは、シャッター音をオフにできない理由は何だろうか。今回はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4キャリアに「シャッター音が鳴る理由」と「シャッター音をオフにできない理由」の2点について聞き取りを行った。その結果、下記のような回答をいただいた。
ドコモ
・シャッター音が鳴る理由「盗撮抑止を目的に、シャッター音が鳴る設定としております」
・シャッター音をオフにできない理由「搭載目的を鑑み、ユーザーにて変更ができない仕様にしております」
KDDI
・シャッター音が鳴る理由「端末メーカー様と協議のうえ、盗撮防止を目的にシャッター音が鳴る仕様としております」
ソフトバンク
・シャッター音が鳴る理由「カメラのシャッター音については、盗撮行為が迷惑防止条例の対象にもあることから、キャリアの自主規制で音が鳴動するように、移動機メーカー様に依頼しております。なお、iPhoneについてはAppleの判断になりますため、Appleにお問い合わせください」
・シャッター音をオフにできない理由「盗撮防止が目的のため、利用者での設定変更ができません」
楽天モバイル
・シャッター音が鳴る理由「弊社で販売している製品は、盗撮行為をはじめとする迷惑行為の防止やプライバシー保護を目的として、撮影時にシャッター音が鳴る仕様となっております」
・シャッター音をオフにできない理由「また、安全性を担保するため、一部製品を除いてお客さまご自身でシャッター音の設定を変更することはできなくなっております」
大手キャリアは販売しているスマートフォンに対し、共通して「盗撮防止」を理由にシャッター音が鳴り、搭載目的から利用者が消せない状態にしていると回答した。これが「自主規制」として、20年以上慣例的に続いている。また、ソフトバンクの回答にあるように、各都道府県の迷惑防止条例に配慮するためという側面もあるようだ。
ここで視点を広げてみよう。世界的に見るとスマートフォンのシャッター音は「オフの設定」にできる国や地域が大半だ。iPhoneなどの人気機種では、この機能を求めてあえて海外から輸入して使うユーザーもいるほど関心は高い。
事実、スマートフォンのシャッター音について、自主規制で鳴らす設定の日本を除き、具体的に規定されている地域は韓国のみ。世界的にもシャッター音がほぼ強制されているのはこの2カ国しかない。
韓国では2004年に通信キャリアやメーカーなどによる業界団体の韓国情報通信技術協会の基準案をもとに、韓国情報通信部(当時)がルールを規定。内容は携帯電話のシャッター音を利用者が任意でオフにできないこと、シャッター音を鳴らす音量レベルなどが規定されている。
規定の背景は「盗撮行為の防止」となっており、ここは日本と同様だ。韓国の規定もあくまで業界内の共通ルールとしており、これに違反をしたところで法的な拘束力はないとしている。
●スマホのシャッター音、日韓共に「オフの設定」を求める声が多数派に
盗撮行為の防止を背景に設定されたシャッター音。その一方で改善を求めることは多い。ITmedia Mobileが読者向けに行った「スマートフォンのシャッター音」についてのアンケートでは75%が「シャッター音は不要」、90%が「オフの設定が欲しい」の回答だった。
このアンケート結果にはSNS上でも賛否両論のコメントが多く寄せられており、日本におけるスマートフォンのシャッター音というテーマが高い関心を示している。
同じような境遇の韓国でも2023年に政府機関の国民権益委員会が「携帯電話のシャッター音」についてアンケート調査を行っている。こちらも「シャッター音を自分で設定できる(オフの設定)が欲しい」という回答が約85%を占めた。
シャッター音を鳴らしてほしくない理由として、両国のアンケート共に「耳障り」という意見が多い。小さい子供やペットを撮影する際にシャッター音を理由に撮影機会を逃す、静かな環境で音を鳴らしてしまい、場の雰囲気を悪くしてしまうという意見が多かった。
この他、静かな場面でシャッター音が鳴ると「気になる」「集中力が削がれる」といった意見も確認できた。
また、盗撮防止というキャリアが挙げた目的についても、「規制が意味をなしていない」という意見が両国のアンケートで指摘された。理由として、対策しても「シャッター音の鳴らない“無音カメラアプリ”などが悪用される」「海外から持ち込まれた端末には関係ない」といった利用者側のモラルの問題視する意見がみられた。
この無音カメラアプリが盗撮行為に悪用される点について日本経済新聞も指摘しており、シャッター音の自主規制が形骸化するのではないかと危惧している。
もちろん、シャッター音を「鳴らしてほしい」という意見も10%ほどあり、こちらも両国でおおむね同様の割合、意見内容だ。どちらも「撮影した際、された際に分かりやすいから」「盗撮行為防止として機能しているから」「盗撮行為への抑止力になるから」という意見が多く、シャッター音も一定数求められていることが現状だ。
●シャッター音を強制する仕様にも少しずつ変化が
このようなスマートフォンにてシャッター音が強制的に鳴る仕様も、日本では少しずつ変わり始めている。特に通信キャリアを介さないオープンマーケット(SIMロックフリー市場)では、一部機種でシャッター音を鳴らない設定にすることが可能だ。
この流れは広がりつつあり、2024年には日本市場で長らく商品展開を行うソニー、シャープのスマートフォンでも、オープンマーケット向けに販売される機種はシャッター音をオフにすることができる。
これについてシャープは「海外展開を意識して、シャッター音をオフにできる仕様にしている」とインタビューで語っており、海外市場のニーズもくみ取った仕様としている。その一方でキャリア向け商品は、通信キャリア各社の要望に応える仕様とした。
日本以外にグローバル展開する海外メーカーも同様だ。日本で商品展開を行うXiaomiでは、オープンマーケット向けの商品についてXiaomi Japan広報は「日本と韓国以外の地域の設定にすると、カメラの設定にオンオフの切り替えスイッチが表示される」としており、利用者が任意でシャッター音をオフにできる。
さらに、日本と韓国以外の地域に設定すると「シャッター音が小さくなる」とのこと。これは明確な音量の規定がある韓国に合わせた仕様と思われる。
興味深いのは、ソフトバンクの回答にあった「iPhoneについてはAppleの判断になる」という点。このことから、iPhoneは通信キャリアの自主規制の外にいるものと考えられる。
仮に「市場ニーズがあった」として、Appleが日本向けiPhoneのシャッター音をオフにできるよう、ソフトウェアアップデートなどで仕様変更したとする。この場合、ソフトバンクの回答通りなら法的拘束力のない自主規制を強制することはできず、Appleの判断に従うといっているようなものだ。
現に日本向けのiPhoneも韓国を除く地域で、現地SIMの使用や国際ローミング海外の通信キャリアの電波をつかむ状況では、シャッター音をオフにできるような仕様にOSアップデートで変更されている。
このアップデートは韓国も同様であり、現地メディアの朝鮮日報も、世界シェアの大きいメーカーがソフトウェア更新でシャッター音に干渉できるため、場合によっては「国内の規定が意味をなさなくなるのでは」と指摘している。
防犯という意味では効果や抑止力があると思われるスマホカメラのシャッター音。一方、アンケート結果から多くの利用者が、必要に応じてシャッター音をオフにできる設定を求めていることも分かる。
同じく携帯電話のシャッター音が規定されている韓国では、 前述のアンケート調査の結果をもとに、業界団体へ規定の見直しを働きかける動きも見られる。
日本で携帯電話のシャッター音が自主規制によって規定されてから、間もなく4半世紀が経過する。25年もたてば携帯電話もスマートフォンが大半となり、利用者の声も含め自主規制が始まった頃と状況は大きく変わってきている。
そろそろスマートフォンのシャッター音に関して、日本でも見直しを議論すべきタイミングなのではないだろうか。
●著者プロフィール
佐藤颯
生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。
スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。
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