楽天モバイルが、法人向けの生成サービス「Rakuten AI for Business」を発表し、1月29日に提供を開始した。1IDにつき月額1100円(10万字まで)で、1カ月の無料トライアルが可能。特に中堅、中小企業のAI導入による効率化、DX化などを推進したい考えで、楽天モバイルの三木谷浩史会長は、「あらゆる企業に楽天のAIを提供していく」とアピールした。
●楽天が使うRakuten AIを全ての企業に提供
楽天グループはAI事業への注力を進めている。2024年1月には、AI目標として「トリプル20」を掲げ、楽天におけるマーケティング効率、オペレーション効率、クライアント効率を、それぞれAIを活用することで20%増加させることを目指す。
2024年内で10%までの効率化は実現していると三木谷氏。2025年はこれに加え、AIを使って楽天モバイルの基地局やデータセンターの電力消費を20%削減する計画になっているという。
さらに、楽天市場の店舗、楽天モバイルの法人顧客における業務の効率も20%上げられるようにサービスを提供していく考えだ。
楽天グループは、2024年2月にはOpenAIと協業を開始。ChatGPTをベースに独自開発のLLMなども併用したRakuten AIを開発して、さまざまな分野でAIを活用して業務改善につなげていると三木谷氏は言う。楽天市場では、商品検索において検索語に当てはまる商品がなくても、単語の意味や背景を理解して検索結果を返すセマンティック検索を提供しており、商品購入が最大5.3%向上したという。
商品のレコメンデーションでは、楽天市場など7サービスでAIを活用したセマンティックレコメンデーションを提供。最大59%の改善になった。広告事業でもより関連性の高い広告表示になったことで4%の改善になっているそうだ。
こうしたAIの活用に続いて、楽天モバイルユーザー向けのRakuten Linkアプリ上で無料の生成AIが活用できるRakuten Link AIを提供。三木谷氏も使っているという機能で、好評だという。楽天社内の利用はさらに拡大して、「ほとんどの社員」(三木谷氏)という3万人以上がRakuten AIを活用。毎日使う社員は8000人を超えた。
これまでは楽天社内や楽天サービス向けのAIの活用だったが、2025年は楽天モバイルの法人ユーザーなど、楽天社外の全ての企業に対してAIサービスを提供していく。それが「Rakuten AI for Business」だ。
●月額1100円の低コストで導入 PCやスマホからブラウザベースで利用できる
楽天モバイルは、2023年1月30日に法人ビジネスの本格提供を開始した。この2年間で1.8万の法人契約を獲得。さまざまな法人向けソリューションも提供してきた。
3年目となる2025年は、「大きな法人ビジネスの飛躍の年にしたい」と楽天モバイル代表取締役共同CEOの鈴木和洋氏は言う。その飛躍につなげるサービスとしてAIサービスを提供する。「一部の大企業だけでなく、あらゆる企業にAIを使ってDXをしてほしい」と鈴木氏はアピールする。
これまでも多くの企業が事業に生成AIの導入を模索してきた。ところが導入には多額のコストや時間、ノウハウが必要とハードルが高く、セキュリティ機能や管理機能などの法人向け機能が不足していた。さらに、導入しても社内で活用されてないという声も多かったという。
こうした課題に対して、Rakuten AI for Businessではパッケージのため短期間かつ低コストで導入でき、セキュリティ設定や業務で使いやすい豊富なテンプレートなどの法人向け環境を充実させた。さらに、楽天自身が社内でAIを1年以上使ってきたことから得られたノウハウや知見をベースにした研修やコンサルティングも提供する。
Webブラウザベースでサービスを提供するため、個別の環境構築が不要で、PCやスマートフォンなど環境を問わず利用できる。初期費用はなく、利用するユーザーごとに月額1100円で利用できる。月額料金では10万字のプロンプトとその応答までが含まれており、それ以上の利用の場合は1000文字あたり10円の従量課金となる。
●入力情報は学習に使わず メールや資料の作成時間を削減した効果も
法人向け機能としては、「特におすすめ」(鈴木氏)なのがプロンプトテンプレート。生成AIに指示するプロンプトは慣れが必要で、生成AIの使用を控えられる原因にもなりかねない。そこで営業や企画など、業種別によく使うような内容をテンプレート化して提供。効率的にAIを利用できるようにした。
管理者がNGワードを設定すること、利用状況を可視化する利用状況ダッシュボードも提供。さらに社内ドキュメント連携機能(RAG)を提供。ファイルをアップロードすることで連携できるようになっている。
法人向けのセキュア環境では、入力情報はトレーニングに使用せず、外部に共有されることもないと明言。プロンプトの履歴やアップロードしたファイルは国内に設置されたサーバに保存される。OpenAIのChatGPT-4oがベースとなっているため、発生した問い合わせとその返答はOpenAIのサーバを経由するが、履歴は保管されないという。
実際に社内でRakuten AIを使ったところ、ビジネスメール作成時間は54%削減され、営業資料作成時間は48%削減されたという。三木谷氏は、この時間を100%削減したいという意向だと言うが、「そこまではまだできていない」と鈴木氏。いずれにしてもAIとプロンプトを利用することで大幅に業務効率化ができるとアピールする。
コンサルタントなどの導入、活用支援では、楽天自身がAIの導入、活用で得られたノウハウなどを提供。部門ごとに設定するKPIやどのような話し合いが必要かといったアドバイスのような支援を行うという。
既に複数の企業、団体がトライアルに参加しており、「AIを使えなければ生き残れないようになってきている。特に中堅・中小企業においてAIを活用して、さらにDXをして成長の伸び代があるのでは」と鈴木氏は強調し、AI活用のメリットをアピールする。
●楽天モバイルの回線とセットで提案していく
サービスとしては楽天モバイルの法人向け回線契約は不要だが、「楽天モバイルの高速/低価格/高品質のネットワークの上で動くからこそRakuten AIは価値を生むと考えているので、楽天モバイルとして回線と一緒に提案していく」と鈴木氏。
さらに、よりセキュアな環境が必要だったり、社内システムなどと連携をしたり、個別のカスタマイズが必要だったりする場合は別途追加料金で提供を行う。まずは低価格でRakuten AI for Businessを広げて、必要な企業にはカスタマイズを提供することで、回線とセットでアップセルの収益化を目指す。
「一般的な形で料金を設定して幅広く公平にプログラムとして(AIサービスを)提供するのは4キャリアで初めてではないか」と鈴木氏。2025年はRakuten AIの拡大の年として、法人向けに加えてコンシューマー向けのRakuten AIをさらに拡大して提供していきたい考えだ。