既報の通り、総務省が2024年12月26日、「電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドライン」を改定した。
今回の改定で注目すべきポイントは、端末の返却で分割払い(割賦)の残額支払いを免除する「端末購入プログラム」における「買い取り予想価格」の算定厳格化だ。
改定前は、残価設定型24回払いの残価を高額にする(NTTドコモ/au)、あるいは48回分割払いの25回目以降の支払い額を多くする(ソフトバンク)という手法で最新機種でも「月々1円(2年間で24円)で使える」というキャンペーンを実施する光景が見受けられた。2年目が終わるタイミングでの端末の返却を前提としているものの、とりあえず最新機種を安く使いたいユーザーに対する選択肢として有効に機能していた。
また、この手法は残価または25回目以降の支払い額が高めに設定されているため、以前の「一括0円」とは異なり、短期間でMNPを繰り返して過剰に割引を受けたり、購入した端末をすぐに売り飛ばして利益を得たりといった「利用目的のない契約」を抑止できる点では有効だった。
一方で、この手法はキャリアによる端末の下取り(回収)が前提で、下取りに出さなかった場合はさらに2年間(24カ月間)の支払いが継続することになるため、比較的新しい機種が中古端末市場に出回らないという別の問題を引き起こすという指摘がなされていた。買い取り予想価格の算定厳格化は、それを踏まえて盛り込まれた。
今回のガイドライン改定では、「5Gのミリ波(28GHz帯)対応端末への割引増額」「新規契約を条件とする割引適用の緩和」といった端末を買いやすくするための対策も行われている……のだが、「最新機種が月々1円」の訴求がやりにくくなったのは、携帯電話ショップにとって“痛手”となりうる。
改定から1カ月経過した現在、携帯電話ショップの店員は新ガイドラインをどう受け止めているのだろうか。改定前後の様子を聞いてみた。
●ガイドライン改定前に「駆け込み」はあったのか?
ガイドライン改定によって実施が難しくなった「月々1円」販売は、SNSにおいて「1円レンタル」と呼ばれることもある。改定前にはいわゆる「駆け込み需要」を喚起するような掲示も見受けられた。
「1円レンタルができなくなる」と知った来店客は、どのような反応を示したのだろうか。
ガイドライン改定の1カ月くらい前から、私の勤める店舗には「1円レンタルは25日まで」「ガイドライン改正目前! おトクに買えるラストチャンス!!」のような掲示を行っていました。 そのおかげで、お客さまから「このキャンペーンがなくなるの?」と質問されることも増えましたし、「時間があるから」と購入(契約)してくださる人や、週末に家族も連れて再度来店して購入していただくなど、ある程度の「駆け込み特需」はありました。 そのせいもあって、一部の機種はガイドライン改正前の最後の週末(12月21~22日)で品切れとなってしまいました。「旧機種で在庫がない」とか「モデルチェンジ前で入荷できない」といった理由以外で在庫切れになったのは、かなり久しぶりでした。(売り切れたのは)現行機種で、数も豊富に用意したつもりだったのですが……。
お客さまからは厳しい声も寄せられる一方、同情もされる感じでした。全般的には「あ、また値上げなの?」みたいな反応ですね。どちらにしても、(今回については)別に僕らお店のスタッフが(任意で)値上げをしているわけじゃないのは分かっていらっしゃる人が多いです。
お客様からは「値上げといっても、いくら上がるの?」という質問も多かったです。以前に「一括0円」がなくなった際にも、ショップやキャリアは「あの手この手」で安く販売できるキャンペーンを繰り出してきたこともあり、そこまでの値上げにならないのではないかと考えるお客さまも少なくないようです。 こういうお客さまは意外と冷静というか、「どうせまた元通りになる!」みたいなことも言っていて、全然買ってくださらないんですよね……。
「値上げ」を示唆する訴求の効果は、やはり大きかったようだ。駆け込み需要によって、最近は冷え込んでいた携帯電話ショップ/販売コーナーは少し活気づいたともいえる。
一方で、値上げされると分かっていても、過去にはさまざまな方法で「値下げ」を実施してきた“実績”もあるため、冷静に「どうせ一時的な値上げだろう」と考える人も多かったというのは少し面白い。
●ガイドライン改定後の店舗の様子は?
では、ガイドラインが改定された2024年12月26日以降の店舗の様子はどうなったのだろうか。聞いてみよう。
とにかく、価格変更作業が大変でした。会社はもちろん店舗もギリギリまで「25日までの価格」で25日まで売って稼ぎたいという方針だったこともあり、ガイドライン改定後(12月26日)以降の価格が全然示されなかったんですよね……。 ゆえに、改定後の価格が25日の夜遅く、あるいは翌26日の朝早くに提示されて、開店前に価格を変更した掲示を一気に印刷して、差し替えるといった感じです。 お客様の反応は人によってバラバラです。前日までの値段を知らない方も多いので意外と値上がっていても驚かれません。 あとは新機種は値上がったものが多いんですけど、旧機種であれば25日以前と変わらない値段で販売できるものもあるのでパッと見で「特価品がない」ような売場の印象にはなっていないのも我々としては助かった……というのが本音ですね。」
もちろん、ガイドライン改正前の価格をご存じのお客さまもいらっしゃいます。狙っていた機種の価格が結構変わってしまったというケースもありますが、そういうお客さまは「こんなに値上がるって、分かっていたら教えてほしかった」と言われたりもするんですけど、私たちもギリギリまで知らされていなかったのですよね……。ただただ、「申し訳ございません」としか言えないのは、ちょっともやっとします。
ガイドラインの改正後、最初の週末(12月28~29日)は、仕事納め後で家族そろって外出したついでにやってきたというお客さまが多かったです。そこで「この間まで『月々1円』みたいなのあったと思うけど、どこにいったの?」みたいなことは結構言われました。ガイドライン改正前に、値上がりがある旨を伝えてあったお客さまが、年末進行で忙しくて時間が取れず、やっと冬休みに入って来店されて……なんていうことも結構ありました。
価格変更については、ギリギリまで店頭に具体的な値段が落ちてこないといった“混乱”はあったようだ。
ただ、本ガイドラインの運用が始まった2019年の電気通信事業法の改正時と比べ、今回の値上げは熱心な報道なども少なかったせいか、そもそも店に足を運んでいる人でもない限り値上げのことを知らない人も多かったようだ。
以前に比べると「値上がりの影響」というのは少ない――それが販売店の率直な状況、感想といった様子である。
またその上で、以下のような声もあった。
「中古価格(買い取り価格)の平均値で残価を設定している」ってことですけど、これがどのくらいの周期で見直されて、店頭の価格に反映されるか分からないんですよね。 現時点で2年後の買取価格が高いと思われている機種に何かあって相場が思い切り下がったとしても、キャリアは残価を“今の”相場で決めて売っているので、結局、その差額は通信料などで補?(ほてん)せざるを得ないはずです。何というのか、「先に値引く」か、「後で補?する」かの違いでしかないように感じて、果たして適切な“値上げ”なのかと疑問が残ります。
ユーザー間の「不公平さ」をなくすための変更という趣旨は理解はできます。しかし、これで価格や中古(端末の)在庫の流動性ってどれくらい確保されるんでしょうかね。最近だと買いやすい、もっというと「安いから買う」でもないと端末は売れなくなってきているし、そもそも端末価格が全体的に上昇している中で、さらに値上げするって、誰も喜ばないと思うんですよね。
ガイドラインの改定は、せめて春商戦が終わるまで待ってほしかったと思ってます。意外かもしれませんけど、「来年の春に買い換えるぞ!」と1年かけて買い換えに向けて検討をする人も多いんですよ。ガイドラインが改定された影響で「計画が丸つぶれだ」と思っているお客さまもいるんじゃないでしょうか。
店員は多くの客と接することが多く、自分自身も「購入者」になり得るなりうる。値上げの趣旨については理解できるが、「今後の買い方」や「買いたい時期に向けた選び方」に対して、不安や不満を抱く――そんな人も多いようだ。
●誰のための「値上げ」なのか?
売場の様子や来店客の声、店員の考えを聞いてみると、過去の値上げと比べて“肯定的”な意見も多いように感じた。
ただ、店員の立場から見ると、主流の残価設定型の分割払いにおける残価(または途中で支払い額の変わる分割払いにおける後半期の分割支払金)の設定に対する“不安”はかなり感じられる。残価や分割支払金は流動的に変わる「ニーズ」に合わせて機動的に変える必要があると思われるが、キャリアが設定を変える頻度によっては、「買いやすくするために作った購入プログラム」が、かえって「買いづらさを強める仕組み」になってしまう可能性もある。
あるスタッフの声にもあったように、これから携帯電話市場は、1年で最も販売台数が伸びる春商戦を迎える。ガイドライン改定後、初めての大きな商戦期での売れ行き/販売の状況は、改定されたガイドラインの「効果」や「影響」を占うバロメーターとなる。今後も、継続して売場の声について取材を続けていくつもりだ。