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ファーウェイがイヤフォン/スマートウォッチで存在感 異例の世界初公開、ローカライズの背景を読み解く

ITmedia Mobile 2025年2月8日 10時53分

 米国の制裁を受け、Googleのサービスや最先端のチップセットを利用できなくなった結果、日本市場でスマホの投入を中断しているファーウェイ(Huawei)だが、それらを必要としないワイヤレスイヤフォンやスマートウォッチで着実な成長を遂げている。7日には、ワイヤレスイヤフォンの新製品を2機種発表した。

 ラインアップに追加されたのは、耳にかけてスポーツ中でも音楽を楽しめる「HUAWEI FreeArc」と、フラグシップモデルの「HUAWEI FreeBuds Pro 4」。異例なのは、FreeArcは日本での発表が世界初だったということだ。正式発売が決定した「HUAWEI WATCH D2 ウェアラブル血圧計」も、これまでにない販路が注目を集めた。2機種の事例からは、日本市場を攻略するファーウェイの戦略が透けて見える。

●異例の日本先行発表となったFreeArc、その背景にFreeClipの成功あり

 FreeArcは、ファーウェイ初となる耳掛け型のオープンイヤーイヤフォンだ。同社は、ウェアラブル機器の1つとしてこの分野に注力してきた。2022年には、メガネと一体になった「HUAWEI Eyewear」を発売。その後継機の「HUAWEI Eyewear II」も、日本のメガネメーカーであるOWNDAYSとのコラボモデルが高い注目を集めた。2023年には、耳を挟むような形で装着し、左右の区別がない「HUAWEI FreeClip」を発売した。

 中でもFreeClipは、その独自性や着け心地のよさが評価され、グローバルで販売台数200万台を突破したという。FreeArcは、その直接的な後継機というわけではないが、オープンイヤー型イヤフォンの系譜に連なる製品といえる。形状記憶合金と液状シリコンで、耳に掛けたときの負荷を軽減している一方、形状を工夫することでフィット感を高め、落ちにくいデザインを採用した。

 実際、筆者も発表会で装着してみたが、耳を挟んでしまうFreeClipよりも違和感が少なかったのが印象的だった。耳に差し込むカナル型とは違い、耳道への負荷も少ない。ファーウェイが手掛ける他のオープンイヤー型イヤフォンと同様、耳の回りに逆位相の音を出すことで、音漏れも防止している。これなら、スポーツ中に音楽を聞くだけでなく、長時間のビデオ会議や、動画配信サービスでドラマを一気見するときにも重宝しそうだ。

 冒頭で述べたように、FreeArcはこのイベントで初めてお披露目された製品になる。グローバルメーカーにとって、いちローカル市場にすぎない日本で先行発表するのは異例といっていい。実際、同時に発表されたフラグシップモデルのFreeBuds Pro 4は、1月にアラブ首長国連邦ドバイのグローバル発表会で、フォルダブルスマホの最新モデル「HUAWEI Mate X6」などと一緒に公開されている。

 もちろん、FreeArcもFreeBud Proと同様、グローバルで販売していく製品。日本市場限定というわけではない。では、なぜファーウェイはFreeArcを日本で先行公開したのか。同社によると、これはFreeClipの販売動向が密接に関係しているという。先に挙げたように同機は200万台を突破しているが、日本はトップレベルに販売が好調だという。

 FreeClipは2万7800円(税込み)で販売されており、イヤフォンの中では比較的単価が高い。にもかかわらず、きちんと実績が出ているのが、ファーウェイが日本市場に注力している理由だ。一方で、日本は特にオーディオメーカーが多く、海外組も多数参入していることもあり、ファーウェイのシェアはまだまだ大きいとはいえない。日本市場にスマホがないため、Appleやサムスン電子のように、スマホのアクセサリーとして販売してくのも難しい。得意とするオープンイヤー型でどこまで存在感を発揮できるかが、今後の課題と言えそうだ。

●日本企業と連携してシェアを広げるスマートウォッチ、WATCH D2の法人展開も

 これに対し、スマートバンドやスマートウォッチといった腕にまくウェアラブル端末は、日本市場で着実に根づきつつあることがうかがえる。調査会社MM総研が2024年12月に発表した、2024年4月から9月(24年度上期)の出荷台数調査では、ファーウェイがAppleに次ぐ2位につけていることが分かる。この分野では、ヘルスケアの研究成果を惜しみなく投入しており、日本でのローカライズも進めている。

 1つが、法人市場の開拓だ。ファーウェイ・ジャパンのデバイス部門で新規事業開発部本部長を務める王子田敬一氏は、「ファーウェイは世界中のさまざまな健康シーンを管理できるソリューションを提供しているが、日本でもB2B向けのプラットフォームがあり、4つの主要なシーンに向けたソリューションを展開している」と語る。4つのシーンとは、安全運転、倉庫管理、健康医療、健康管理を指している。

 日本では、法人向けにサービスを手掛ける企業のプラットフォームと連携。ファーウェイのスマートウォッチを業務に取り入れている企業は、300社を超えているという。発表会ではGREEN FUNDINGで先行販売されていたWATCH D2が正式販売されることも明かされたが、これもパートナーのプラットフォームに取り入れられていく。

 健康見守システムを手掛け、ゴルフ場でのキャディ業務や運行業務にファーウェイのスマートウォッチを活用しているというテクノクラフトの執行役員 松葉健一氏は、「WATCH D2を追加し、血圧や心電図を用いた新たなソリューションを展開することを考えている」と語る。

 また、ドライバー向けの健康・安全管理ソリューションや製造業、倉庫業などの現場作業員向けの安全・業務管理ソリューションを展開するenstemの代表取締役社長 山本寛大氏もHUAWEI WATCH D2を活用していく計画を明かした。一例を挙げると、乗車管理では「乗車前の問題や熱中症、眠気、ヒヤリハットの兆候を検知して、アラートを出すことができる。WATCH D2が活躍できる場所になるのではないか」という。

●管理医療機器認定を取得し日本展開を加速、ドラッグストアでの販売も

 これらが可能になったのは、WATCH D2が、自動電子血圧計として厚生労働省の管理医療機器認定を受けているからだ。さらに、同モデルは2024年12月にプログラム医療機器の承認も得て、心電図測定機能(ECG)にも対応した。医療機器として日本の基準をしっかり満たすことで、一般販売に加え、法人展開もしやすくなっているといえる。

 日本で医療機器としてのお墨付きを得たことは、コンシューマー市場での強い売りになっていることもうかがえる。先行販売したGREEN FUNDINGでは、3199人が支援(購入)し、その総額は1億6000万円にのぼった。最近では、製品化というより、市場でどの程度受け入れられるかを試すために企業がクラウドファンディングで先行販売するケースも多いが、WATCH D2はその成功事例だ。

 WATCH D2は現在、予約を受け付けており、販売は2月13日に開始される予定だが、面白いのはその販路にもある。同製品もスマートウォッチとして、通常通り家電量販店やAmazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングなどのECで販売されるが、通常と異なるのは、ここに調剤薬局やドラッグストアも名を連ねていることだ。

 同モデルは、ドラッグストアチェーンのウエルシアと、新生堂薬局でも取り扱われることが決定している。一部スマートバンドなどが売られているケースもあるようだが、ドラッグストアがスマートウォッチを販売するのは珍しい。ファーウェイ・ジャパンのデバイス部門で日本・韓国リージョンのプレジデントを務める賀磊(ハ・レイ)氏によると、これも「管理医療機器としての認証を取得したこと」が理由だという。

 考えてみれば、医療機器がドラッグストアにあるのは当たり前のこと。厚生労働省の基準を満たし、日本で管理医療機器というカテゴリーで販売できるからこそ、販路が広がったというわけだ。

 先に引用したMM総研の調査では、スマートウォッチの販売台数が前年同期比で5.3%減少していることに触れ、「市場の減速感が漂い始める中、主要メーカーはスマートウォッチの強みである健康管理機能を強化し、高齢者層や法人市場(従業員の健康管理など)の開拓に向けて動き始めている」と分析されていた。ファーウェイも、その1社と見ていいだろう。センシング技術の高さを土台にしつつ、日本市場への素早いローカライズに勝ち筋を見いだしていることがうかがえた。

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