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「通信が安いだけの国でいいのか?」「PayPayはまだ『一合目』」 ソフトバンク宮川社長が語る好調と不安

ITmedia Mobile 2025年2月11日 0時5分

 ソフトバンクは2月10日、2025年3月期(2024年度)第3四半期の連結決算を発表した。主軸のモバイル事業が2023年度からの増収基調が続き、PayPay事業の黒字定着も鮮明になるなど、全セグメントで増収増益と好調を維持している。

 好決算にもかかわらず、宮川潤一社長は「通信業界だけが常に値下げの議論をしている」と繰り返し述べ、電力コストなどの急騰や技術投資への影響に強い危機感を示した。

●Y!mobileからのアップセルは「と金」 顧客育成戦略が奏功

 2024年度第3四半期の連結売上高は4兆8015億円(前年同期比+7%)と堅調に推移し、純利益も4366億円(+7%)を記録。スマートフォン契約数(※1)は前年度同期比で4%増加した。特にY!mobile(ワイモバイル)ブランドからSoftBank(ソフトバンク)ブランドへの移行収支は、大幅なプラスとなったという。モバイル事業全体でも、2023年度からの売上の回復基調が続き、再び成長軌道に戻ったそうだ。

(※1)携帯電話回線の総回線数のうち、契約区分が「スマートフォン」となっている回線数

 宮川社長は将棋の例えを用いて「Y!mobileは『歩』のようにお客さまを集めやすい。その中から『金(と金)』となるお客さまがいる。(社内では)『と金プロジェクト』と呼んでいるが、Y!mobileで純増を続けながら、その中からSoftBankブランドへ自然な形で移行いただくことで、お客さまと一緒に成長できる」と説明する。

●通信料金がただ安いだけの国でいいのか? 通信業界の窮状を訴え

 一方で宮川社長は、モバイル通信事業にかかる電力コストが毎年100億円単位で増加し続けている現状にも言及する。

 「通信業界だけが常に値下げの議論をしており、他の全てのものが値上がりしている。取引先の中小企業の収益性も心配だ。5G投資を抑えたり、6Gを待ちながら『5Gはこんなものだろう』とするのは本当に悔しくて仕方ない」とした上で、「電力などのコスト上昇に耐えながら従業員の給与も上げていかなければならず、値下げ一辺倒では健全な形での投資は難しい」と窮状を訴えた。

 ただし「寡占とはいえ4社体制の通信業界で、我々が最初に(値上げに)動くのは相当勇気がいる。『増収増益の中で、なぜソフトバンクだけが踏み切るのか?』という話になる」としつつ、中長期的には「世界で一番強かった通信が、ただ安いだけの国になってしまった。開発力も落ちている。どこかで声を上げたい」と語った。

●金融事業はPayPayに寄せることでさらなる成長を目指す

 PayPayを主軸とするファイナンス(金融)事業では、連結売上高1837億円(前年同期比+18%)を達成。GMV(決済取扱高)は11.3兆円(+23%)と大幅成長を継続し、連結EBITDA(利息/税金支払いと各種償却前の利益)は353億円で2年連続の黒字を達成。営業利益も四半期ベースで3期連続黒字となり、黒字定着が鮮明だ。

 宮川社長は「PayPayはまだ『一合目』で、これからさらに登っていく余地がある」と表現する。PayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)やPayPay証券を2025年4月付けでPayPayの直接子会社化するなど、グループの金融サービスをPayPay傘下に集約していく方針だ。

 「(金融サービスについて)『複雑な資本構成や複数ブランドが混在していて分かりづらい』と、投資家の皆様に言われていた。PayPayに集約することで決済と金融サービスをシームレスに強化し、さらなる成長を目指す」(宮川社長)

 宮川社長はPayPayについて「IPO(株式の新規上場)は考えているが、まだ“改造”する余地がある。PayPayは決済に関して相当いいポジションにいるが、これは『1階建て』の部分だけ。『2階建て』『3階建て』の部分をしっかり作ってから次のステージに行きたい」と説明。「競合他社との比較ではなく、PayPay自身がまだ登りかけた山の一合目くらいの気分。山頂まで色々な知恵を使って、PayPayがやりたいことを全て完成させた上で親離れをしてもらいたい」と展望を示した。

●自律型AI「Cristal」をソフトバンクはどう扱うか?

 ソフトバンクといえば、2月3日に親会社であるソフトバンクグループ(SBG)と共同で米OpenAIと提携することを発表した。合弁企業「SB OpenAI Japan」を設立し、次世代AIソリューション「Cristal(クリスタル)」の日本企業向け独占販売権を得る。SB OpenAI JapanはソフトバンクはSBGと共同で設立する中間持株会社とOpenAIで折半出資となる。

 OpenAIのソリューションに対して、SBGは年間30億ドル(約4500億円)を支払う契約となっているのだが、子会社であるソフトバンクは「Pay for Use(従量制)」負担となっている。その理由について宮川社長は「収益が上がる構造と紐付いた支払い(方法)となり、得るものはあっても失うものはない契約を目指した」と説明する。OpenAIへの支払いは一旦SBGの子会社が受け取り、グループ会社における改造/開発費として流れる仕組みだという。

 宮川社長は、AIの発展段階について自動運転車のレベルに例えて説明する。「『ChatGPT(レベル2)』や『Copilot(レベル3)』までは人間の助手だが、Cristalはレベル4の自律型AIだ。その後、レベル5まで進化していく」と説明。「ハンドルのない完全自動運転車のように、企業のシステムの自動化を実現する」と期待を示した。

 「当社が先陣を切ってCristalを導入し、企業変革の成果を示していく。かつてiPhoneを全社員に持たせ、社内のペーパーレス化やデジタル化を進めた経験を活かし、まずは自社が“モルモット”となる」(宮川社長)

 展開にあたっては約1000人規模の体制を構築。自社とグループ300社から人材を集め、各企業担当者とエンジニア/営業のペアで導入を進める。OpenAIの技術者が1700~1800人規模と限られているため、まずは大企業から順次展開し、その後中小企業や自治体への導入も視野に入れるとのことだ。

 なお、SB OpenAI Japanは半年以内の設立を目指すという。

●ソフトバンクのAI戦略「マルチモデル」

 ソフトバンクは「SB Intuitions」での独自の日本語生成AI開発を継続しながら、MicrosoftやGoogleとの連携も視野に入れる"マルチモデル"戦略を掲げている。

 宮川社長は「OpenAI以外の開発も続ける。むしろ自社モデルを開発していて良かったのは、OpenAIが来た道を知っているため『それは遠回りだよ』といった助言をもらえること。マルチな生成AIという表現をしているが、最善な選択をしていける立場を維持したい」と説明する。

 「今回はOpenAIの最新かつ最先端モデルを優先的に使える。日本企業がAIで出遅れている現状を逆転する大きなチャンスと捉えている」(宮川社長)

通信でもAI-RAN構想と超分散型インフラを導入

 通信関連では、AI-RANソリューションとして「AITRAS(アイトラス)」の導入を発表している。NVIDIAの高性能GPU「Grace Hopper(グレースホッパー)」を採用し、基地局にAI演算基盤を実装するという。

 AI-RANでは夜間など余剰リソースを活用してAI推論サービスを提供し、新たな収益源にする。

 さらにソフトバンクはシャープ堺工場跡地(約1000億円投資)で最大250MWの電力契約を結ぶAIデータセンター構想を進めている。北海道苫小牧市には、コンテナを使うことでニーズにあわせて拡張できるAIデータセンターの建設を進めている。

 この他にもソフトバンクは2つのデータセンター案件を抱えているといい、国内各地への超分散型データセンターを構築する取り組みを進めている。宮川社長は「(ソフトバンクグループとOpenAIが進める)Stargate計画など外部パートナーの計算基盤誘致にもつながり、日本発の次世代インフラを築いていきたい」と熱意を見せた。

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