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薄味カレーのうま味倍増! キリン「エレキソルト」は“塩味増強”だけじゃない ~体験レポート

ITmedia NEWS 2024年6月23日 7時0分

 キリンホールディングス(以下キリン)が、減塩食品の塩味やうま味を増強する食器型デバイス「エレキソルト スプーン」を6月に発売した。

 当初は公式オンラインストアのほか、大手雑貨店での販売も予定されていたが、注文が殺到したことにより、現在公式オンラインストアでの抽選販売のみとなっている。ヘルスサイエンス領域の新規事業としてスタートした「エレキソルト」だが、実際にどれぐらいの効果があるのか。エレキソルトデバイス開発者である佐藤愛さんに開発の経緯を聞きつつ、実際に試してみた。

●減塩食をおいしく食べ続けるために研究がスタート

 今回、エレキソルト スプーンを開発した佐藤さんは、入社以来、新規事業向けの事業開発を担当してきた。主要製品であるビールなどを担当していなかったこともあり、世に出なかった研究が多く、製品化までこぎ着けたのはこの製品が初めてだったそうだ。

 「キリンの研究所では、担当以外の社会課題やお客さまの課題に答えるような技術開発について、10%ぐらいの稼働で取り組むことが認められています。以前、病院にうかがった時、食事療法の課題に出合いました。そこで18年頃から、減塩という課題に取り組み始めました」(佐藤さん)

 病気や健康リスクに対応するために必要な減塩生活だが、実際はなかなか難しい。家族のために減塩食をつくっても、「おいしくない」といわれたり、食卓で塩や醤油をかけられてしまうといったこともある。そのため単に、減塩の食材や調味料をつくるだけではだめだと考えた。

 10%ルールを使って減塩に対応できる技術を探索する中で、佐藤さんはこれまでにない異分野の技術との掛け合わせを考えた。そんな時、バーチャルリアリティに関する学会で明治大学の宮下芳明教授の味覚や嗅覚の研究に出合い、19年より共同研究がスタートした。

 「最初は、電流を流す回路とお箸やスプーンなどの実験機をパソコンにつなげて電流の波形をデザインするところからスタートしました。電流をそのまま流してしまうと金属っぽい味がします。その金属のような電気の味を消しながら、安全に使える電流値を模索していきました」(佐藤さん)

 同時に事業化に向けてのヒアリングやデバイスの研究も進めた。22年の共同実証実験の発表時は、エレキソルト スプーンのほか、お椀も用意。さらにお箸なども研究開発が進められた。

 実証実験では、エレキソルト スプーンを使うことで平均約1.5倍の塩味を感じるという結果が出た。またリサーチでは、減塩食を食べている人は、ラーメンなどの汁物を食べたいという願望が強いことが分かり、第一弾はスプーンにすることとなった。

 「19年からのリサーチでは、減塩中の人がダントツで食べたいものがラーメンという結果でした。あとはお味噌汁などの汁物。これら汁物は体積が大きいため塩分が分散しやすく、減塩しながらおいしく調理することが難しいメニューなんです。そのため『食べること自体を控えましょう』となってしまいがちで、結果としてニーズが高いメニューです。そしてエレキソルトデバイスは、電気を流す技術なので、水分が多いほうがデバイスによる塩味の増強を体感しやすいんです」(佐藤さん)

●塩味だけでなくうま味もアップ

 早速、エレキソルト スプーンを試してみた。本体サイズは幅約250×奥行き38×高さ25mmで、約60g(電池含まず)。電池や電気回路などが入るため持ち手は太くなっている。持ち手の背面とスプーンのくぼみに電極があるため、背面の電極に触れるように持つ必要がある。あとは電源スイッチを入れてランプが点灯すれば準備はOK。なお電流の強度は4段階で設定できる。

 実際に無塩カレーを食べてみた。トマトの酸味や甘味などで構成された塩分不使用のレトルトカレーだったが、エレキソルト スプーンで食べると、うま味がワンランクアップしたように感じられた。そして電源をオフにすると、おいしさは明らかに半減した。

 さらにカレーへわずかな塩を振って食べ比べてみると、さらなる違いに驚かされた。もともとの無塩カレーのおいしさを1とすると、エレキソルト スプーンで食べると感覚的には3になる。塩を振ってスプーンを使わずに食べると5ぐらいになり、エレキソルト スプーンで食べると10になるような味わいの変化があった。

 試食したカレーはもともと塩分がないが、エレキソルト スプーンを使うと食材に含まれるうま味部分だけがわずかにアップするイメージ。それに対して塩を入れたカレーはその塩味が一気に強調され、スプーンを使うとカレーの完成度が数倍に膨らむイメージだ。

 実際に使ってみて発見したのは、強くなるのは塩味だけではないこと。味の輪郭がはっきりするため、甘味やうま味も強くなったように感じられた。これなら減塩メニューもよりおいしく食べられそうだ。

 さらにエレキソルト スプーンは4段階で電流値を調整できるため、だんだんと下げて行くことでゆっくり減塩食に慣れる、といった使い方もできる。

●電気味覚デバイスの今後の展開に期待

 エレキソルト スプーンはこれまでさまざまな実証実験を重ね、自治体やさまざまな企業での評価を経て、社会的課題に貢献できるという評価を得たことで発売が決まった。発売する前はどれぐらい売れるか読めないというのが社内的な評価だったそうだが、実際は抽選販売になるほどの大人気となった。今後は、製造を委託している協力メーカーとともに順次、製造販売を行っていく予定だ。

 さらに今後の可能性も広がっている。すでに研究開発が進んでいるお椀型やお箸型などへの展開や、塩味以外への応用も考えられる。

 「海外ではダイエットを目的にした製品もありますし、電流によって炭酸感を増す研究をされている大学の先生もいますし、甘味を再現しようとしている先生方もいます。今、電気味覚の研究領域ではいろんな味の再現しようという取り組みがされていますが、現在のエレキソルト スプーンは、減塩食の味わいを増強する電流波形を搭載しているということなんです」(佐藤さん)

 さらに将来的には、スマートフォンアプリから“増強したい味”を選んでそれをデバイス上で再現するといったことも考えられる。エレキソルト スプーンは、そんな夢のデバイスにつながる第一歩なのだ。

(コヤマタカヒロ)

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