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何かと物議を醸した「LUMIX S9」、触ってみるとイマドキの機能がうれしいフルサイズ機だった

ITmedia NEWS 2024年6月26日 20時20分

 発表直後から何かと物議を醸したカメラ、パナソニックの「LUMIX S9」(以下、S9)が、無事発売された。

 S9は、四角くて小さくて非常にミニマムでイマドキのフルサイズセンサー機としては価格を抑えたカメラだ。製品サイトのストックフォト騒動はあったものの、S9自体には物議を醸しそうな点があるようには見えない。

 ただ、そのコンセプトを追求するあまり、意外なところがそぎ落とされていて、そこにひっかかった人がいたのだ。特にメカシャッターがなく電子シャッターのみであることと、アクセサリシューがコールドシュー(つまり、電気接点がなく、外付けのフラッシュが使えない)なのは私もちょっと驚いた。

 外付けのフラッシュが使えないシューに何を付けるんだというと、マイクやLEDライトだろう。ちなみにソニーの「ZV-E1」もメカシャッターはないし、画素数も少ないけど、あれは動画に全振りしたVLOG用カメラという位置付けだった。

 S9は動画に振りきった作りではないことや、Sシリーズのユーザーがちょうど「コンパクトな製品も欲しい」と思っていたところに登場したので「期待してたものと違う~」となったんじゃないかと思ってる。

 そんなミニマムなS9はカメラとしてどうなのか。

 ちょいと使ってみた。

●「S5 II」譲りの基本性能の高さ

 S9は正面から見ると分かるとおり、四角くてコンパクトなボディのフルサイズセンサー機だ。グリップ部のでっぱりはなくフラットで、Lマウントの直径がけっこう大きいのでほぼマウント、という感じ。

 サイズ感は、シグマの「fp」よりちょっと大きく、ソニーの「α7C II」と同じくらい(ただグリップがない分厚みはないけど)。超コンパクトデジタル一眼の仲間だ。

 センサーは約2420万画素。ボディ内手ブレ補正は約5段。S5 IIと同じく像面位相差AFに対応している。

 メカシャッターレス……つまり電子シャッターのみなので高速な被写体を撮ったときのローリングシャッター歪みが気になるところだけど、ゆがみ具合はS5 IIと同等だった。それなりに歪むけれども、そもそもそういう動きものを撮るカメラではないのでそれほどの欠点ではないかな。

 連写も最高で秒30コマでプリ連写にも対応するなど高性能だが、超高速モードで36枚までと「連写上等」の仕様ではないのが分かる。

 ISO感度は、最高でISO51200まで。拡張ISO感度としてISO204800まで上げられる。使ってみた感じだとISO25600までならかなり使えそうで、高感度には強い。S9に似合う小型軽量系のズームレンズは開放F値が大きいものが多いので高感度に強いのはいい。

 ただ暗いとAFは遅くなる。

 では使用感の話もまじえつつ、撮影だ。カメラの起動はちょっと遅め。電源を入れてから画面が出るまでワンクッション置く感じだ。

 最初に装着するのは、ユニークな26mmF8のパンケーキレンズ。発売記念キャンペーンとして、9月1日までに購入し、応募した人はもれなくもらえるので忘れないように。

 これをつけると超軽いスナップ撮影セットとなる。レンズキャップ代わりに普段から付けておいてもいい。

 絞りはF8固定でMFだが、だいたい3~4m以遠ならパンフォーカスになるので風景を撮るときはさほど気にしなくてよし。フォーカスがちゃんとあった時のクオリティは高い。

 近距離の時は、拡大表示やピーキング表示を使えば老眼の人はつらいかもだけどさほど苦労せず使えそう。

 操作系は非常にシンプル。ダイヤルが2つ(しかも1つはロータリーダイヤル)だし、また右手親指を置くところにボタン類が並ぶのであれこれ設定しながら撮影したい人にはちょっと窮屈だ。

 本格的に写真を撮るならSmallRigから出ているグリップを付けたい。

 背面モニターはバリアングル式だ。

 さすがに26mmMFレンズだけではちょっと、という人には標準ズームレンズキットにもなっている「LUMIX S 20~60mm F3.5-5.6」がいい。超広角から標準までのズームレンズだ。

 ちょいと撮ってみる。

 20mmまでの広角はいらない、という人でも、手にもって動きながら動画を撮るならあった方がいい。動画撮影時に強い手ブレ補正をかけたり「ブースト」するとぐっと画角が狭くなるから。

 ただ望遠側が60mmなのは足りないと思う人も多かろう。かといって、大きく重いレンズだとボディとのバランスがよくない。

●ハイブリッドズームとクロップズームってなに?

 そういう人には新機能「クロップズーム」と「ハイブリッドズーム」である。

 クロップズームは写真の中央部をクロップすることで疑似的に望遠にする機能で、例えばリコーのGRもクロップによって画素数は落ちるけどちょっと望遠になる機能を持ってる。

 でもレンズ交換式でボディにズームレバーも持たないS9でどうやって実現するのか。試してみた。

 クロップズームをオンにする。

 タッチパネルのズームレバーでズーミングするのだった。なるほど。望遠端まで行ったら、タッチパネルでズーミングしてやると、徐々に画像サイズを小さくしつつ(どこまで許容するかは選べる。Sサイズだと600万画素相当なので、まあそのくらいかな)、望遠になるのだ。

 ハイブリッドズームはもうちょっと凝ってる。光学ズームとクロップズームを合体させた機能で、ズームリングでクロップズームまでやっちゃうもの。どう実現するのか。

 ハイブリッドズームをオンにし、その振る舞いを設定。広角端のクロップズームをオフにした場合。

 ズーミングすると20-30mmまではそのまま光学ズーム。30mmを超えると徐々に「光学ズーム+クロップズーム」となり、望遠になるに従ってクロップズームの倍率が上がる仕様だ。

 画面に「60mm×2.0」みたいに表示が出るので分かる。

 Sサイズ(600万画素サイズ)をMAXにすると、2倍……つまり、20-60mmだと120mm相当にまで伸ばせる計算になる。

 まあ実際、大きくプリントしたりあとからトリミングしない限り600万画素あれば十分なシーンは多いわけで、ハイブリッドズームによって20-60mmが20-120mm相当になるという発想は面白い。

●超コンパクトな高倍率ズームや中望遠マクロも見逃せない

 望遠撮影が多くなりそうなら28-200mm F4.0-7.1 という高倍率ズームレンズのキットもある。これがまた28mmスタートで望遠端がF7.1になっているとはいえ、かなり寄れるし、短いし(約93.4mm)、約413g(レンズフードを含まず)とすごく軽い。

 装着した感じも20-60mmとあまり変わらないので、常用ズームレンズとしてもいいのだ。高倍率ズームでこのコンパクトさはありがたすぎる。

 ちなみにこのレンズでクロップズームかハイブリッドズームをかますと400mm相当にまで伸びる。

 今回はもう1本、小型軽量レンズシリーズということで、100mm F2.8 マクロレンズも使ってみた。2023年秋に登場した中望遠マクロレンズでこれがまた約298g(レンズフードなど含まず)と軽くて約82mmと短いのだ。ちなみに、85mm F1.8のレンズよりちょっと軽い。

 これはマクロ用としてもポートレート用としても使えるレンズだ。写りもボケもいい。

 最後は、S9のウリともいえるリアルタイムLUTの話。

●リアルタイムLUTを使おう

 LUTは映像業界の用語なのだけど(Look Up Tableの略)、パナソニックはS5 IIで写真にもその概念を持ってきた。そしてS9ではちょっと敷居が高そうな「リアルタイムLUT」をよりカジュアルに仕立てたのだ。

 リアルタイムLUTというのはLUTを参照してそれをリアルタイムに映像に反映させる機能。

 使い方は簡単。LUTボタンを押し、ダイヤルを回して使いたいLUTを選ぶ。

 デフォルトではサンプルのLUTが3つ入っており(Sample LUT1~3)、それを使うといい。特に「Sample LUT3」が印象的でつい使いたくなる。「Sample」なんていわずにそれぞれにちゃんと名前を付けて上げればよかったのに、と思う。

 LUTを追加したいときはスマホを使う。

 使うアプリは新しく作成された「LUMIX Lab」だ。

 あらかじめパナソニックが提供するLUTを使いたいときはアプリの「ダウンロード」から。

 パナソニックが提供するLUMIX LUTの他、クリエイターオリジナルのLUTもたくさんあるので撮りたい雰囲気のものをいくつかダウンロードするといい。

 ダウンロードしたLUTはアプリとS9を接続することでカメラへ転送できる。

 醍醐味はオリジナルLUTの作成だろう。

 手順はいろいろあるけれども、自分で撮った写真を使うのがわかりやすい。

 アプリを使って写真をダウンロード。そしてギャラリーから写真を選ぶと、スマホにダウンロードしたLUTをその場で当てることができる。

 重要なのはこのアプリの「ツール」。ツールを開くと、ライト・カラー・HSL・トーンカーブ・明暗別色補正など項目が現れる。

 ここでトーンカーブをいじったり、色相別の調整をしたりできるのだ。

 ここでLUTを作ったら名前を付けて保存。そして、カメラへ転送すればOkだ。

 あとは撮影するときにそのLUTを選ぶべし。

 オリジナルで作る以外にもダウンロードしたLUTをちょっといじって使える。VIVIDやLEICAモノクロームなどフォトスタイルをかけた写真を使ってLUTを作成すると、フォトスタイルごと保存できる。

 作ってみたけどシーンによって思ったような効果がでなかった、ってのは頻出するだろうから、ちょっとずつアップデートしながら試行錯誤するのが楽しかろうとは思う。

●S9はすごくイマドキのカメラだなと思う

 今、色と階調で写真や映像の個性を出す、作品に自分らしさを加えるのがトレンドなのだなと思う。

 S9は、LUTボタンを搭載してリアルタイムLUTをみなに使ってほしいというメッセージを出したし、富士フイルムの「X-T50」はあえてフィルムシミュレーションダイヤルを設けて色や階調の違いを楽しみやすくしたし、ニコンの「Z6III」も「イメージングレシピ」でピクチャーコントロールのバリエーションを用意した。

 S9が優れているのは、スマホとの連携を強化し、スマホがあればその場でオリジナルのLUTを作れる点にある。さらにスマホとの連携で、5GHzのWi-Fiに対応するなど(日本では室内でのみ利用可)データ転送の高速化も図っている。

 今回は手が回らなかったが、LUMIXなので動画性能も充実。手ブレ補正は「ブースト」にすると画角はかなり狭くなるけど本当にブレないし、動画の設定も非常に細かくできる。

 メカシャッターレスやホットシューレス、静止画と動画のバランス、ミニマムでシンプルな小型軽量で四角いデザインながら、LUTボタンを搭載したりスマホとの連携をより密にしたりと、見た目以上に現代を見つめたカメラがLUMIX S9なのだ。

 フルサイズ機としては価格も抑えられているので、写真でも動画でもカジュアルに自由に表現して楽しみたい、という人におすすめって感じだ。

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