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最適解は「ソーセージ状」? 複数の球を袋に詰める“最も効率的な方法” オランダの数学者が物理実験

ITmedia NEWS 2024年7月5日 8時5分

 オランダのユトレヒト大学などに所属する研究者らが2023年11月に発表した論文「A colloidal viewpoint on the sausage catastrophe and the finite sphere packing problem」は、複数の小さな球体を最も効率的に袋に詰める方法を実験とシミュレーションで実証した研究報告である。

 有限個の球の最密充填は「球充填問題」として数学者や物理学者の間で長年議論されてきたテーマだ。この問題は、限られた数の同じ大きさの球をどのように配置すれば最も密に詰められるかを探求するものである。

 これまでの理論的研究では、55個以下(および57、58、63、64個)の球では直線状(ソーセージ状)に配置するのが最も効率的であり、その他は塊(クラスタ)状の配置が有利になるという予測があった。しかし、この予測を実験的に検証することは困難であった。

 研究チームは、直径約2μmのコロイド粒子(小さな球)を、脂質二重層でできた微小な袋(GUV)に封入する手法を用いて実験的に検証。このGUVは非常に柔軟で、中に入れた粒子の配置に応じて形を変える性質がある。研究者たちは、この系を高性能な顕微鏡で観察し、粒子の配置がGUVの形状によってどのように変化するかを詳細に調べた。

 同時に、計算機シミュレーションを用いて、実験で観察された現象を理論的に再現し、さらに詳しく分析した。シミュレーションでは、GUVの膜や粒子間の相互作用を精密にモデル化し、実験では難しい条件下での粒子の振る舞いも予測した。

 研究の結果、粒子の数が9個以下の場合、GUVの形状に応じて粒子が一列に並ぶ配置(1次元のソーセージ配置)、平面状に広がる配置(2次元)、塊になる配置(3次元のクラスタ配置)の3種類の基本的な配置をとることが分かった。さらに興味深いことに、これらの配置間を自発的に行き来する「双安定状態」の存在も確認された。

 次に、より多くの粒子数(10個以上)の場合について、主にシミュレーションを用いて調査を行った。その結果、粒子数が56~70個の範囲(57個と63個を除く)で、ソーセージ配置よりも効率的に詰めることができるクラスタ配置が存在することを実証した。

 特に注目すべきは、58個と64個の場合である。これらの粒子数では、これまでソーセージ配置が最適とされていたが、実際にはより効率的なクラスタ配置が存在することが明らかになった。

 さらに、これらの高効率クラスタの構造を詳しく分析したところ、面心立方格子(FCC)と呼ばれる規則的な構造に基づく切頭多面体の形状を持つ傾向があることが分かった。この発見は、効率的な粒子の詰め方を設計する上で重要な指針となる可能性がある。

 Source and Image Credits: Marin-Aguilar, S., Camerin, F., van der Ham, S. et al. A colloidal viewpoint on the sausage catastrophe and the finite sphere packing problem. Nat Commun 14, 7896(2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-43722-0

 ※ちょっと昔のInnovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。X: @shiropen2

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