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「アルバイト募集中」──Xにいる“同じプロフィール”アカウントの正体は? LINE登録して聞いてみた

ITmedia NEWS 2024年7月8日 20時35分

 最近、記者のXアカウントに複数の怪しいアカウントからのフォローリクエストが送られてきた。今までも怪しいアカウントからリクエストが飛んでくることがあったが、今回はなぜか全員同じプロフィールという奇妙な状況。少し興味がわいた記者は、このアカウントたちとコミュニケーションを取ってみることにした。

 記者のアカウント(サブアカウントも含め計2つ)宛てにリクエストを送ってきたのは計6個のアカウントだ。プロフィール名は「山本香織」「小林真美」など日本人女性のような名前で、皆なぜかプロフィール欄には「現在、アルバイトの募集をしています。一日の勤務時間は制限ありません。日給5,000円~30,000円!!給与は日払いです。副業の相談は、LINEに追加」(原文ママ)と同じ内容が記載されている。

 今回はこのプロフィール欄にあるLINEアカウントを友だち登録し、そのアカウントの向こうにいる人物とコミュニケーションを取ることにした。表示されたQRコードを読み取っていくと、計4件のアカウントを登録することに成功したが、またしても奇妙な現象が。4件中3件のアカウント名が「大和晴子」という全く同じものだったのだ。

 名前以外にもプロフィール写真も同じものが使われていた。このプロフィール写真をGoogle検索で調べてみると、ある個人のInstagramアカウントがヒットしたが、名前はLINEアカウントとは別のもの。誰かがこのInstagramの写真を盗用し、LINEアカウント上で無断で使っている可能性がある。

●“5日間で10万円の報酬”という仕事の内容とは?

 友だち登録をした数分後、大和晴子の1人から連絡が来た。「はじめまして、よろしくお願いします。大和 晴子と申します。副業について問い合わせに来たのですかよろしくお願いします」(原文ママ)という内容だったので、記者からも「はじめまして! よろしくお願いします!」と返信をした。

 すぐにレスが届き、仕事を内容を説明してくれた。内容は次の通りだ(全て原文ママ)。

 「inmobiという国際的なマーケティング会社で、日本事務所は東京都千代田区にあります 彼らは開発者がアプリを最適化し、消費者の意識を高めるためのプラットフォームを提供しています」

 「私たちの仕事は、開発者がアプリストアで人気やダウンロード数を向上させるための支援をすることです。現在、アプリゲーム市場は激しい競争状況にあり、多くの製品は利用率や露出度が低いです」

 「inmobiは開発者と提携し、アプリケーションのデータを最適化するために私たちを雇いました。私たちはプラットフォーム上で40回タスクを行い、それをマーチャントに提供します。各データについては、その価値の1%ボーナスを受け取ることができます」

 「毎日最低でも6000円から50000円まで稼ぐことができます。(あなたの能力によって異なります)仕事内容について何か質問はありますか? 特にない場合、これから仕事の給与と勤務時間について説明し、給与とボーナスを受け取るまでオンラインでサポートいたします」

 正直なんだかよく分からないと感じた記者は「どんな仕事なんですか?」と質問した。すぐに「簡単に言うと、仕事内容はアプリ商家がアプリのダウンロードデータとレビューデータを最適化する手助けをすること」(原文ママ)と返信があったがこれもよく分からない。

 続けて「まず、仕事内容および作業の流れと給料についてはっきり説明し、その後、一緒に実際に作業を行うことで、全てが簡単であることを理解していただけると思います」と連絡があり、早く次の説明をさせろと急かされたようなので、次の説明をお願いした。すると今度は報酬面に関する画像が送られてきた。

 それによると、なんと5日間で10万円の報酬を得られ、さらに30日続けると60万円になるという。しかも未経験でも対応可能で、仕事はスマートフォンやPCからリモートで行うとしている。「他のどんなことにも影響を与えず、通常の生活にも支障をきたしません」(原文ママ)とかなり破格の待遇である。

 大和晴子は続けて、この仕事を受けたいのならば、あるプラットフォームに登録するよう促してきた。登録には電話番号が必要で、新規登録するだけでなんと3000円をくれるという。一通りの説明を聞けたと思ったため、ここから大和晴子に質問してみることにした。

●「ラーメンみそ汁にエビフライもあります」

 「これって詐欺じゃないんですよね……?」と聞いてみると、以下のような返事があった。(原文ママ)

 「多くの求職者が詐欺について言及しているのを聞いています。ある仕事は実在するのに対し、他の仕事は偽物です。すべてのパートタイムの仕事が詐欺というわけではありません。以下の情報をチェックしてみてください」

 ここにさらに「会社名」「会社の公式Webサイト」「会社の公式Webサイト」の3つのWebサイトへのリンクを添付していた。いずれも、InMobiという会社に関するWebサイト(inmobi.com)で、そのうち一つはWikipediaのページへのリンクだった。これによると、InMobiはインドのマーケティング会社であり、日本法人のInMobi Japanという会社があるのは分かったが、大和晴子がInMobiの関係者かは不明である。

 というのも、前述にあるプラットフォームへのリンクは「inmobi-〇.com」(〇には別の文字が入る)となっており、inmobi.comとの関連性が分からないのだ。inmobi-〇.comの作りはややチープな印象で、利用規約はあるものの非常に簡素な内容で、InMobiとの関連性がうかがえない。大和晴子に対して、InMobiとの関連性を尋ねると次のような返事があった。

 「私もあなたと同じように以前は社員でした。私は半年の努力で昇進してInMobiガイドになりました。研修担当社の新入社員」(原文ママ)

 やはりよく分からない回答である。ドメインが異なる理由についても聞いたが「inmobi.comは当社の募集公式サイトであり、inmobi-〇.comは仕事のプラットフォームです。仕事のプラットフォームは、公式サイトから協力関係を築いたアプリ商家が彼らの製品の評価データを向上させるのを助ける主に役立ちます」とのこと。

 この他にも「携帯電話番号が分からないけど、どうすればいい?」と聞くと「テレホンカード事業者に電話して問い合わせください」と返事があったり、「昨日の夕食は何を食べましたか?」と聞くと「ラーメンみそ汁にエビフライもあります」などと回答してくれた。どうやら汁物が好きなようだ。

 なお、大和晴子が勝手にInMobiの名前を使っている場合も考えられる。そのため、InMobi Japanにもこの件についてメールで問い合わせをしている。こちらも返事があり次第、追記する。

●楽して稼げる仕事なんて……

 もはや言わずもがなであるが、大和晴子が案内している話に乗ると、犯罪に巻き込まれる可能性が高い。国民生活センターでも今回の件に似た詐欺の手口を紹介しており、簡単に稼げるという副業には注意するよう促している。

 手口としては、電話番号などを登録した人に対して、副業に関するマニュアル代やサポート費用と称して代金を請求するという。特に20代の被害者からの相談が国民生活センターに寄せられており、具体例なども紹介している。

 国民生活センターはトラブル防止のポイントとして「『簡単に稼げる』『もうかる』ことを強調する広告やランキングサイトをうのみにしない」「作業内容や利益が出る仕組みがよく分からなければ契約しない」「少しでも不安に思ったら早めに消費生活センターなどに相談する」などを挙げている。

 LINEにも注意喚起の仕組みはあり、友だち登録画面には「LINEを悪用した詐欺にご注意ください」という文言と、詐欺の詳細を説明したWebページへのリンクが表示される。

 今回の調査の結果、やはり見知らぬアカウントからの急なアプローチには注意をしたほうがいいということが改めて分かった。楽して稼げる仕事なんて、そんな簡単に見つけられるわけがないのだ。熱い夏が到来し開放的な気分になる人もいるかもしれないが、甘い誘惑にはご注意を。

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