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911につながらない──米国で起きた緊急通報のシステム障害 窮地を救ったのは“170年前のテクノロジー”

ITmedia NEWS 2024年7月10日 8時5分

 米マサチューセッツ州で警察や消防を呼ぶための緊急通報ダイヤル911のシステムに障害が発生し、一時的に通報電話がつながらなくなった。障害を発生させた原因はファイアウォールだったことが判明。この騒ぎの中で脚光を浴びたのは、昔ながらの赤い電信ボックスだった。

 マサチューセッツ州の発表によると、現地時間の6月18日午後1時15分ごろ、州全域で911システムに障害が発生。911システムベンダーの米Comtechと州当局が調べた結果、障害の原因はファイアウォールだったことが分かった。サイバー攻撃やハッキング被害に遭ったわけではなく、そうした攻撃からシステムを守るはずのファイアウォールに外からの電話が阻まれて、指令センターにつながらなくなっていた。

 ただ、かかってきた電話はつながらなくても、指令センターで相手の電話番号を確認してかけ直すことは可能で、救急対応などに影響が出たという報告は入っていないとしている。

 システムは約2時間後の午後3時15分に完全復旧。州はComtechのアドバイスに従って、再発防止のための対策を講じたと強調している。

 突然の障害に見舞われた原因は不明だが、報道によると、マウラ・ヒーリー州知事は翌日の記者会見で、問題のファイアウォールについて「過保護で通話をさえぎってつながらなくしてしまった」と説明した。

 Comtechは2014年以来、マサチューセッツ州と契約してIPベースのNG(次世代)911システムの開発、実装、運用を手掛けており、今回の問題が起きる1カ月ほど前には独占契約の更新が同州に承認されたと発表していた。

 Comtechによると、このNG911システムは「セキュアなクラウドアーキテクチャ上に構築し、州の緊急通信に対応できる優れた安定性、余剰性、持続性を提供している」という。

●19世紀の電信ボックス、今も現役

 今回の障害で頼りにされたのが、街角に設置された赤い火災通報ボックスだった。911の障害発生時、ボストン消防局は「緊急に助けが必要な場合は近所の火災通報ボックスを利用するか、消防署に電話を」とXにポストした。

 こうした火災通報ボックスは、ボストンやニューヨーク、サンフランシスコなど米国の主要都市で街角に設置されている。ふたを開けてフックを引き下げるだけで、電信技術を使って消防本部に通報できる。

 CNNによると、ボストンには今も1500台ほどの火災通報ボックスが存在する。携帯電話の普及でほとんど使われなくなったものの、独自の電信・電力システムで稼働していることから、停電時や今回のような911の障害発生時にバックアップシステムとして利用できるという。

 サミュエル・モールスが1830~40年代にかけて発明した電信機の技術をもとに、ボストンの街に火災通報ボックスが登場したのは1852年。その後何度も改良を重ね、姿を変えながら存続してきた。

 ボックスにはそれぞれ個別の番号が割り当てられていて、通報者がフックを引き下げると、消防への電信で番号が順番に送信され、そのボックスの近くで非常事態が発生したことを知らせる仕組み。登場から172年たった今も、そのシステムは作動し続けている。

 「テクノロジーにのめりこむほど、コンピュータコードなどに問題が起きれば影響を受けやすくなる。火災通報ボックスは古い技術だが、ハイテク情報に頼らずに機能できる」。ボストンの消防の歴史に詳しいマイケル・ジェリーさんはCNNにそうコメントしている。

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