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ニコン「Z6III」を試す 部分積層型CMOSの実力は? 進化したAFとファインダーにも注目

ITmedia NEWS 2024年7月14日 16時59分

 ちょっと前モデルからレベルアップしすぎだろ感が漂う3代目が来た。ニコンの「Z6III」である。

 Z6IIが2020年発売だったから、4年分の進化があるのだ。

 ただ、全体にレベルアップしてるので「Z6IIIは良いそうだけど、どこが良くなったの?」と言われると困る。

 どこかに特化したレベルアップじゃないし、何から何までレベルアップしたわけでもない(例えば画素数は約2450万画素のままだ)。

 なのでその辺を気にしつつ見ていきたい。

●部分積層型イメージセンサーってほんとにすごい?

 何はともあれイメージセンサーである。これが新しくなった。

 いわゆるフルサイズセンサーで画素数は2450万画素。「Z7」の4575万画素や「Z8/9」の4571万画素と比べると少なく、従来と同じ画素数だ。

 でも、そのセンサーは新開発の「部分積層型」イメージセンサー。「撮像エリアの上下に高速処理回路を積層配置」したそうである。ちなみに、Z8/9は部分じゃなくて「完全」積層型イメージセンサー」。「部分」にしたことでコストを抑えたのですな。

 積層型のメリットは読み出し速度を上げられること。そうすると、AF速度も上げられるし連写速度も上げられるし、電子シャッター時の歪みも減らすことができる。

 Z6IIIは、Z8/Z9ほど高速ではないため、メカシャッターも積んでいるが、従来のZ6IIや「Zf」のセンサーに比べると約3.5倍の読み出し速度を実現したということで、具体的にどのくらい違うのか、他の機種と比べてみたい。

 撮影日時は異なるが被写体は同一。回転するファンを電子シャッターで撮影した。従来型のZfと他社の代表的なフルサイズセンサーカメラってことでソニーの「α7C II」、そして積層型のZ8が比較対象だ。

 こうしてみると、Zfやα7C IIに比べて歪みは圧倒的に少ないが、Z8ほどではない、というのが分かるかと思う。にしても、Z8はさすがですな。

 ちなみに、メカシャッターと電子シャッター。歪みが分かりやすい被写体で撮り比べてみると、違いはこんな感じ。

 被写体の速度や被写体との距離で変わってくるのでなんともいえないけど、目立つ被写体じゃなければ気にならない(今回の作例でも電子シャッターで撮ったものが多く含まれてる)。

 部分積層型化と最新の画像処理エンジンになったことで、連写速度もめちゃ速くなった。

 メカシャッター時は最高で秒14コマだが、電子シャッター時に「ハイスピードフレームキャプチャー」を使うと、最高で秒60コマ、さらに、DXサイズ(APS-Cサイズ)クロップなら秒120コマで撮れる。

 その上、プリ記録を最大で1秒。プリ記録1秒で秒120コマに設定するとまあ、一瞬シャッターを切るだけで120枚撮れちゃったりするので怖ろしい。ああ怖ろしい。

 しかもAF追従である。

 秒120コマでAF追従の威力を撮ろうとプラレールを走らせてみたら……途中で黒い怪獣(うちの猫です)に襲われて脱線しました。がーん。

 脱線の瞬間が撮れてたということで、連写すごいってのはなんとなく分かってもらえるかと。

 残念なのは、ハイスピードフレームキャプチャー時はJPEGのnormal画質に固定されること。せめてC30(秒30コマ)のときだけでもRAWに対応してくれると画質優先時はC30で、速度優先時はC60やC120で、と使い分けられていいのだがと思う。

●ファインダーがすばらしく進化してたZ6III

 速さの話はそのくらいにして、実際にレンズを装着して撮影したい。

 標準ズームレンズとして24-120mm F4をセレクト。

 このレンズがまあ実に便利で良いのである。望遠側が120mmまであるのでたいていのシーンで困らない。

 そしてスイッチを入れてファインダーを覗く。そしてびっくりして、手元にある他のカメラと見比べてしまう。

 ファインダーが見やすくてきれいなのである。

 EVFがさらに見やすくなったのだ。大きくて鮮やかで解像度が高くて(576万ピクセル)画質もいいので、ファインダーを覗いて撮るのが楽しいカメラだ。

 ただ、メガネをかけて覗くとちとファインダー像が大きすぎて橋が見づらいほど。そんなときは一回り小さく表示するモードがあるのでメガネ利用者はそれを使うといい。このクラスではピカイチのEVFで、ニコンのファインダーへのこだわりが現れてる。

 従来より明るく広い色域をカバーするのでピーカンの下でも見やすいのも良い点だ。

 もう一つ撮影時の違いとしては、背面モニターがチルト式からバリアングル式になったこと。これは好み……というより、どういう被写体をどう撮るかによって評価が分かれるところで、個人的にはZ6、Z6IIとチルト式で来たところでいきなりバリアングル式になっちゃったのはどうかと思う。

 背面から見ると、操作系は従来とほぼ同じ。ただ、再生ボタンと削除ボタンの位置が入れ替わった。再生ボタンが右手側に来たのはすごくうれしい点だ。右手でグリップしたまま撮った写真をチェックできる。

 それ以外は前モデルと変わらないが、AF-ONボタンの押しやすさやスティックの使いやすさなどカメラとしての使い勝手はよい。

 グリップはいい感じに深く、その上に録画・ISO・露出補正のボタンが並ぶ。

 撮影時の注目はAF。

 Z6IIから大きく進化した点に被写体検出AFがある。Z6IIでは人物と動物だけの検出だったが、Z6IIIではさらに進化して、乗り物と飛行機が追加され、人物認識のレベルもアップした。

 ただ……Z8では搭載された「鳥」認識がはいってない(Z8もファームアップで追加された機能なので、Z6IIIもいずれファームアップで搭載されるかも)のは残念。

 普段はオートにしておき、被写体が決まってるときはそれに応じて変えるのがいいだろう。

 画像処理エンジンがZ8/9と同じEXPEED 7であり、AFも高速で、AF-Cにして3DAFでリアルタイム追従を使うのもよし。

 逆光時や暗所でのAFに強くなったのも嬉しい点。例えば、室内の逆光の黒猫の瞳(極めて過酷な条件ってのが容易に想像できるかと思う)もちゃんと検出してくれた。人間からみると単なる黒い塊だったからね。

 ISO感度はISO100からISO64000。さらに拡張ISO感度としてISO204800相当まで上げられる。

 高感度には比較的強く、ISO12800まで上がってもあまり気にならない。

 では人物を撮ってみよう。

 被写体検出はオートで。ピクチャーコントロールは「リッチトーンポートレート」に設定してポートレートだ。

 美肌効果は「標準」にセット。

 そして撮る。

 ちなみにピクチャースタイルによる表現の違いはこんな感じ。スタンダードとポートレートとリッチトーンポートレートで比べてみた

 「ポートレート」でも撮っておこう。

 続いて動物。被写体検出は動物にし、AF-Cで撮影している。

 もう1枚、ラベンダー畑を飛び交うオオスカシバを撮ってみた。

 ホバリングしながら蜜を吸う姿を撮ろうと、3Dトラッキングをオンにし、C120でプリ連写をオンにし、超高速連写した中の1枚だ。このレンズは望遠端でも35cmまで寄れるのでありがたい。

 3Dトラッキングは優秀だが、さすがに昆虫を追い続けるのは難しかった(小さい上にあっち向いたりこっちむいたりするから)。いずれ昆虫検出が付くのを祈ろう。

 また手ブレ補正は約8段。その上、「フォーカスポイントVR」をオンにすると、構図の周辺部にAFポイントを置いたとき、そこを中心のブレを補正してくれる。今までは広角で手持ちスローシャッターを撮ると中央はよくても周辺部にちょっとブレが出るってことがあったのでそれを軽減してくれるのはありがたい。

●28-400mmは無茶なレンズだった

 もし、1本ですべてをまかないたい、旅行に行くので広角から望遠までレンズ交換なしで何でも撮れるレンズが欲しいという人には28-400mmというおそろしい超高倍率ズームレンズも登場した。

 クオリティー的には24-120mm F4 Sに一歩譲るが日常的なスナップにも使えるズームレンズとしてはなかなかだ。まあ、広角系スナップ撮影にも使える望遠ズームと捉えるのがいいかと思う。

 28mmと400mmでどれだけ違うのか。このくらい違うのである。

 望遠でメインの被写体を狙いつつ、広角で全体の雰囲気を抑える、みたいな撮り方もOk。

 最後にもう1本、違うレンズを。Plenaの名を持つハイエンドレンズ「135mm F1.8 Plena」だ。

 これは、クオリティ最優先のレンズ。滑らかできれいなボケと描写力を味わうハイエンドレンズ。何はともあれポートレートを撮るべし。

 さらに、きれいな円形ボケもチェック。

 F1.8のレンズだが、F2.0にするとすごくきれいなボケを楽しめる。夜のアジサイの奥で光っているのは遊歩道沿いのなんてことない灯りだ。

●動画性能も上がったZ6IIIなのだった

 性能がぐっと上がった写真撮影の機能を中心に見てきた。

 あ、一応ガスタンクも。

 で、バリアングルになったことからも分かるように動画撮影にも力を入れている。HDMI端子はフルサイズ(Type-A)になったし、音声のライン入力にも対応した。

 映像の記録も、N-RAWやProRes RAWをカメラ内で記録可能になった。

 記録メディアは従来同様XQD/CFexpress(Type B)カードとUHS-II対応のSDXCカードのデュアルスロットとなっている。

 Zシリーズは廉価なZ5、趣味性の高いZfがあり、プロ向けのフラッグシップ機としてZ8とZ9がある。その間を埋めるミドルクラスがZ6とZ7で、今回、Z6IIIで画素数こそ従来通りながら中身はフラッグシップ機の最新技術をそれなりに受け継いだハイレベルのカメラになった。とりあえず、気持ちよいファインダーに快適なAFの組み合わせで気持ちよく撮れるカメラだ。

 それが素晴らしい。

 性能が上がった分価格も上位モデル並に上がった……ようにみえるのだけど、これはほぼ円安+各種価格高騰によるものなので、悩ましいけれどもしょうがないですな。

 なお、新サービスNikon Imaging Cloudへの対応もトピックのひとつだけど、本レビュー執筆時にはまだ始まっていないのだった。残念。

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