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「AI幹事」飲食店に大ウケ──開発者が明かす、誕生のきっかけと想定外の反響 人とAIの新しい関係は居酒屋で始まる?

ITmedia NEWS 2024年7月21日 16時10分

 飲み会の風景を一変させる可能性を秘めた「AI幹事」が登場しました。Gateboxとだるまジャパン(岐阜県大垣市)の協力関係から生まれたこのサービス。なぜ、AI幹事を作ろうと思ったのか、実際にお話をうかがってきました。

 尾崎さんは、開発の経緯をこう語ってくれました。「元々は、Gateboxさんの『AIバイト』のタブレット版を開発する予定だったんです。でも、これなんか面白くないねえと話しているときに、武地さんの『商品紹介ではなく、AIと一緒にお酒を飲むようなものにしたい』という一言で、プロジェクトの方向性が大きく変わりました」。

 AI幹事が可能になった背景には、技術的なことを含め、いくつかの要因がありました。整理すると、以下のようなことです。

・画像認識:GPT-4oの登場でマルチモーダル技術が使えるようになり、リアルタイムでテーブルの状況を把握することが可能になっていた

・会話の生成:AIが認識したものをベースとして、自然な対話が可能になった

・コロナ禍の影響:パンデミックを経て、飲食店のDXが急速に進み、テーブルの上にタブレットがあることへの抵抗感が減った

 尾崎さんは「AIがあたかも自発的にアドバイスをするといった技術研究は既にしていたんです。足りなかったのは、AIから人間に働きかけるという視点でした。そこに武地さんの『AIにお代わり(を注文)させたい』というアイデアが加わって、自然とAI幹事ができ上がったんです」と説明する。また、そんなアイデアを形にしたいという価値観が共有できていたことも大きかったとのこと。

 言われてみれば、タブレットとAIを組み合わせることは、すんなり出てきますが、それがAI幹事というサービスに集約されるには、やはり明確な方向性が必要だったわけです。つまり、どうしてもAIと飲みたい! ということですね。

●想定外の反響

 AI幹事が公開されると、開発者たちの予想をはるかに超える反響がありました。「正直、これほどの反響があるとは夢にも思っていませんでした。この絵面が地上波のニュースにまで取り上げられるとは……」。

 特筆すべきは、飲食業界からの反応でした。大手チェーン店だけでなく、地方の焼肉店や個人経営の飲食店からも直接問い合わせが殺到したそうです。もちろん、飲食店向けシステムを提供する企業からも多くの問い合わせがあったとのこと。

 さらに興味深いのは、飲食店オーナーたちの反応そのもの。「コロナ禍での他のDX施策は『やむを得ず』導入するものが多かったそうなのですが、AI幹事に関しては『楽しそうだから導入したい』という声が圧倒的に多いんです」と尾崎さんは語ってくれました。

 AI幹事がこれほどの注目を集めた理由は、まさにタイミングといえるでしょう。生成AIは便利さやすごさで語られ続けてきました、AI幹事は生成AIの利用方法として、ユニークなものです。

 また、飲食店、お客さん、開発元にとって、いわゆる三方よしとなっていることも広く注目された理由です。AI幹事がいることで、飲食店は注文のチャンスが増えますし、お客さんは追加注文のために場を乱すこともありません。開発元にとっても、新しいビジネスチャンスとなります。

 武地さんは「『AIと飲みたい』という単純な欲求が、こんなにも多くの人の共感を得るとは思いませんでした。技術の進歩と人々の想像力が結びついた瞬間を目撃しているようです」と話してくれました。

●AI幹事は何をしてくれる?

 では、ここでAI幹事が実際に何をしてくれるのか、確認しておきましょう。

 まず、AI幹事はカメラを使って常にテーブルの状況を把握しています。グラスが空になりそうになると、さりげなく「そろそろ飲み物を追加しませんか?」と提案します。この機能により、客は店員を呼ぶ手間が省け、会話の流れを中断することなく注文できます。

 さらにAI幹事は、会話の内容や雰囲気を読み取り、適切なタイミングで料理を提案することもできます。話が盛り上がっているときは控えめに、話題に詰まったときは新しい料理の提案で場を和ませこともできます。

 この取材時、実際に飲み物と食べ物を置いて、乾杯したり、飲んだり食べたりしながら、話をしていました。この会話の中にAI幹事が声をかけてくれるのが、ちょうどいい距離感でした。

 例えば、AI幹事が声をかけてきても、話を進めたければ無視すればいいだけです。これが人に声をかけられると、話が止まってしまうでしょう。

 タブレットで注文するのともまったく違う体験です。AI幹事は、なぜか人をニヤニヤさせる絶妙な存在感があります。

 これまでの飲食店のDXというのは、基本的に「人がやってもいいこと」でした。対して、AI幹事がやっていることは、「人がやったら少しイヤミな感じになってしまうこと」です。

 今後の発展次第では、お客さん個人の好みや過去の注文履歴を学習し、パーソナライズされたおすすめを提供することも可能でしょう。「前回はこの料理が好評でしたが、今回も試してみますか?」といった提案も可能になります。

●SF映画にしかなかった「AIと酒を飲む」を実現

 「人間とAIが自然に会話を交わしながら、楽しくお酒を飲む。それはまさに、SF映画の中でしか見られなかった光景です。でも、AI幹事はそれを現実のものとしました」。確かにそれは革新的です。

 実際、AI幹事は単なる注文システムではありません。飲み会の参加者として、時にはジョークを言い、時には気の利いたコメントをしたりします。例えば、「皆さん、今日は忙しい中集まってくれてありがとう。1年の疲れを癒し、楽しい時間を過ごしましょう。それでは、笑顔で乾杯!」といった具合に、まるで本当の幹事のように振る舞ってくれます。

 この「AIと一緒に飲む」という体験は、体験者の心に響いています。ある体験者は「最初は奇妙に感じたけど、飲んでいるうちにAI幹事が本当の仲間のように感じてきた」と言ったそうです。また別の体験者は「AI幹事のおかげで、誰も気をつかうことなく、自然に飲み会を楽しめた」とも評価したそうです。

●人とAIの新しい付き合い方

 AI幹事が注目を集めたことで、Gateboxとだるまジャパンの開発チームは、さらなる進化を目指しています。また、AI幹事のスマホ版(iOS)については、すでに開発に着手しているとのこと。今後の方向性としては、

・多言語対応:海外からの観光客にも対応できるよう、多言語でのコミュニケーション機能を追加

・キャラクターコラボレーション:人気アニメやゲームのキャラクターとコラボレーションし、そのキャラクターになりきったAI幹事を開発

・健康管理機能:ユーザーの健康データと連携し、適切な飲酒量を提案する機能を追加

・家庭用バージョン:飲食店だけでなく、ホームパーティーでも使えるAI幹事の開発

 武地さんと尾崎さんは、最後にこう締めくくってくれました。「AI幹事は、まさに続報が楽しみなプロジェクトです。これからどんな展開が待っているのか、私たち自身もわくわくしています。この新しい扉を開いたことで、人々の想像力が刺激され、さらなる革新が生まれることを期待しています」。

 少しおおげさに聞こえるかもしれませんが、AI幹事には人類の夢がつまっています。これは実際にAI幹事を体験してみて、より強く感じたところです。

 例えば、スマホやスマートウォッチのおかげで、ヘルス系のデータを見ることはできるようになりましたし、通知なども受け取ることができるようになりました。でも、正直「だから?」という段階ではあると思います。「昨日は寝不足でしたね」とデータを見せられても、そんなことは自分が一番分かっているわけです。

 でも、AI幹事は、今目の前にあるものをリアルタイムに処理して、こちらの状況を踏まえて、会話を投げかけてくれます。ここに大きな違いがあるわけです。これは、人とAIの付き合い方の何か新しい扉を開いた感さえあります。

 その扉の向こう側には、AIと人間のコミュニケーションという未来があるはずなのです。そして、AI幹事を見た人たちがその未来を感じ取ったからこそ、あれだけの話題となったといえるでしょう。

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