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“全身に冷水をまとうスーツ”は殺人的猛暑に立ち向かえるか 装着して涼しさを試した

ITmedia NEWS 2024年7月23日 11時59分

 2024年の夏も猛暑だ。特に昼時は殺人的に暑く、熱中症対策が欠かせない。この暑さがしばらく続くと思うと、正直ナーバスだ。少しでも涼を得たい、何かいい暑さ対策グッズはないものか──と探していたところ、なかなかファンキーな製品を見つけた。これだ。

 その名も「全身水冷スーツ」。なんだか「大リーグボール養成ギブス」みたいだがそうではなく、サンコー製の暑さ対策グッズだ。ベスト・腰ベルト・腿ベルト部分に冷水を運ぶチューブが通っており、背中や腰、腿を冷却できる。水を冷やすために必要なのは氷か、凍ったペットボトル飲料。後者の場合、溶けた中身はそのまま飲んでOKという、いわゆる“現場作業”向けの製品だ。

 見た目のインパクトは抜群なこの製品、果たしてその迫力に見合う涼は得られるのか。実際に試用する機会が得られたので、使い勝手を確認してみた。

●これが全身水冷スーツのスペックだ

 まず、全身水冷スーツの仕様を整理しておく。スーツはベスト部、腰ベルト部、腿ベルト部に分かれ、それぞれがチューブでつながっている。チューブには、ベスト部背中側にあるタンクから冷水が流れる仕組みだ。動力源はUSB接続のモバイルバッテリー。ベストにはバッテリーを収納できる胸ポケットもついている。

 ベスト部、腰ベルト部、腿ベルト部はそれぞれフリーサイズ。順に65cm~130cm、65~150cm、40~65cmの範囲で調整できる。腰ベルト・腿ベルトを取り外し、ベストのみでの利用も可能だ。なお、各パーツはタンク・チューブなどを取り外した上で手洗いできる。

 必要な水の量は400~500ml程度。精製水などである必要はなく、水道水でいい。別途、水を冷やすために1kgの氷または凍らせた500mlペットボトルを使う。いずれもタンクに入れるだけでOKだ。重さはタンクが空の場合、全パーツ込みで約1.1kg。中身を入れると1~1.5kg程度増えることになる。

 冷却の強度は「エコモード」「弱」「強」の3段階から選べる。連続稼働時間は、10000mAhのモバイルバッテリーを使った場合、エコモードで160分、弱で110分、強で80分。ベストだけで使った場合、エコモードで180分、弱で120分、強で90分。ただしポンプ自体は数十時間使い続けられるので、氷や水を取り替えればより長く使える。冷却性能は、環境温度が30℃の場合でマイナス10℃ほど冷やせるとうたう。

 価格は本体のみの場合で1万9800円。モバイルバッテリーとセットの場合は2万2800円だ。

●で、実際涼しいのか

 で、ここからが本題だ。全身水冷スーツは暑さに立ち向かえるのか。いわゆる“現場作業”での利用を想定している製品なので、釣りや草刈り、屋外での荷物運びが必要をする場面などで使ったみたが、結論から言うと「確かに涼しいが、快適さをフルに感じられる条件が限られるな……」が筆者の感想だ。

 冷水が流れると、背中・胸・腿など要所が冷やせて快適なのは間違いない。個人的には、背中や腿は服越しでもペルチェ素子グッズより冷たく感じた。かなりヒエヒエだ。

 ただ、スーツそのものが着ていてそこそこ暑い。黒くて熱がこもるし、ずっと着ていると蒸す。また、“立ち上がり”が遅めなのも気になった。氷などで水を冷やして循環させる仕様のためか、水がキンキンに冷えてチューブを巡るまで数分~十数分かかったので、知らずに使うと「凍ったペットボトルを直接当ててたほうが安上がりで涼しくない?」と感じる。日が射す屋外ならその間に汗だくだ。

 使う人の体格にもよるが、フリーサイズゆえにサイズ調整用アジャスターのひもが余り、ぶらぶらし続けるのもイマイチだった。場所によってはゴムバンドである程度留められる箇所もあるが、そうでないところもある。

 記者は身長173cm・体重65kgほどと、男性としてはだいたい平均的な体格だが、ひもがかなり厄介に感じた。荷物運びではそれほど問題はなかったが、釣りや草刈りでは針や枝葉にひもが引っ掛かって邪魔になった。ベスト部分は上に何か着れば問題ないが、それはそれで暑いし、腿部分はカバーできない。

 冷たさとは直接関係ないが、人によってはポンプの駆動音も少し気になるかもしれない。使っている最中はずっと「ウーッ」とした音が鳴るし、使い始めはゴポゴポ水音も鳴る。とはいえ、セミの声が鳴り響く屋外では誤差と思うので、筆者はそこまで気にならなかった。

 重さも筆者にとっては許容範囲だった。ただ、あくまで1~2時間使った場合の話。より長時間使えばいくらかこたえるかもしれないし、きゃしゃな女性だとつらいだろう。

●“気合を入れた暑さ対策”に使えそう

 しかし、氷などを補充できれば連続使用できること、他のクールグッズと組み合わせやすいのは便利だ。見た目を気にしなければペルチェ素子で首元を冷やすグッズなどを使ってもいいだろう。

 一方で、重装備な割に立ち上がりがやや遅いのと、単体では“冷たさの収支”が合わない点は“帯に短く“、そもそも気軽にサクッと使うわけにもいかず普段使い出来ない点は“たすきに長い“。結局冷えるには冷えるが、快適さをフルに実感できる条件が限られそう──というのが、何回か使ってみての結論だ。

 ただ、そもそも街中を移動するとき気軽に使える見た目ではないし、恐らくそういう使い方を想定した製品でもない。真価を発揮するのは、農作業や工事など、冷房のない場所で長時間活動する必要があるとき。つまり事前にしっかり暑さ対策をしたうえで作業に挑めるシチュエーションだ。できれば周囲に突起が障害物が少なく、氷などを補充しやすい環境だとなおいい。

 準備ができるなら「使う時間はだいたいこれくらい、自分ならこれくらいまでは快適に使えるだろう。だから使うのはこのグッズとこのグッズと……」という具合で、さまざまな暑さ対策グッズを組み合わせ、本気で暑さに備えられる。そういった状況下であれば“暑さ対策コンボ”のパーツとして、選択肢に入ると感じた。

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