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テスラオーナーが気になるEV、「ボルボ EX30」試乗レビュー 老舗が作るピュアEVはひと味違った

ITmedia NEWS 2024年7月27日 11時5分

 iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現されるTesla。IT・ビジネス分野のライターである山崎潤一郎が、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、この未来からやってきたクルマを連載形式でリポートします。

 本連載では初めて、Tesla以外のEVを取り上げます。Volvo EX30です。EVが集まった展示イベントで実車を見てからというもの、筆者にとって気になるEVの一翼を担うようになりました。2030年までの完全電動化を宣言したVolvoが世に問うこのコンパクトな電動SUVを21年型Tesla Model 3ユーザーの目線で報告します。

 ボディーカラーは全部で4色。試乗車は、北欧の空をほうふつとさせる「クラウドブルー」。航続距離はWLTCモードで560kmだが、実質的には450kmといったところか。

 ボルボは、スウェーデンの自動車メーカーです。2010年に「ジーリー」などを傘下に持つ中国の「浙江吉利控股集団」が筆頭株主となりました。これは筆者の印象ですが、中国資本が入ってからのボルボのクルマは、どれもデザインが洗練され、スタイリッシュな中にもスカンジナビアンなテイストが見え隠れし、以前の武骨なデザインから一皮むけた感じが好印象です。

 高名な自動車評論家の言では、それ以前のフォード傘下だったときには、親会社から既存のエンジンやプラットフォームを押しつけられ、ボルボらしさを欠いた自由度の低いクルマ作りしかできなかったそうです。中国資本以後は、自由にのびのびとしたクルマ作りが行えるようになったとのこと。「カネは出すけどクチは出さない」ってやつでしょうか。

 EX30も、ジーリーのEVとプラットフォームを共有しています。EV分野では爆速の進化を続ける先進的な中国メーカーの「血」が入っているだけに、良質なEVに仕上がっていると期待しています。

 デザイン面では、全体、局所のそれぞれに近年のボルボらしい文法が投入されており、街中の雑踏でも網膜の端にその姿を一瞬捉えただけで、ボルボだとわかる佇まいをまとっています。

 走る曲がる止まるといったクルマとしての基本性能は、他の自動車系の記事やYouTubeをご確認いただくとして、ここではTeslaユーザーとして気になる以下の項目について話を進めていきます。

・Googleを搭載したインフォテインメントの使い勝手

・クルーズコントロールなどの運転支援の印象

・自動駐車機能

・ワンペダルドライブのフィーリング

・ラゲッジスペースの使い勝手

・オーディオの音質

●最新プロセッサによる驚きのヌルサク感

 まず目を引くのが、Tesla同様、大型スクリーンを配し、物理ボタンを最小限にしたダッシュボードまわりです。ただ、Model 3とは異なりスクリーンをタテ型に配しています。ここまで大きいとタテ型でもヨコ型でも視認性や利便性に差異を感じることはありませんでした。

 それよりも驚いたのは、スクリーンのヌルサク感です。各種操作はもちろん、マップの移動や拡大など指先に吸い付くように反応してくれます。21年式Model 3におけるスクリーンの操作感はもっさりしており、雲泥の差でした。大型スクリーンを有し、そこで多くの操作や設定を行うこれからのクルマは、スクリーンのUIや応答性がユーザー体験の大きな領域を占めることを実感しました。

 このヌルサク感はそれもそのはず、インフォテインメント系のチップに米Qualcommの「Snapdragon」プロセッサが採用されています。シリーズの型番までは不明ですが、必要にして十分な能力を有しているようです。正にタブレット端末が搭載されている感覚です。

 その一方で21年式Model 3のインフォテインメント系チップは、米IntelのAtomプロセッサという古いものです。クルマと言えどもインフォテインメントの部分では、スマホ同様に世代を重ねると陳腐化が進行することを思い知らされました。

 ちなみに、最近のTesla車は、AMDのRyzenプロセッサを搭載しているので、従前のもっさり感はかなり改善されていることは付け加えておきます。

 1つ不満だったのは、スクリーン上の時刻表示が小さ過ぎて見えにくい点でした。しかも、右ハンドルの運転席から最も遠い画面左端に表示されています。このUIについては「OTAアップデートで改善可能。本国には時刻表示を改善するように要望を出している」(ボルボジャパンの広報)とのことです。

 実のところ、Model 3の時刻表示も小さすぎて運転中に確認しにくいことこの上ありません。外国人は運転中に時刻を気にしないのでしょうか。

●「オーケー、グーグル」の使い心地は

 スクリーンには、スマホのGoogleアシスタントがそのまま車載されていると思ってください。従って、普段利用しているGoogleアカウントを設定すれば、個人の情報がひも付けされて、Googleのサービスをシームレスに利用することができます。

 音声認識の性能もスマホのそれに準じ、不満に思うことはありませんでした。もちろん、カーナビの目的地設定も可能です。ただ、普段スマホでGoogleマップのナビを使っている人ならご理解いただけると思いますが、裏道の細く攻めたルートを案内をすることもありました。このあたりはTeslaのナビも同様です。

 目的地の名称を発話する際、曖昧な固有名詞を指定した場合も、忖度して、考えられる最適解を示してくれます。さすがGoogleアシスタントです。他にはオーディオの音量制御やエアコンの温度設定なども声で可能でした。

●安全機能と運転支援は使える?

 古くから社是として安全性を第一に考えているメーカーらしくEX30にも安全機能はてんこ盛りです。まさかその1つ1つを試すわけにはいきませんから、詳細は広報の説明資料から抜粋した次図をご確認ください。

 Model 3乗りとして気になるのは、高速道路などでの運転支援機能の性能です。Teslaにはオートパイロット(AP)と呼ばれる運転支援機能が標準で装備されています。EX30にも、アダプティブ・クルーズ・コントロール、パイロット・アシスト(車線維持支援機能)などの運転支援が標準で装備されています。パイロット・アシストは、Teslaで言うところのオートステアリングに分類されるものです。

 結論から言うと、TeslaのオートパイロットとEX30の運転支援は、まったく別の考え方で作られているように感じました。EX30のパイロット・アシストは、直線はもちろん、緩いカーブで車線の中央を維持しようとするのはAPと同じです。

 しかし、その挙動はAPとはかなり異なります。パイロット・アシストがオンであっても、ステアリングを意思を持って軽い力で回すとクルマはその方向に向かって進みます。例えば、横に大型トラックが並んだときなど、車線を維持しつつ、トラックから距離を置きたい場合などに便利です。

 つまり、車線の中央維持はあくまでも「サポート」であり、ドライバーの意思を第一義に尊重し、軽くでもステアリングを回すとパイロット・アシストを維持したまま、進路を変えることができます。

 一方のAPは、車線の中央をかたくなに維持しようとします。そこから進路を変えようとするとハンドルから強い反発を受けます。進路変更するには、相応の力でハンドルを回さなければなりません。そして、APはその瞬間にキャンセルされます。APの方は「速度調整とハンドル操作は任せろ」と言わんばかりの挙動で、より自動運転に近い考え方で作られている印象です。

 APに慣れている筆者だけに、EX30の件の挙動は最初、さすがに驚きましたが、そういうものだと理解した後は、問題なく接する事ができました。ちなみに、APはウインカーを作動させると強い反発を受けることなく進行方向にハンドルを切ることができます。そして、APはキャンセルされます。ウインカー作動でパイロット・アシストがキャンセルされるのはEX30も同じでした。

 試乗のコースが交通量の多い高速道路に限定されていたので、残念ながらオートレーンチェンジは作動しませんでした。変更先のレーンにある程度の余裕がないと作動しないようです。

●度胸がなくコンプリートできなかった自動駐車機能

 EX30には、21年型のModel 3にはないカメラビュー機能があります。バードアイ映像です。シフトを後退に入れると、自動的に真上からの俯瞰画面に切り替わります。この映像があるだけで、ものすごく安心感があります。

 EX30には、パークパイロットアシストという自動駐車機能が標準で装備されています。かなり優秀なようです。「ようです」としたのは、筆者の度胸が足りず、駐車コンプリートまでにいたらなかったからです。自動でハンドルを操作し、枠内へ自走してくれるのですが、最後の最後で、怖くてブレーキを踏んでしまいました。ブレーキを踏むと機能がキャンセルされてしまいます。

 後から動画を見ると、近接センサーで隣のクルマとの距離が最小46センチまで迫ったところで、怖くなってブレーキを踏んでいます。センサーの警告音の間隔が次第に速くなりモニターで見ていると、ぶつかる!と感じてしまったからです。

 車両を返却した後、担当者に確認すると「距離は20センチくらいまで攻めるのでそのままブレーキを踏まないでいるとちゃんと枠の真ん中に駐車します」とのこと。動画をご覧頂くと分かりますが、コンプリート寸前でブレーキ踏んでいるので、このまま見守っていれば、もう一回切り返して枠の真ん中に自動で駐車できたのかもしれません。

 このパークパイロットアシストは、隣車との距離だけでなく、駐車時の速度も攻めます。筆者が普段手動で行うより、素早い駐車が可能だと感じました。ただ、駐車枠の隣に他車が止まっていないと機能しないようです。試しに、がら空きの白線枠だけのところで試しましたが、システムが駐車枠を見つけることができず、機能自体をオンにすることができませんでした。

●ワンペダルドライブのフィーリングはTeslaが上?

 ワンペダルドライブの魅力は、右足操作(アクセル)だけで、加速はもちろん、完全停止までコントロール可能な点にあります。EX30は完全停止まで行えます。ただし、Model 3と比較すると、アクセルオフから停止するまでの距離が長く、減速中はエンジン車のコースティングのような印象を受けました。これは慣れの問題で、このEX30の減速率を身体に染みこませることができれば、快適なワンペダルドライブが楽しめることでしょう。

 ただ、1つどうしても気になるとこがありました。微速から停止に至るその瞬間にちょっとしたショックを感じることがありました。オノマトペでオーバーに表現すると、止まる瞬間、足元から「グガ、ギゴ」という感覚が伝わり、車両全体が微動します。ブレーキホールド機能が作動する際の挙動なのでしょうか。詳細は不明ですが、気持ちのよいものではありませんでした。

 その点、Model 3のワンペダルドライブは優秀です。いつ停止したのか分からない程に、極微弱な「コツン」という軽い振動と共に自然に止まります。筆者が丁寧にブレーキ操作をするよりも上手です。EX30の場合、OTAが可能なので、制御プログラムのアップデートで停止の瞬間の挙動を修正できるのではないでしょうか。

●ラゲッジスペースの使い勝手

 SUVカテゴリーに属するEX30の魅力は、その広いラゲッジスペースにあります。写真でご確認いただくと分かりますが、リアゲートがフルに開くので、トノカバーを外し大きな開口部を利用すればかなりの荷物を積むことができます。後席をたためば、そのエリアはさらに広がります。もちろん、小ぶりながらフロントトランクも用意されています。ただ、ここには普通充電のケーブルを入れるとそれだけでいっぱいです。

 ただ、夫婦と子供二人家族でキャンプに出掛けるといった使い方をする場合、後席を倒すことができないので、ちょっと厳しいかもしれません。持参するキャンプ用品や積み方を工夫する必要があるかもしれません。自分がシルバー世代に属するからそう感じるのかもしれませんが、引退した夫婦が旅をするのに適したクルマという印象です。

 筆者は、犬用の折りたたみカートをトランクに積み夫婦+1匹でデイキャンプに出掛けることがあります。その際、セダンであるModel 3のトランクはドッグカートが大きく占有します。残されたスペースにテント、チェア、テーブルを積むとそれだけでいっぱいになります。EX30と比較すると見劣りするのは致し方ありません。

●充電異常で急速充電が停止

 出先での充電体験を試そうと大黒パーキングエリアに立ち寄り急速充電を実施しました。バッテリー残72%から始めた充電ですが、83%を越えたあたりで「充電異常」の警告が表示され、充電が止まってしまいます。一度、充電プラグを抜いて、再度、認証プロセスから試しましたが、結果は同じでした。

 これは、日本発の充電規格であるCHAdeMOの「450Vの壁」が発生したためと思われます。国が定める電気設備の技術基準には、安全性を考慮して450Vという制限値が設けられています。ここにEX30のような高い充電性能を誇る海外メーカーの車両を接続すると、電流値(アンペア)が上昇しケーブルが発熱するなどの問題が発生します。

 ボルボ・カー・ジャパンの広報も充電異常の表示は「バッテリーの電圧が450Vに達したため停止したものと思われます」とコメントしています。つまり、今回の充電異常は、EX30に問題があるのではなく、充電環境の問題というわけです。ただし、自宅などの交流電源で行う200V/16Aの普通充電であれば、80%を超えても問題なく充電は可能でしょう。

●EX30の総合評価

 好印象のままに終えたEX30の試乗でした。EVだからというわけではなく、クルマとしても素晴らしいユーザー体験をもたらしてくれました。Googleに対応したインフォテインメントはもちろん、運転支援機能などの安全装備も申し分ありません。スポーティーでゴツゴツ感のある21年式Model 3と比較すると、車内の静音性や乗り心地は極めて快適でした。

 ただ、オーディオについては音質やイマーシブ感でModel 3の方が勝っていると感じました。コストダウンとリサイクルを優先したため、スピーカーの数や設置位置に制限が課せられているからでしょう。フロントウェンドウの下にハーマンカードンのサウンドバーを設置することで制限をカバーしようとしています。

 試聴は、各種サブスクサービスを利用しましたが、ロッシー音源である点を考慮しても、一般的なマルチスピーカーシステムを搭載したクルマと比較するのはかわいそうな気がしました。ちなみに、LFE(Low-Frequency Effect)再生装置としてのサブウーファーが搭載されているので低域もそこそこ出ています。

 EX30は、バリューチェーン全体でのサステナビリティを大きく意識したクルマでもあります。実際、EX30のプレスリリースには、「EX30のライフサイクルアセスメントは、ボルボ EV史上最少のカーボンフットプリントを実証」とあります。そのためか、前述のスピーカー構成、再生素材を多用したインテリアの質感、パワーウェンドウ用スイッチの使い勝手の悪さなど、情緒的な価値や利便性を犠牲にしている部分もあります。

 このあたりは、Volvoがこのクルマに込めた理念に共感するか否かで、見方が大きく変わってきます。筆者は、環境問題について意識が高いわけではありませんが、この理念は理解できますし、それを製品に可視化する形で反映させているのは立派だと思いました。

 筆者は、次にクルマを乗り換えるチャンスがあるとしたら、他のクルマは眼中になく、Tesla一択だと考えていました。しかし、EX30の試乗を終えた今、そこに新たな候補が加わったことは付け加えておきます。

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