Infoseek 楽天

“メルトダウンしない”原子力発電所、実験で成功 商用規模で自然冷却は世界初 中国の研究者らが発表

ITmedia NEWS 2024年7月29日 8時5分

 清華大学に所属する研究者らが発表した論文「Loss-of-cooling tests to verify inherent safety feature in the world’s first HTR-PM nuclear power plant」は、外部電源が完全に失われた場合でも、冷却システムを使用せずに受動的に冷却するメルトダウンを起こさない商業用原子力発電所を実証した研究報告である。

 現代の原子力発電所は、過剰な熱を炉心から除去するために動力を必要とする冷却機構や、緊急時には人間の介入による停止に依存している。水や液体二酸化炭素が冷却材として使用されるが、これらは通常、外部電源に依存している。

 これらのシステムが故障すると、炉が過熱し、爆発や過熱によってプラントが溶ける可能性がある。2011年の福島第一原子力発電所事故では、標準および緊急電源システムが失われメルトダウンの一因となった。

 「ペブルベッド炉」(Pebble-Bed Reactor、PBR)と呼ばれる炉設計は、パッシブセーフティの利点がある。冷却システムの電源が失われても、炉は安全に自動停止できる。PBRは高エネルギー密度の燃料棒ではなく、グラファイトに囲まれた少量のウランを含む低エネルギー密度のペブルを多数使用する。

 これにより核反応を遅くし、高温に耐えることができる。このエネルギー密度の低さにより、過剰な熱が全てのペブルに分散され、伝導や対流などの自然冷却プロセスで除去する。

 中国山東省の石島湾サイトに建設されたペブルベッド型モジュール式高温ガス炉(HTR-PM)プラントが、23年12月6日に商業運転を開始した。このプラントは、清華大学が技術リーダー、中国華能集団が所有者、中国核工業集団公司(CNNC)がEPC請負業者として共同で開発したものである。

 HTR-PMプラントは、2基の原子炉モジュールと1基の蒸気タービンで構成。安全性を実証するため、23年8月13日と9月1日に、それぞれ1号機と2号機で自然冷却試験を実施した。試験では、フル出力で運転中の両モジュールの電源を完全に遮断し、崩壊熱が自然に除去できるかを確認した。

 試験の結果、原子炉の出力と各構造物の温度応答から、冷却システムなどの能動的な介入なしに原子炉が自然に冷却できることを示した。これは、商用規模での固有の安全性の存在を初めて実証したものである。

 Source and Image Credits: Zuoyi Zhang, Yujie Dong, Fu Li, Xiaojin Huang, Yanhua Zheng, Zhe Dong, Han Zhang, Zhipeng Chen, Xiaowei Li. Loss-of-cooling tests to verify inherent safety feature in the world’s first HTR-PM nuclear power plant.

 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2

この記事の関連ニュース