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「いつもご指導頂きありがとうございます」──なぜ学生は“丁寧すぎるメール”を送るのか?

ITmedia NEWS 2024年8月9日 8時5分

 大阪工業大学に所属する越智徹さんが発表した論文「なぜ学生のメールはあんなに丁寧なのか?」は、学生が教員へ送るメールの内容を分析した研究報告である。この研究は、2021年にTogetterでまとめられたトピックが発端となる。

 新型コロナウイルスの影響でオンライン授業が増加し、学生と大学教員のメールでのやりとりが急増した。これまでは件名や名前も名乗らない非常識なメールを送っていた学生が、最近では必要以上に丁寧で、ビジネスメール以上に形式的な文面が目立つようになった。

 この現象をより詳細に理解するため、この研究では160人以上の学生を対象にアンケート調査を実施。調査結果では、まず学生の63%が普段からほとんど電子メールを利用していないと回答した。次に、教員名や授業名などのシチュエーションを設定し「教員にメールを出す場合、どのような文面にするか書いてください」という質問に対する回答を得た。

 これらの全回答をChatGPT(GPT-4o)に入力して「非常に丁寧に書かれたパターンを抜き出して教えてください」というプロンプトを加えた結果、次のような応答があった。

 冒頭のあいさつでは「いつもお世話になっております」「いつもご指導頂きありがとうございます」という定型句が使用されている。自己紹介部分では「私は○○学部○○学科の△△と申します」という形式、また学籍番号を記載する学生も多く見られる。

 依頼に入る前の前置きや、メールの締めくくりとして「お忙しいところ申し訳ございませんが」「お手数おかけしますが」といった、やや大げさな表現も多く見られる。

 次の調査として、下記の3つのメールパターンを提示して、どれが最も適しているかをアンケートした。3つのパターンはChatGPTに書いてもらったもので、パターンAは過剰に丁寧な内容、パターンBは丁寧だが過剰ではない内容、パターンCは主に要件だけを書いたいわゆる1行メールに近い内容になっている。

 結果は、パターンBが65%で一番多かったが、注目したいのは丁寧すぎる内容のパターンAが34%と多いことだ。パターンAを選択した理由として「敬語がしっかりしている」「締めくくりのあいさつを書いている」などがあり、これらの結果から、教員を過剰に意識(過剰に丁寧に接するべき存在)している可能性を示唆している。

 学生が教員に過剰に装飾したメールを送る現象の背景には、メール作成の経験不足がある。適切な書き方が分からない学生は、不安を解消するためか、ネットで検索したサンプル例や、大規模言語モデルに応答させた内容を参考に書いている可能性が考えられる。

 この状況を確認するため、「メール 先生 書き方」でWeb検索を行い、上位に表示されたサイトを分析した。これらのサイトには、学生のメールテンプレートと呼べる要素が多く含まれている。「お世話になっております」「お忙しいところ失礼いたします」などの過剰なあいさつや「いつもご指導いただきありがとうございます」といった定型文、さらには夜中に送信しないなどのメールの送信時間への注意喚起などが見られた。

 結果として、これらの例文を参考にした学生が、過剰な敬語表現やビジネスメール調の文面を使用する状況となっている。「丁寧な内容を送っておいた方が損をしないし良い」という意識があるのかもしれないと考察している。

 Source and Image Credits: 越智 徹. なぜ学生のメールはあんなに丁寧なのか?. 情報処理学会 情報教育シンポジウム, 2024, 396 - 403

 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2

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