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「夏でも背中ひえひえ」は本当か? “ペルチェ素子入り”リュックで痛感した理想と現実

ITmedia NEWS 2024年8月18日 11時0分

 日本の夏は暴走気味だ。35度を超える「猛暑日」が当たり前になってしまい、「午前中の涼しいうちに~」の世界線はもうどこかに行ってしまった。ようこそ、早朝からサクっと30度を超える新世界へ。

 夏こそ涼しい自宅で快適リモートワークと言いたいところだが、オフライン回帰で取材や発表会のリアル開催もだいぶ増えてきた。この仕事をしていると荷物が多くなりがちで、PCや充電器などの周辺アクセサリ、カメラ、モバイルバッテリー、説明会や展示会でもらう資料などを雑に突っ込めるリュックが手放せない。しかし背中全体を覆うリュックは熱がこもるため、夏はすぐに汗だくだ。人混みを避けて移動したいので自転車を使いたいのもある。

 そこをIT媒体らしく「テクノロジーの力」で解決できないかと考え、今回「ペルチェ素子」を使った2つのクールテック製品をサンコーから試用する機会を得た。1つは既存のリュックに取り付けて使用する「リュックスペーサー」、もう1つはペルチェ素子を内蔵した「クーリュック2」だ。猛暑の中でどこまで快適になるのか、汗水垂らしながら検証してみた。

●手持ちのリュックを活用できる「リュックスペーサー」

 まず試したのは、サンコーの「リュックスペーサー」だ。筆者は仏Cote&Cielの「Isar」というリュックをかれこれ10年ほど使っている(現在3代目)。デザインに振りながら収納力があり、ガバっとファスナーを開けて中にアクセスできる実用性もあって長年お世話になっている。昔は街中でよく遭遇したものだが、最近は使ってる人もあまり見かけなくなった。

 リュックスペーサーは、後付けで取り付けられるクールテック製品で、背中とリュックの間にスペーサーを挟んで空間を生み出し、そこにペルチェ素子のユニットを装着することで背中を冷やす仕組みだ。ペルチェ素子の下には、ファンが付いた金属プレートもあり、ダブルの冷却機構で背中を冷やす狙いのようだ。謳い文句通りなら、お気に入りのIsarリュックをペルチェ素子対応にできるはずで大変期待が高まる。

●筆者に立ちはだかる「理想と現実」

 だが……現実は厳しかった。アイデアは大変良かったものの、筆者にとっては使いづらかったのが正直なところだ。もちろん、筆者の体格(181cmで肩幅ガッチリ目)や組み合わせるリュックとの相性もあることは事前に説明しておきたいが、ペルチェ素子ユニットの“でっぱり”に耐えられず、途中で試用をやめてしまった。

 リュックスペーサーは、ペルチェ素子ユニットをスペーサーに取り付けると、3cmほど背中側に飛び出す構造になっている。そもそもペルチェ素子は電気を通すと片方は発熱し、もう片方は吸熱する性質を持つ。発熱側をうまく冷却しないと吸熱効率が落ちる(=冷えなくなる)ため、発熱側にヒートシンクやファンを付けて強制的に冷やす必要が出てくる。ユニットは必然と厚くなるし、ファンを付けるなら風を取り込むためのマージン(空きスペース)も必要になってくる。

 スペーサーが稼げる空間にも限りがあるので、マージンを確保するために厚いユニットが前に飛び出てしまうのは理解できる。そのおかげで確実に背中にプレートが当たるのも事実だ。勝手に胸を張ってしまうレベルの“圧”なので、猫背を解消したい人には良いアイテムなのかもしれない(?)

 飛び出しの影響をモロに受けたのが自転車だった。ユニットは背中の中央に固定されるため、ハンドルを持つ(腕を前に持ってくるので背骨が出てくる)と、浮き出た背骨がユニットに当たる。持ち歩く機材が多くリュック自体も結構な重さになるので、前にかがむほど飛び出たユニットにリュックの重みが集中するのだ。実際にリュックを背負ってスポーツタイプの自転車に乗ってみたところ、このピンポイント攻撃に耐えられず途中でユニットを取り外した……というのが事の顛末だ。

 給電はモバイルバッテリーを使う。バッテリー内蔵式と違って、容量に応じて好みのバッテリーが使えるし、複数持ち歩けば容量がなくなっても交換して使い続けられる。ただ、この方式も完璧とは言えず、バッテリーの自動スリープ機能との相性の悪さが垣間見えた。

 大半のモバイルバッテリーは、デバイスを取り外したり、電気的にオフな状態になると自動で電源が切れるようになっている。このため、ペルチェ素子ユニットをつなげてすぐに電源を入れれば問題ないものの、しばらく経ってオンにしようとしてもバッテリーが立ち上がらず、リュックから一度取り出してバッテリーの電源を入れ、そのあとペルチェ素子ユニットの電源を入れる羽目になる。メーカー違いで複数のバッテリーを試したがいずれも同じ挙動だったため、「電源入れっぱなし」運用が一番ラクかもしれない。

 ペルチェ素子ユニットの冷却性能は結構強力だった一方で、その下にあるファン付きの金属プレートはいまいち効果を感じられなかった。ファンは直接背中に当たるわけではなく金属プレート自体を冷却するもの。位置的に腰付近を冷やすものだったのだろうが、無効化されるぐらい日本が暑すぎるのだろう。ペルチェ素子だけで十分に冷えるし、ファンの音も結構デカかったので基本オフで使っていた。

 ものは試しに、ペルチェ素子を取り外してプレートだけでも使ってみた。これが意外と効果てきめんで、ペルチェ素子ならではの「冷え冷え」感はないものの、背中とリュックの間に強制的に作ったスキマのおかげで通気性が良くなり蒸れにくい。よく登山用や自転車用のリュックで最初から隙間が作られているベンチレーションタイプのものがあるが、あれのメリットがよく分かる(実のところ筆者はこの状態で当面使わせてもらった)。

 改めてお伝えしておくが、さまざまな種類のリュックに取り付けることを想定した汎用品という性質上、快適かどうかはリュックや装着者との相性にだいぶ依存する。今回は筆者がガッチリ体系+造りが厚めのリュックで使ったため余計に“圧”を感じた可能性もある。こればかりは条件次第なので、筆者が使ってみた場合の話であることをご理解いただきたい。

●より理想に近い……? 「クーリュック2」を試す

 Isarリュックのペルチェ化計画を断念した筆者は、専用品ならどうだろうと気になり始める。そこで、同じくサンコーから出ている「クーリュック2」も試用させてもらった。こちらはペルチェ素子ユニットが最初から内蔵されたリュックで、金属プレートは肩甲骨付近に2つ、腰付近に1つあり結構豪華だ。

 じゃあ実際に使ってみてどうだったかといえば「いくつかの“犠牲”を飲み込めばちゃんと使える」という印象だ。

 リュックスペーサーと違い、ペルチェ素子ユニットは飛び出ておらず、背中に当たるパッドとうまく同化している。専用設計だからできるワザだ。歩きや「ドコモ・バイクシェア」のような自転車なら全く問題なく、冷たいペッドボトルを当ててもらっている感覚で心地良い。空冷ファンも3つ搭載しているが、リュックスペーサーと比べて幾分か静かなのも使いやすかった。

 手元のコントローラーで強と弱を切り替えでき、10000mAhのバッテリーかつ「強」の設定でおおよそ3時間ほど稼働した。ペルチェ素子ユニットが内蔵されている部分は、側面にメッシュ素材を採用することで通気性を確保している。発熱するペルチェ素子をどうやってリュックに持ち込んだのか気になっていたが、結構力技で解決していた。

 ただ、猛暑日の真っ昼間だとさすがに冷却性能が落ちるようでプレートは少しぬるくなってしまう。取扱説明書によれば、35度を超える環境では冷却効果が落ちるとのことで、メッシュをもってしても排熱には限界があるようだ。

 なお、腰の部分のプレートのみ中央部分が盛り上がっており、前傾姿勢で乗るスポーツタイプの自転車だとプレートが背骨に当たる。とはいえ、リュックスペーサーの“猛プッシュ”に比べたら些細な問題ではある。

 一見良さそうに見えるクーリュック2だが、発熱源でもあるペルチェ素子をリュックに内蔵するために“犠牲”にした部分もある。

●4つの「犠牲」ポイント

 まず1つ目だが雨天では使えない。クーリュック2は、ペルチェ素子ユニットを内蔵している土台部分と、荷物が入る収納部分をファスナーで接続し、1つのリュックに仕上げている。土台部分はペルチェ素子の熱を逃がすため、先ほどの通りメッシュ素材を採用しているが、これは水が中に入りやすくなることも意味する。ここは給電に使うモバイルバッテリーも収納するため、ペルチェ素子やモバイルバッテリーの故障を考えると「濡れ」は絶対に避けたい。8月になっても“ゲリラ豪雨”があるので油断はできないが、基本晴天専用と考えてもらって良い。

 2つ目は収納の少なさだ。「クーリュック2」と書かれてあるとおり、このシリーズには初代モデルが存在するが、こちらは「リュック風ベスト」で、ほとんど収納できる部分がなかった。それと比べると後継機は「ちゃんとリュックとして使える」ようになっている。

 とはいえ、リュックとしてみるとやはり収納スペースの少なさが気になる。特に収納部分のマチが狭く、厚みのあるものは基本入れられない。収納部分の素材が柔らかいので、その包容力を生かして無理のない範囲で詰め込む感じになる。最低限の仕事道具+夏装備でいろいろ試行錯誤した結果、ノートPC、コンパクトカメラ、充電器・モバイルバッテリー、傘、汗拭きシート、財布、飲料水ならギリギリだが詰め込むことができた。もし空きスペースを確保したい場合は、カメラをスマートフォンで代用したり財布をより薄型なものにするなどいくつか方法もある。

 ノートPCはフットプリント的に12インチクラスなら余裕、13インチだとギリギリ入れることができる。筆者が使っているDELLのInspironは16:9パネルでピッタリだったが、16:10クラスになってくると入るかは微妙なところ。なお、14インチのMacBook Proはダメだった。

 ただし、収納部分にPCを入れると他の物が一切入らなくなる。そこで活用したのが土台部分のポケットだった。本来ここはモバイルバッテリーを入れるためのものだが、後述する点で別の場所に設置している。PCと冷却ファンの吸気口が当たってしまうが、クーリュック2の冷却ファンは横からも空気を取り込める構造で特に問題なく機能した(PCの天板とユニットが接触するので何か間に挟むかケースに入れられるとベスト)。イレギュラーな使い方である点はご留意いただきたいが、このポケットのおかげで収納部分がPCに占拠されず、写真の通り他の物を入れることができた。

 なお、薄すぎるマチだが、おそらく土台部分にメッシュを採用したことと関係があるように思う。というのも構造上、収納部分の荷重も全てメッシュが支えるようになっており、もしマチを広げて容量を増やしてしまうと、メッシュと縫製がさらに引っ張られることになる。ここは想像だが、強度が確保できる容量に抑えるべく、あえて薄いマチを採用したのかもしれない。

 3つ目はモバイルバッテリー起因の問題で、リュックスペーサーと同じく、電源が切れたモバイルバッテリーをコントローラーから起こすことができない。こちらも、リュックから一度モバイルバッテリーを取り出して電源を入れるか、スリープする前にペルチェ素子ユニットの電源を入れるしかない。

 ところが、ペルチェ素子ユニットの下(リュックの底面)に、ちょうどモバイルバッテリーがすっぽり入るスペースがある。ここに、電源ボタンを外側にしたモバイルバッテリーを配置することで、背負ったまま後ろに手を回してモバイルバッテリーの電源を入れられる。本来のモバイルバッテリー用ポケットを利用するのが一番なのだが、外から電源ボタンに届かないため「運用でカバー」させてもらった。

 4つ目は洗えない点だ。いくらペルチェで暑さが和らぐとはいえ汗は普通にかくので、背中のパッドにも汗が染み込む。衛生的にも定期的に洗いたいところだが、取扱説明書によると水に浸けたり丸洗いしたりは禁止となっている。なので、パッド部分の汗は濡れタオルなどで拭くぐらいしかできない。後継モデルがあるのなら、ペルチェ素子ユニットを取り外せるなどメンテナンス性の改善を期待したい。

 と、いくつか不満点も書いたが、この世に万人が満足する完璧な商品なんてのは幻想に近いので、大体どこか折り合いを付けながら使うもの。クーリュック2の「犠牲」が納得できるなら大変便利なグッズだと思う。

●アイデアを形にする大変さ

 誰でも一度は考える……かもしれない、ペルチェ素子入りリュックだが、クーリュック2を見てると、他のメーカーで同様の製品をあまり見かけない理由が分かったような気がする。キモはやはり排熱処理で、そこにメッシュ素材でゴリ押しするという“裏ワザ”で商品にしたのはさすがサンコーといえる。

 一方で、「真夏でも快適リュックライフ」の実現に、ペルチェ素子がマッチするかといえばそうでもないことも分かってきた。ペルチェ素子を使わずとも「スペーサー単体」で通気性を高めるだけも一定の効果を感じたので、ベンチレーションに特化した専用品を使うのも手だ。また、ペルチェ素子をリュック側ではなく人間側に置くのも1つの手かもしれない。今回試せていないが、ソニーのREON POCKETシリーズのように身体に装着する商品もいくつか出ており、それをリュックと組み合わせるという方法もあるだろう。

 2つの製品を試して分かったが、「猛暑でもリュックを快適に使う」はなかなかに高いハードルだと感じた。おそらく完璧な商品は存在せず、どの部分を重視してどこを諦めるか、条件は人によって変わる。おのおのが最適なソリューションを見つけて、まだまだ続く猛暑を乗り切ってほしい。

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