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メルカリvs.タイミー スポットワーク市場に巨人参入、「メルカリ ハロ」の勝機は

ITmedia NEWS 2024年8月23日 12時15分

 拡大を続けるスポットワーク市場に、フリマアプリの巨人メルカリが参入して3カ月が経過した。

 フリマアプリで成功を収めたメルカリが、次の成長領域として選んだのがスポットワーク市場だ。サービス開始から3カ月で500万人の登録者を獲得したと発表しており、その成長ぶりが話題となっている。フリマアプリ市場では後発ながら急成長を遂げたメルカリだが、スポットワーク市場では異なる課題に直面する可能性もある。

 「中期的にNo.1を目指す」──メルカリの山田進太郎CEOが掲げたこの目標に、業界の関心が集まっている。先行するタイミーに対し、メルカリがどこまで食い込めるのか。

●スポットワーク市場の盛り上がりと先行するタイミー

 スポットワーク市場は近年、急速な成長を遂げている。山田進太郎CEOは、この市場の潜在規模を年間約5兆円と推計している。この巨大市場で、先行する企業の一つがタイミーだ。

 タイミーは2018年8月にサービスを開始して以来、スポットワーク市場でのパイオニアとして急成長を遂げてきた。7月には東証グロース市場に上場し、時価総額は2000億円近くに達している。タイミーが従来の求人サービスと一線を画しているのは「個人が働きたい時間」と「企業が働いてほしい時間」とをマッチングするスキマバイトサービスであるという点だ。

 24年4月末時点で、タイミーには770万人以上のワーカーが登録しており、日本の働く人口(18歳以上)のうち、約10人に1人が利用している計算になる。

 タイミーの成長の背景には、副業解禁などの働き方改革やコロナ禍といった社会情勢がある。さらに、インフレ・円安に伴う「値上げラッシュ」も追い風となった。食料品価格やその他生活コストの上昇を実感した人が、生活費の補填を目的としてタイミーを使うケースが増加している。

 タイミーが幅広い年齢層に利用されている点も、いわゆるアルバイトとは異なる点だ。20・30代が約半数を占める一方で、65歳以上のワーカー数は23年7月時点で約4万人に達し、20年以降毎年約2倍のペースで増加している。

 タイミーを活用する事業所数も急増している。24年4月末時点で25万4000件を超えており、業界・業種も広がりも見せている。スーパーマーケットやホテル、介護、農業などの新たな業界でタイミーが活用されるケースが、近年増えてきた。

●メルカリの参入と野心的な目標

 スポットワーク市場の急成長を受け、この分野に参入する企業が相次いでいる。大手IT企業から人材サービス会社まで、さまざまなプレイヤーがこの新しい市場でのシェア獲得を目指している。

 そうした中で注目を集めているのが、フリマアプリ大手のメルカリだ。メルカリは24年、スポットワークサービス「メルカリ ハロ」をリリースし、この新たな市場への本格参入を果たした。メルカリの山田進太郎CEOは、24年6月期の決算発表会見で、スポットワーク事業について「中期的にNo.1を目指す」という目標を掲げた。

 実際のところ、メルカリ ハロは先行するタイミーを抜けるのか?──メルカリ ハロを含む、メルカリグループの国内事業の責任者である山本真人氏は自信を見せる。単独インタビューにて山本氏は「登録者数で見るとタイミーを抜く可能性はけっこうある」と述べた。

 メルカリハロの強みは、そのユーザーベースにあるという。サービス開始からわずか3カ月で500万人を超える登録者を獲得するなど、成長速度は目覚ましい。これは、メルカリが持つ約2300万人の月間アクティブユーザー(MAU)という巨大な基盤を生かした結果だ。

 一方、タイミーは2024年4月末時点で770万人以上のワーカーが登録しており、現時点では依然としてユーザー数で優位に立っている。しかし、山本氏は単純な数の比較には慎重な姿勢だ。「競合他社と数の競争をしているイメージはない」と山本氏。「シナジーを得てもらえる顧客を注力(して獲得すること)」が重要だと、質を重視する姿勢を見せた。

 さらに山本氏は、メルカリ ハロの強みについて複数事業のシナジーを強調する。メルカリが19年に参入したメルペイなどのフィンテック事業は、マーケットプレースの巨大な会員基盤を生かし、23年に黒字化を果たした。「KYC(本人確認)済み、売上金があって、かつ売上金で買い物をするマーケットプレースもある。金融サービス単体で推すよりも使うシーンがあることで伸びた」と説明。メルカリ ハロでもシナジーを生かして競合を追う形だ。

●加盟店開拓戦略:メルカリの2B部隊強化と市場の現状

 スポットワーク市場での成功には、ユーザー数の拡大だけでなく、加盟店の開拓も重要な要素となる。コンシューマー向けに圧倒的な顧客基盤を誇るメルカリだが、法人向け接点は弱みだ。スポットワークの登録事業所も、タイミーの25万4000件超に対し、メルカリ ハロは約5万件にとどまる。

 加盟店開拓の強化について、山本氏は「メルカリには複数の事業者獲得事業がそろってきている」と述べる。メルカリにはもともと法人向けの営業チームはなかったが、メルペイの加盟店開拓をはじめ、メルカリShops、そしてメルカリ ハロと複数の対法人向け事業が増えてきている。これらを横断的に活用した営業活動を展開していくという。

 しかし加盟店開拓において、先行者の優位は強い。その一つが、スポットワークで課題となる社会保険料だ。事業所側はスポットワークを活用するにあたり、社会保険料負担が発生しないように月間の報酬額をコントロールしている。実際、同一企業で社会保険料が発生する月間8万8000円を超えないように、仕事の申し込みを制限する機能をタイミーは設けている。

 もし事業所が複数のスポットワークサービスを併用した場合、同一人物が合計で8万8000円を超えていないか自ら確認し、超えていたら社会保険の手続きをしなくてはいけないわけだ。このような事務負担は、事業所側にとって複数のスポットワークサービスを利用するハードルとなる。このため、先行してサービスを展開し、多くの加盟店を獲得しているタイミーには一定の優位性があると考えられる。

 しかし、山本氏は「働きに来る人がいるかが重要。働く人がどれだけいるかが重要」とも述べ、ユーザー基盤の強さで挽回する考えだ。

 メルカリには、後発でありながら市場を制した経験がある。フリマアプリ市場では、先行していたフリルに対し、圧倒的な資金力と強力なマーケティング戦略で急速にシェアを拡大し、最終的にトップの座を獲得した。

 この成功体験は、スポットワーク市場での戦略にも生かされる可能性が高い。メルカリの持つ巨大なユーザーベースと、複数事業間のシナジーは、タイミーにとって無視できない脅威となるだろう。しかし、タイミーにも先行者としての強みがある。特に加盟店との関係性や、スポットワーク特有の課題に対する深い理解は、簡単には覆せない優位性だ。

 両社の競争は、スポットワーク市場全体を活性化させ、日本の労働環境に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。メルカリの参入により、市場の認知度が高まり、より多くの人々がスポットワークという新しい働き方に触れる機会が増えるだろう。スポットワーク市場は、まさに第二の成長期を迎えようとしている。

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