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一部でスタートした「給与デジタル払い」、一体誰に向けたサービスなのか

ITmedia NEWS 2024年8月28日 10時41分

 2023年4月1日に解禁となった「給与デジタル払い」。対応サービスが出ないまま1年が経過したが、ようやく8月9日に、第1号として「PayPay給与受取」が厚生労働大臣から指定を受けた。24年内でのサービス開始を目指すが、先行してソフトバンクグループ10社に勤める従業員を対象に14日から登録を開始している。

●「デジタル給与」払いってそもそも何?

 現在、給与は銀行口座への振込が一般的だが、これは1975年に金融機関の口座への受け取りが可能になったことで一般化したもので、98年には証券口座でも受け取れるようになった。今回の解禁は、銀行業ではない資金移動業者の口座でも直接給与が受け取れるようにするものだ。

 といっても、PayPay給与受取で振り込める給与は上限20万円まで。それを超える分は、あらかじめ登録した銀行口座に自動的に送金される仕組みとなる。制度的には資金移動業が扱える最大100万円まで受け取れるが、自主的に上限を抑えている形だ。PayPayは、破綻など何らかの理由でサービスがクローズした場合でも6営業日以内に給与を返却できるよう、三井住友海上火災保険と専用の保証サービスを構築しており、この辺も上限額に影響しているのかもしれない。

 受け取った給与は、PayPay残高として決済に使ったり、家族や友人への送金に使用したり、PayPay銀行やその他金融機関への送金(金融機関への送金手数料は月1回まで無料)、PayPay証券での資産運用、PayPayほけんなどへの支払いに充てることができる。

 PayPay給与受取を利用するにあたり、雇用する企業側がPayPayと何かしら契約したり、追加のシステム開発を行う必要はない。事前準備として、給与デジタル払いに対応するために必要な労使協定を労働組合、あるいは労働代表者と締結し、企業から制度に関する留意事項などの説明を受けたのち、利用したい従業員が申告する形で同意申請を行う。給与デジタル払いはあくまでも任意であり、銀行振込と並んで給与を受け取るための1つの方法に過ぎない。

 給与は「PayPayマネー給与」という形でチャージされる。企業側の負担を減らすため、銀行口座と同じように振り込めるよう、アカウントにチャージするための入金用口座番号(バーチャル口座)が割り振られる。この入金用口座番号を手間なく基幹システムと連携できるよう、PayPayは「奉行クラウド」などを手掛けるオービックビジネスコンサルタントと提携を発表。手書きの必要なく基幹システムとアカウントを連携できるようになっている。

 制度解禁からサービス提供開始までに1年以上を要したが、バーチャル口座のスキームや専用の保証サービスの開発、振込部分の作り込み、基幹システム事業者との連携の他、給与を受け取る口座とそれ以外の口座を分類する必要があるなど、厚生労働省のガイドラインに沿った細かな要件への対応含め、開発範囲が広かったためとしている。

●誰が利用するのか

 では、ユーザー視点では誰が利用するのだろうか。給与デジタル払いでは当初、銀行口座を持っていない従業員に給与の振込ができる点などがメリットとして語られていたが、PayPay給与受取については、20万円を超えた分を振り込む銀行口座の登録が必須になっている。つまり、何かしらの金融機関の口座をすでに持っている従業員しかPayPay給与受取を利用できない。

 となると、「銀行口座からPayPayアカウントにチャージするのと変わらないのでは」という声も出てくるだろう。オートチャージ機能もあるので、残高が足りなくなったら登録口座から自動でチャージすることもできる。

 そこで、PayPayがアピールするのが週払いへの対応や、“サブ口座”としての利用だ。即日払いであったり週払いのへのニーズが徐々に増えている一方で、給与振込時の手数料は企業からすると少なくない負担になっている。月に何度も振り込みとなると手数料だけでバカにならない。

 PayPay給与受取でもバーチャル口座への振り込みは手数料が発生するものの、PayPay銀行の法人口座→従業員のPayPay銀行口座への振込に関しては無制限で手数料ゼロをうたう。そこからPayPay給与受取アカウントに自動でチャージされるため、従業員からニーズが高まっている「支払いの柔軟化」に使ってもらおうということのようだ。これに加え、最近はスポットワークや副業も増えており、第2、第3の給与受取口座として使ってもらうことも想定している。

 ユーザーへの利便性は週払いだけではない。給与受取アカウントに入金された残高は、移動操作なしでPayPay証券のつみたて投資に回すことができる他、おこづかいや生活費など、毎月1回、指定した金額を指定日に自動で送金する「おまかせ振り分け」機能なども利用できる。送金や関連サービスを使ってもらう時に障壁となる「煩雑な操作」を全て自動化できる点もメリットとしてアピールする。

 これを便利だと思うユーザーにとってはPayPay給与受取は使いやすいサービスだろう。PayPay執行役員の柳瀬将良氏は対象ユーザーについて、パート・アルバイト向けだけでなく、正社員含め老若男女使ってもらえると語る。先行導入しているソフトバンクグループ10社では、数は非開示なものの想定以上の社員からPayPay給与受取への申し込みがあった他、すでに「3桁の企業数」(柳瀬氏)から問い合わせが入っているという。

 PayPayは「支払いからデジタルのお財布になる」(柳瀬氏)という長期的なビジョンを掲げており、銀行も証券も保険も、金融サービスが拡充してきたことから、お金周りをまるっとPayPayアカウントで管理できる構想が実現しつつある。日本の給与は総額231兆円と言われており、約6000万人が受け取っているとされている。その一部分でもPayPayアカウントに入金される仕組みを作ることで、PayPay全体の取扱高も増える。

 とはいえ、まだまだPayPayや雇用主側の論理が勝っているように見える。そもそも給与受取アカウントは銀行口座じゃないので利息もつかないし、キャンペーンの展開も現段階では予定していないという。正直、通常のチャージ機能で不便に思っておらず、月1回の振り込みで困っていない従業員からすると何が便利か分かりにくい。「給与の一部が最初から残高にチャージされている」ことでどう便利になるのか、PayPayだけでなくこれから認可を受けるであろう、第2、第3の資金移動業者含め、業界全体でアピールしていく必要がありそうだ。

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