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塗ると肌が一時的に透明になる「黄色い液体」 生きたマウスの皮膚を透過、内臓や脳内の観察に成功

ITmedia NEWS 2024年9月11日 8時5分

 米スタンフォード大学などに所属する研究者らが発表した論文「Achieving optical transparency in live animals with absorbing molecules」は、体内の臓器などの生体内部を、その上にある組織を可視光に対して透明にすることで非侵襲的に観察する手法を提案した研究報告である。この方法を用いると、生きている動物の皮膚を一時的に透明にし、内部組織を観察することができる。

 生物の体の中を光で見ようとすると、光が散乱してしまい深くまで見えないという問題がある。これを解決するため、研究チームが用いたのは「タルトラジン」という黄色の食用色素だ。これは食品業界で広く使用されており、青色と紫外線を含むほとんどの光を吸収する分子が含まれる。

 この色素を溶かした水溶液を皮膚に塗布すると、溶液の屈折率が変化し、これが組織成分(特に脂質)の屈折率と一致するようになる。その結果、皮膚組織内での光の散乱が減少し、霧が晴れるように光の透過が改善される。この仕組みにより、生体組織の光学的透明化を達成できる。

 研究チームは、マウスの腹部や頭部に色素溶液を塗布することで、内部器官や脳血管の観察に成功した。具体的には、肝臓、腸、膀胱が腹部の皮膚を通して観察できた。例えば、腸管の蠕動運動(食物を移動させる筋肉の収縮)を観察可能にし、頭の皮膚に染料を塗ると脳の血管が見えた。

 この効果は一時的なもので、色素を洗い流すと処理された皮膚は通常の色に戻り、効果も失われる。

 応用として、侵襲的な生検に頼ることなく、単に組織を外部から観察するだけで深部の腫瘍を診断できる可能性がある。また、採血の際に静脈を容易に見つけられるため、より痛みの少ない採血が可能になるかもしれない。

 マウスの皮膚の約10倍の厚さがある人間でこの方法をテストしていない。研究チームは、人間の組織に最適な染料の用量や投薬方法はまだ分かっていないため、今後の課題としている。

 Source and Image Credits: Zihao Ou et al. ,Achieving optical transparency in live animals with absorbing molecules.Science385,eadm6869(2024).DOI:10.1126/science.adm6869

 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2

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