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消費電力ほぼ半分、“冷房つけっぱなし時代”のエアコンに採用した新モードとは? 東芝「弱冷房車両のような優しい涼しさ」

ITmedia NEWS 2024年9月29日 7時0分

 東芝ライフスタイルは、冷房を長時間つけっぱなしにすることを前提に開発した「弱冷房」モードを搭載した新型エアコン「DRシリーズ」を10月下旬に発売する。しかも弱冷房モードなら、通常の冷房に比べて消費電力を約48%カットできるという。

 つけっぱなしなのに省電力とはどういうことか。従来の冷房との違いは? いわゆる「弱冷房除湿」と何が異なるのか? 商品企画を担当した東芝ライフスタイルの大石剛久さんに話を聞いた。

●ゆっくり冷やしてピーク電力を約48%カット

 この「弱冷房」モードはそもそも温度設定ができず、27℃を目安に、風量は「しずか」相当で動作する(風量の変更は可能)。

 従来の冷房のように部屋を強力に冷やしたり、設定温度に近づけることよりも、消費電力を一定以上にしないことを優先して動作する。このため、部屋全体を冷やしたい時に使うと時間がかかってしまう。

 「室温30℃のテスト空間を27℃にする場合、通常の冷房モードで約6分だったのに対して、弱冷房では約30分かかりました。それぐらい部屋が冷えるまで時間はかかります」(東芝ライフスタイル エアコン事業部 企画部 商品企画担当 大石剛久さん)

 このため、帰宅した直後の部屋を急いで冷やしたいといったニーズには合わない。想定しているのは、電車の「弱冷房車両」のような優しい涼しさだ。

 通常の冷房運転はフルパワーで部屋を一気に冷やす。そして室温が設定温度を下回ると運転をストップし、再び室温が上がると再び冷やす断続運転を繰り返している。この方が部屋を速く冷やすことができるうえ、設定温度をキープしやすいためだ。これに対して「弱冷房」はパワーを落とし、ゆっくりと部屋を冷やすことで消費電力を抑えている。

 「車の運転に例えると、通常の冷房はストップアンドゴーを繰り返している状態。『弱冷房』モードは一度発進したら停止せず、常にゆっくりと進み続けているような状態です」(大石さん)

 このようにゆっくりと冷房することにより、試験空間では運転開始から3時間後までの消費電力が、通常冷房で956Wh、弱冷房モードで494Whと半分近くに抑えられる。

 この「弱冷房」モードは、多くのエアコンに搭載されている「弱冷房除湿」機能と名前が似ているが、機能としては大きく異なる。「弱冷房除湿」は除湿が目的のため、熱交換器を冷やして空気中の水分を結露させて除湿する。「弱冷房」モードは低消費電力を重視して動作するため、熱交換器を結露するような温度まで下げることはなく、そのため高い除湿効果は得られないという。

●つけっぱなしトレンドに合わせて開発

 東芝ライフスタイルが、エアコンに「弱冷房」モードを搭載した背景には2つの要因がある。1つが、省エネ性の追求だ。同社では、近年の燃料費高騰もあり、エアコンを2023年にモデルチェンジした際、徹底して省エネ性能を追求したという。

 「エアコンの省エネ性能を語るうえで特に注目されるのが、フルパワー運転でのピーク時の消費電力です。ここを省エネ化することで、高い節電効果が得られます。DRシリーズはフルパワー時だけでなく、室温が設定温度に到達したあとの安定運転時の消費電力も、従来機種と比べてかなり下げています。ただフルパワー時の省エネ性と比較すると広告的にあまりインパクトがないため、注目されにくいことが難点です」(大石さん)

 この安定運転時の省エネ性能の向上は、熱交換機の形状やコンプレッサー技術などさまざまな要素が組み合わせによって実現したそうだ。

 そしてもう1つの要素が、夏場の急激な気温上昇だ。気温上昇の指標として、環境省の「熱中症警戒アラート」があるが、これは「翌日の最高暑さ指数(WBGT)が33(予測値)に達する場合等に発表」される。「熱中症警戒アラート」の発表数(1シーズンの58地域の合計発表数)は2021年が613回、2023年が1232回と2年でほぼ倍増。2024年は9月25日までで1722回とさらに増えており、熱中症リスクが高まっているとわかる。

 こうした状況で増えているのが、夏場のエアコンのつけっぱなし運転だ。短時間の不在ならエアコンは消さない方が省エネになることに加え、就寝時にエアコンを切るのも熱中症の原因になりかねない。そうしたことから、冷房を1日中つけっぱなしで使う家庭が増えているのだ。「弱冷房」モードは、はこのつけっぱなし運転を想定して開発された。

 「お客様調査をすると、やはり冷房をつけっぱなしで使っている方が増えています。夜寝る時も止めず、タイマーなども使わないで28℃ぐらいでつけっぱなしにしている。そういう声が聞こえてきて、つけっぱなしに特化にした機能が必要だと考えました」(大石さん)

 こうして生まれたのが新搭載の「弱冷房」モードだ。そして名称は、社内でアンケートを取った結果、弱冷房車両のイメージで、機能がわかりやすいことからこの名前になったそうだ。

 暖房に関しては、「弱冷房」モードのように風量を抑えて運転しても、温かい風が天井に溜まってしまって効果が得にくいため、同様の「弱暖房」モードは搭載していない。その代わり、独自のレーダーがピンポイントで人を狙って集中的に送風する「節電」モードを搭載している。これは元々「節電冷房」機能だったが、新たに暖房にも対応。冷えやすい足元を集中的に狙って温風を送ることで、快適さ節電を両立している。

●低消費電力で熱中症を回避

 新たに搭載した「弱冷房」モードは、エアコンのつけっぱなし時代を想定した新しい機能だった。つけっぱなしは、近年の燃料費高騰やそれを受けた省エネ指向の流れに逆行することもあり、メーカー側がそれを訴求することはないと思われていたが、この機能があれば、電気代を気にすることなくつけっぱなしにできる。

 「弱冷房」モードは、帰宅時などに部屋を一気に冷やすのには向かないが、通常運転で冷やした後に「弱冷房」モードへに切り替えることも可能。また「弱冷房」モード時に、外気温が高すぎるなどで室温が下がらない場合は通常冷房に自動で切り替わるため、熱中症リスクも低減できる点も安心だ。

 さらに便利なのが、スマホアプリ「IoLIFE」に新たに追加されたウィークリータイマー機能だ。これは曜日や時間帯によって動作モードや設定温度、オンオフを細かく指定できる機能。手元のリモコンで都度操作することなく、日々のライフスタイルに合わせて、事前に設定しておける。「弱冷房」機能と組み合わせて利用したい。

 「弱冷房」モードはゆっくり部屋を冷やし、27℃前後をキープすることで、電気代に優しくつけっぱなしにできる、新しい冷房コースの選択肢だ。

(コヤマタカヒロ)

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