10月23日に7世代目にあたるiPad miniの新モデルが発売された。価格は7万8800円から。
iPad mini(第6世代)の後継機種なのだが、iPad mini(A17 Pro)に呼び方が変わった。言われてみれば、iPad Pro(M4)、iPad Air(M2)の時からそうだったのだが、チップ名が名称に入ると混乱する。一般ユーザーにとっては「どれが新しいのか分からない」といったことも起こりそうだ。
●独特な立ち位置にあるiPad miniがアップデート
製品内容的には、名称が示す通りiPad mini(第6世代)からチップセットをiPhone 15 Proに搭載されていたA17 Proに変更したもの。ハードウェア的に他にはほとんど変更はない。
ボディーカラーのスペースグレーと、スターライトは前モデル同様。ピンクとパープルは廃止になり、ブルーと、新しいパープルが追加された。その他の外見上の違いは、背面のロゴが「iPad」から「iPad mini」に変更されたことのみ。
iPad miniはAppleのiPadシリーズの中でも独特の立ち位置にある。
まず、縦横比の差が大きい。13インチクラスのモデルが1:1.33、11~10インチクラスのモデルが1:1.44であるのに対して、iPad miniだけが1:1.52もある。とても細長いのだ。名刺のアスペクト比に近いといえば、その細長さが理解いただけると思う。
そして他のモデルは長辺にカメラがある(横がスタンダード)のに、iPad miniだけが短辺にカメラがある(縦がスタンダード)。そして、専用のケースを兼ねたキーボードが用意されていない(社外品のBluetoothキーボードは接続できる)。
つまり、他のiPadは横置きで、時にはキーボードを接続して使うことが想定されているのに、iPad miniだけは、今でも縦に持って使うものと考えられているのだ。
ディスプレイの周囲には等幅のフチが付く。本体の6.3mmという厚みも含め、薄型狭額縁というトレンドからすると少しやぼったく見える。よく言えば、安心感があるというか、持ちやすいのかもしれないが。
余談だが、ようやく登場したiPad用の計算機アプリは、このiPad miniのコンパクトなディスプレイにとてもフィットする。
●チップ以外は基本的に第6世代と同様
認証方式はiPad ProなどのFace IDとは異なり、iPad Airなどと同じ電源ボタンを利用したTouch ID。かならずしも正面に顔を向けて使うわけではないiPadの場合、Touch IDの方が使いやすいと思う。
スピーカーは2スピーカー。つまり、縦置きにしている時にはステレオにならない。先の話と矛盾するようだが、動画を楽しんだりする時は、横置きにすることが多いということなのだろう。
ディスプレイは、iPad Airと同じグレード、つまり500ニトの明るさと、P3色域を持つLiquid Retinaディスプレイが採用されている。テクノロジーが違っても、Apple製品はきっちりと全てのラインアップで色味が統一されているところが助かる。
前モデルのiPad mini(第6世代)では、縦持ちにした時にスクロールさせると画面がひずんでいるように見える「ゼリースクロール」などと呼ばれている現象が起きていたが、筆者の見た限りではその症状は改善されているように思える。
ディスプレイのハードウェア自体は変わっておらず、従来のモデルで問題だったディスプレイドライバーを改善したとのこと。一部ネットでは「まだ完全には直ってない」との声もあるようだが、筆者は「これなら気にならないんじゃない?」と思えた。
●第6世代で使えたApple Pencilは非対応に
対応するApple Pencilは、Apple Pencil ProとApple Pencil(USB-C)となった。
前モデルでサポートしていたApple Pencil(第2世代)は使えないので注意が必要だ。代わりに、Apple Pencil Proを使えば、スクイーズなどの新機能が使えるようになった。新機能が使えるのはうれしいが、iPad mini(第6世代)から買い替える人にとってはコスト増につながってしまう。
Apple Pencil(USB-C)もiPad miniの側面にくっつくものの、Apple Pencil Proのように充電はされない。充電やペアリングにはUSB-Cケーブルが必要だ。感圧機能が省略されているので、メモを取ったりするのにはいいものの、絵を描くならApple Pencil Proを用意したい。
●十分な性能を持つA17 Pro
一時期、iPad miniはiPad Airと同じチップセットを積むという時期があったが、現行iPad Airは「M2」を積んでいる。さすがに「miniにM2はやり過ぎ」ということになったのか、コスト的に見合わなかったのか、A17 Proが搭載された。
A17 ProはiPhone 15 Proに搭載された3nmプロセスルールで作られたチップで、Apple Intelligenceに対応すると発表されている。iPad miniもサポートしたことで、現行モデルでApple Intelligenceに対応していないのはiPad(第10世代)とiPhone SEだけ(一応、iPhone 15/14もラインアップに載ってはいるが)となった。
Geekbench 6と、Geekbench AIでベンチマークを取ってみた。
A15 Bionicチップを搭載していたiPad mini(第6世代)と比べると、CPU/GPU性能は18~30%の向上がみてとれる。Geekbench AIの結果では、NPU性能が飛躍的に向上しており、Apple Intelligence採用を意識した世代か、そうでないかの違いであるように思える。
注目すべきは、iPad Air(M2)との比較で、コア数も違うので、CPU/GPU性能では水をあけられているが、Geekbench AIで計測すると、M2を積んだiPad Airより、A17 Proを積んだiPad miniの方が高いNPUスコアを示している。つまり、どこを強化したかったのかがよく分かるチップ選定になっている。
念のため、iPhone 15 Proとも比較したが、こちらは予想通り、iPad mini(A17 Pro)とほぼ同等という結果が出た。
購入する側としては、最新のA18かA18 Proを積んで欲しかったところだが、2023年モデルのチップセットを使ってコストダウンすることで、7万8800円からに抑えたと思うと、致し方のないところか。
●楽しみなApple Intelligence対応
来週公開されるというiPadOS 18.1から、英語(US)版ではApple Intelligenceを使える。
現時点でも、iPadOS 18.1(パブリックβ)で使用言語を英語(US)に切り替えることで日本でも試用可能なので、レポートする許可を得て試してみた。
といっても、まだ機能は限られており、Writing Tools(作文ツール)と、Siriぐらいしか機能しない。
早速、Writing ToolsのSummary(要約)機能を試してみたが、「そりゃそうだろう」という要約が返ってきた。
まだ、「これなら他の生成AIでもいいじゃない?」という状態ではあるが、こうやってOSに含めて提供されることで、今後も便利に進化していくのではないかと思う。
Siriも従来に比べて飛躍的に流ちょうなやりとりが可能になった。筆者の英語の方が流ちょうでないので十分に活用することはできないが(笑)、「Show me the emails from Apple that came in the past two weeks」と言うと、ちゃんと最近Appleから来たメールを見せてくれた。まだ融通の効かないところはあるようだが、日本語で使えるようになるともう少し便利になりそうだ。ちなみに、Siriを呼び出すと画面のフチが虹色に光る。
今のところは、まだChatGPTの方がだいぶ便利そうだが、Apple Intelligenceの進化も楽しみだ。メールやメッセージ、スケジュール、連絡先というアプリを操作できるのが便利。これまでは、メールの署名欄を連絡先アプリに書き写すだけでもひと苦労だったが、そういった手間は省略できそうだ。
ChatGPTのAdovanced Voice Modeを立ち上げて置いておくのも便利な使い方のように思えた。まぁ、iPhoneでやればいいことだが、電源につないで立ち上げっぱなしにしておくと、いろいろ質問するのに便利だった。
コンパクトなiPad miniは、Apple Intelligenceが使える最安端末でもあり、生成AIの時代になって、ますます便利に使えるデバイスに進化しそうだ。