パナソニックから、加湿器のようなミストがヘッドから吹き出す、新型のコードレススティック掃除機「セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NX810KM-W」(以下、マイクロミスト掃除機)が登場した。常時ミストを吹き出しながら掃除をすることで、より多くの微細なゴミが取り除けるとしている。
ゴミを吸引するヘッドからミストを出すだけでより多くのゴミを吸えるとは、どういう仕組みなのだろうか。技術の詳細と開発の背景について、担当者に話を聞いた。
●微細なゴミの吸引に一役買っている「液架橋力」
マイクロミスト掃除機のヘッドには、ミスト発生デバイスと給水タンクが搭載されている。超音波振動によりマイクロミストを発生させ、ブラシヘッドの前方から吹き出す。ミストは、大きさが約10μmと極微細で、吹き出す量も毎分約0.9~1.6mlの水を消費するというわずかなものだ。スチームや水拭き掃除機とは異なり床は濡れないため、フローリングのほかカーペットや畳でも使えるという。
「マイクロミスト掃除機は、数値は公表していませんが、従来品と比べてゴミの吸引能力がアップしています。またマイクロミストは粒子が微細で揮発性が高いので、床がべちゃべちゃになることがありません。そのためじゅうたんや畳でも使えるということで研究開発が始まりました。といっても、掃除機用のマイクロミスト技術がある訳ではないので、最初は超音波加湿器のようなものを無理やりノズルにつけてテストを始めました」と、パナソニックの酒井貴浩さん(パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部 商品マーケティングセンター クリーナー商品マーケティング課 課長)。
マイクロミスト掃除機がより多くのゴミを吸引できる理由として、マイクロミストがもつ「液架橋力」という粒子同士をつなげようとする力が一役買っている。
床に噴霧したマイクロミストは、ハウスダストや皮脂などの汚れとブラシに付着する。ブラシと汚れの間に液架橋力が形成され、より効率的に吸引できるわけだ。さらにマイクロミストが汚れと床の間に入り込むことで、汚れが床にこびり付く力を低減させ、より吸引しやすくしているという。
とはいえマイクロミストは、水拭き掃除や洗剤・高温スチームなどを使った拭き掃除とは異なるため、皮脂汚れを取りやすくする効果はあるが、油汚れなどは取れない。
研究開発の段階ではマイクロミストの大きさや形状、吹き出し位置などをひとつひとつ検証。この工程に時間を掛けたそうだ。その結果、マイクロミストは前方から吹き出すことになった。ヘッドの底面から床に向かってまっすぐ吹き下ろす構造もテストしたが、それではミストがハウスダストに吸着する前に吸引してしまい、効果が出にくかったそうだ。
●開発のきっかけは、コロナ禍の清潔意識の高まり
マイクロミスト掃除機の開発が始まった当時、パナソニックではコロナ禍による清潔意識の高まりに対応した掃除機の研究開発が進んでいた。そこで日本の住宅環境に注目。日本の家にはフローリングだけでなくカーペットや畳などさまざまなフロアがある。水拭きを導入すると、フロアごとにヘッドやモップの交換が必要だったり、べちゃべちゃに濡れてしまったりすることも多い。
「マイクロミスト掃除機の企画は、2年半ぐらい前に始まりました。マイクロミストならじゅうたんや畳なども含めて、オールフロアで使えます。当社の調査によると夏場、フローリングの床を過ごすとき、51.9%の人が素足という結果でした。しかしフローリングには幅100μm、深さ20μmのわずかな凹みがあり、そこにハウスダストが入り込み、ザラザラしてしまいます。マイクロミストはこれに吸着し、吸引しやすくする仕組みです」(酒井さん)
今回登場したマイクロミスト掃除機は、同社が2021年10月から展開している“セパレート型コードレススティック掃除機”シリーズのフラグシップモデルだ。掃除が終わった本体をクリーンドックに戻すと、充電と同時にゴミをクリーンドックが自動吸引し、内部の紙パックに貯める。ゴミをドックに集める仕組みは、一部のロボット掃除機で早くから採用されていたが、スティック掃除機ではこのシリーズが初となる。
「クリーンドック付きのコードレス掃除機は発売以来、非常に好調で2023年にラインアップを拡充しました。その結果、24年8月時点でシリーズ累計販売台数が22万台を突破しています。コードレススティック掃除機全体の総需要を見ても、ドック付きモデルが大きく拡大しています」(酒井さん)
実際、22年には米シャークが、24年にはシャープと東芝ライフスタイルがドック付きコードレススティック掃除機を発売しており、市場が大きく拡大しているのだ。
●フローリングのざらざら感が軽減
実際にマイクロミスト掃除機を使ってみた。クリーンドックから取り外し、ハンドル上部にある電源ボタンを押し、吸引が始まるとすぐにヘッドからはミストが吹き出し始めた。ミストはまっすぐ勢いよく出るのではなく、ヘッドの周りに漂うような出方だった。あとは通常の掃除と同じように前後に動かして、掃除を行う。
ヘッドには自律走行するローラーが搭載されており、動きはスムーズ。V字構造で髪の毛などが絡みにくい「からまないブラシPlus」も採用している。
テスト用にあえて汚れをつけたフローリングで掃除してみたところ、掃除前にわずかに感じたざらざら感が軽減したように感じられた。また、水拭きのようなベチャッと濡れた状態にもならなかった。ミストは電源が入っている間は常時出っぱなしになるが、ヘッドのスイッチでオフにもできる。
ミスト用の水はヘッドの給水タンクを取り外して入れる必要がある。タンクは25mlで、約16~28分間、ミストが利用できる仕組みだ。掃除のたびにタンクに水を入れるのはひと手間だが、微細な汚れを効率的に除去するためと考えると許容範囲だ。
●掃除機後の拭き掃除も楽に
マイクロミスト掃除機は、ミストの力でフローリングのざらつきを低減してくれる掃除機だ。パナソニックの調査では約4割の人が掃除機をかけた後に拭き掃除も行っているという。マイクロミスト掃除機なら、その手間を軽減できる。
クリーンドックも手軽だ。集めたゴミは紙パックに入るためゴミに触れる必要がない。
「クリーンドックには紙パックが内蔵されているので、ゴミ捨て時にホコリなどが舞い散らない点も好評です。またナノイーXを搭載しているので除菌・脱臭ができ、ニオイが気になりません。コードレススティック掃除機の約6割がリビングに置かれるので、この点も評価されています」(酒井さん)
最新の掃除機の多くが、ゴミの吸引に加えて、拭き掃除にも対応し始めている。そんな中でマイクロミストによって、「目に見えない微細な汚れを吸着して吸引できるマイクロミスト掃除機」は、全く新しいアプローチといえるだろう。タンクに水を入れて、あとは普段通りに掃除するだけで、拭き掃除の手間を低減できる。フローリングだけでなく、カーペットや畳の上で使える点もうれしいメリットだ。
(コヤマタカヒロ)