Infoseek 楽天

「トランプ政権復活」で、どうなるテック業界 日本含めた影響を予測する

ITmedia NEWS 2024年11月8日 13時24分

 米国大統領選挙は、ドナルド・トランプ氏の勝利で終わった。

 なぜトランプ氏が勝利したのか、そこに至った背景などにはいろいろ分析の余地があるだろう。ただそこは、筆者は専門外なのでここで言及することはしない。

 だが、今後のテック業界にどのような影響がありうるかを考察することは、ある程度まではできる。

 筆者の視点から、「第二期トランプ政権がテック業界に与える影響」について、いくつかの観点から考えていきたい。

●インフレ対策がテックに与える「さまざまな影響」

 トランプ氏の政策の軸は「インフレ対策」だ。

 民主党バイデン政権下でのインフレは米国市場を直撃し、収入が低い層ほど打撃を受けた。そのことに対する反対票がトランプ支持の背景にあった……とする分析がある。

 分析が正しいかは別としても、結果としてトランプ氏はインフレ対策としての政策を軸に政権運営を行っていくことになる。具体的には減税であり、関税の引き上げであり、移民取り締まり強化だ。

 テック業界への影響も、まずはこの3点から大きく影響を受ける。

 円安容認であることは、直接的にわれわれの懐に響く。海外メーカーのものであろうが国内メーカーのものであろうが、円安は結局価格に反映される。この傾向が続くなら、あらゆるデジタル機器の国内価格は「高止まり」する。

 関税の引き上げは、米国での他国製品の利用にブレーキをかける。自動車や家電など、日本製品も大きな影響を受けるだろうが、関税の主な標的は中国だ。シンプルに言えば、中国メーカーの米国でのビジネスはさらに厳しくなっていく。各種デジタルガジェットについても、米国市場と中国市場ではさらに様相が違ってくるだろう。中国メーカーは中国本土ではもちろん、「米国以外でどう立ち回るか」が大切になるのは間違いない。

 それだけでなく、台湾からの輸入にも関税がかかることになれば、TSMCとの関係がフォーカスされることになるだろう。米国企業にとって強い逆風になりかねないため、さすがのトランプ氏も一定の慎重さを見せるだろうと希望的観測を持っているが、油断はできない。デジタルガジェットの生産からAI向けデータセンターへの投資まで、あらゆる側面に影響が出てくる。

 対中政策については、さらに強固な対策をとってくると想定される。先端技術輸出規制は強化・徹底されるだろうし、日本をはじめとした同盟国への同調圧力も高まりそうだ。半導体製造機器や素材産業への影響が出る可能性は高い。

 半導体という意味では、トランプ氏は補助金政策に批判的だ。

 現在米国政府の支援によってTSMCやインテルが半導体工場を建設中だが、トランプ氏は「政府の支出からではなく関税によって政策を進めるべきだ」と主張している。

 「米国国内に生産と雇用を」という意味で、半導体工場自体を米国に作ることはトランプ氏の方針にもかなうし、関税問題との関係も整理できる。だが費用の出元が変わるのなら、規模や速度感に変化が出てくる可能性は否めない。関税問題とセットで、半導体流通がどうなっていくかも注目しておく必要がある。

 移民政策もテック業界に大きく影響する。

 ビックテックの強さの一端は、世界中から優秀な人材を集められることにある。

 ただ2017年からの第一次トランプ政権では、技術者向けのビザ発給要件が厳格化され、一時大きな問題となった。そのままコロナ禍に突入し、入国制限が始まったことで混乱はそのまま継続された。

 バイデン政権下でもビザ発給数上限に大きな変化はなかったが、AI分野の技術者に対するビザ要件緩和が示され、さらに、手続きの合理化を進める方針が示されている。

 トランプ氏は「高度な技術者は歓迎」としているものの、ビザ発給要件がバイデン政権と同じ「緩和方向」とは考えづらい。

 このことは結果的に、米国国外にいる高度な人材が「米国以外を選ぶ」1つの理由になる可能性が高い。

●生成AIは「規制」から「自由」へ

 生成AIに関する方針も大きく変わる。

 特にAI関連については、中国の台頭を防ぐためにさまざまな施策が行われることになるだろう。

 バイデン政権下では生成AIの法規制について、国際協調的かつ、一定の法的な枠組みを用意して臨む方針だった。それを象徴しているのが、2023年10月末に署名した「安全で信頼できるAIの開発と使用に関する大統領令」だ。

 だが、トランプ氏はこの大統領令について「過度な規制である」と批判しており、撤回を公約として掲げた。撤回、もしくは大幅な修正が入ることは間違いないとみられる。

 生成AI規制についてはEUが厳しい立場で臨んでおり、一定のハードロー(強制力を持つ法的な枠組み)による規制が各国で進むという流れだったが、トランプ氏の考えは異なる。より軽微な規制にとどめ、自由な開発を促す方向になるだろう。

 規制の方向が弱まることはAIプラットフォーマーには基本的に有利な条件であり、それは米国の利益にもつながる話ともいえる。

 ただ完全に有利な話であるように見えて、意外とそうでもない。

 生成AI関連のサービスを国際的なビジネスにするには、各国の規制や制度が大きく異なっていると問題が起きやすい。各国に合わせた対応を求められると、事業者側としてもやりづらくなる部分はある。

 現時点でも、AI関連のサービスについて「EUのみ展開しない」というパターンが散見されるが、そうした乖離はさらに続く可能性が高い。

 もちろんこれは、欧米協調路線を採って一定のハードローで進めようとしている日本はどうあるべきか、という話につながってくる。

●トランプ・モンロー主義がビッグテックの在り方にも影響

 トランプ氏がこうした政策を採る理由は、彼が本質的に「モンロー主義」を継承するような立場にあるためだ。

 そもそもは1823年に第5代米国大統領のジェームズ・モンローが進めた孤立政策。200年経って国情も世界情勢も変わっているので、孤立政策という点は同じでも、やることも立場も変わってくるのは必然だ。

 筆者が読んだ予測でもっとも腑に落ちたのは「大国という意識に支えられていた米国側からの積極的関与が減る。どう関与するかを選択するのは、米国の威信からではなく、トランプ氏の考えに基づく」というものだ。

 だとするならば、AI関連の協調的な規制にしろ関税措置にしろ、「米国単独での利益にどうつながるのか」という観点がより重視されることになるだろう。

 冒頭で述べたように、トランプ氏の政策の軸はインフレ対策であり経済施策だ。

 現在、有力なテクノロジー・プラットフォーマーのほとんどは米国企業である。その利益が最大化される限りにおいて、現在の流れは維持されるものと考えられる。

 政権が変わることは、連邦取引委員会(FTC)の人事や方針にも影響がある。

 バイデン政権下では反トラスト法によるビッグテック規制が進められてきたが、その矛先やありようが変わる可能性も高い。そうなると、分割や強い規制ではなく現状容認路線になり、ビッグテックによるM&Aがしやすくなるだろう。ただここは、方針がまだ見えづらいところだ。

●利益は「最大の功労者・マスク氏」にも

 第二次トランプ政権発足に対し、最大級の功労者はイーロン・マスク氏だろう。そして彼は当然、その分の利益を得ることになる。

 AIに対する「自由な開発」路線は、マスク氏が運営する「xAI」にも等しく有利な状況をもたらす。

 SpaceXでの宇宙事業は、どうしても政府との関係が重要になる分野だ。トランプ氏は11月6日の勝利演説の中でも、「イーロン・マスクのStarlinkの優秀さ」について時間を割いて言及していた。こうした関係の近さは、SpaceXにとって間違いなくプラスである。

 第一次トランプ政権は宇宙開発・軍事目的開発に積極投資する体制だった。第二次政権下でも同じ姿勢が維持されるなら、SpaceXにとっても有利な条件と言えそうだ。マスク氏は火星に行くことを目標に掲げており、そのためには政府との協調が必須でもある。

 また、基本的には規制緩和方針の政府となるので、自動運転タクシーやロボットのビジネス化にもプラスなのは間違いない。

 トランプ氏は法人税や富裕層向けの減税も公約に掲げている。大規模な減税は、法人や富裕層にもプラスだ。当然、マスク氏はその恩恵も受ける。

●環境対策は後退するもEVはおとがめなし?

 トランプ氏は地球温暖化を信じておらず、政府や企業によるCO2排出量削減には消極的だ。そうした部分での政府支出のカットを減税を補うものとして考えている。

 各企業でそれぞれ対策を進めていくことになるだろうが、国からのエンフォースメントが弱くなれば、当然その分、積極的な対策が減る可能性もある。

 企業側もここまで続けてきた理念や活動を捨てない、と信じたいところだが、対策の後退は否めない。筆者としてはこのことが長期的に環境に与える影響を憂慮する。

 ただ、この話で違和感を持つ人もいるかもしれない。

 EVは(少なくとも米国という環境においては)CO2排出量を減らし、持続性を高める技術といえる。過去トランプ氏はEVに強く反発し、「EVに対する優遇措置はすぐに止める」と発言していたこともあった。

 ご存じのように、マスク氏のテスラは最大のEVメーカーであり、バッテリーによる蓄電技術で電力の有効活用も目指している。トランプ氏が否定したものそのものだ。

 ただこの点について、マスク氏がトランプ氏支持に回ってからトーンが変わってきており、トランプ氏もEVを許容する発言を始めている。

 おそらくだがトランプ氏は、テスラを「競争力のある米国企業」としてみて、EVか否かはあまり重要ではない……と考えるようになっているのではないか。

 だとすれば、テスラをはじめとした企業がEVを作ること自体には反対しないものの、その目的は「新しいテクノロジーと利便性」であってサステナビリティではない、という論調になっていくのかもしれない。

この記事の関連ニュース