ドイツのベルリン・フンボルト大学などに所属する研究者らが発表した論文「Water-hose tool use and showering behavior by Asian elephants」は、ゾウがホースを使用して水浴びをする行動と、他のゾウがホースを圧迫して水流を遮断する妨害行動を観察・分析した研究報告である。
ベルリン動物園で行われたこの研究では、メスのアジアゾウ3頭(メアリー、パン・パー、アンチャリー)の水が出るホースを用いた道具使用と水浴び行動を詳細に観察した。メアリーは5秒以内にホースを拾い上げ、平均7分間シャワーを浴びた。
特に注目すべきは、メアリーによる高度なホース使いである。メアリーはホースを鼻で巧みに操作し、体の異なる部位に応じてホースの握り方や使用方法を変えていた。体の左側や右側を洗うときは、ホースの先端近くを握って固定式のシャワーヘッドのように使用し、背中を洗うときは、ホースをより後ろから握って投げ上げるように使用した。これは、ホースの柔軟性と弾道を利用した高度な道具の使用である。
研究チームは3種類の異なる太さのホース(13mm、24mm、32mm)を用意して実験を行い、メアリーが最も使い慣れた24mmのホースを好んで使用することも確認した。
人間が左利きか右利きであるように、ゾウも鼻を曲げる方向に左右の好みがある。メアリー(左利き)の水浴び行動にも興味深い左右性を観察できた。鼻のみを使用して水を浴びる場合は右側を好んだが、ホースを使用する場合は左側を好む傾向があった。
さらに、若いメスのアンチャリーは、メアリーが水浴びをしている際にホースを操作して水流を妨害する行動を示した。アンチャリーは、ホースを鼻で持ち上げて折り曲げ、そのねじ曲がった部分を圧迫することで水流を遮断した。
これらの行動は時間とともに効果を増し、複数回の観察で同じ手順が繰り返された。研究チームは、これがメアリーの水浴びを意図的に妨害する戦略である可能性を指摘している。
Source and Image Credits: Urban et al., Water-hose tool use and showering behavior by Asian elephants, Current Biology(2024), https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.10.017
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2