子供を脅して自傷行為やわいせつ行為を強要していた男が、米国で禁錮30年の判決を言い渡された。男が属していたのは「764」と呼ばれる暴力犯罪集団。未成年をおびき寄せて脅迫し、カメラの前で自分の体を傷つけさせたり動物を殺させたりする残虐行為をエスカレートさせた揚げ句、自殺に追い込もうとする人物たちのネットワークだった。
米司法省の発表によると、子供に対する性的虐待の罪で禁錮30年を言い渡されたリチャード・デンスモア被告(47)は、コミュニケーションアプリの「Discord」に764のオンラインコミュニティー「Sewer」を創設。「カットショー」と称する子供の自傷行為やわいせつ行為のライブ中継を流してSewerを宣伝し、会員数を増やしていたとされる。
Sewerの会員はオンラインゲームサイトなどに潜り込んで声をかけた子供に脅迫を重ね、操り、支配して、自傷行為や性行為を強要していた。
デンスモア被告は被害者の子供たちに対して「お前の情報は全て持っている。お前は私のものだ。言う通りにしろ」と命令し、要求に従わせていた。デンスモア被告が所持していた画像には、被害者たちが自分の手足を傷つけて「Sewer」「764」などの文字を刻んだ血まみれの姿が写っていた。
●14歳少女に、ペットのハムスターを殺させ自殺を迫る
764については、米連邦捜査局(FBI)が2023年9月に実態を明らかにして保護者らに警戒を促していた。標的とされたのは8~17歳の未成年で、特にLGBTQなどの少数者や、うつや自殺願望など心の健康問題に苦しむ子供たちが狙われた。
メンバーはネットで公開されている情報を利用して被害者を脅し、わいせつ動画や写真を撮影させて、それを家族や友人に見せると言って脅迫を繰り返す。メンバーの究極の目的は、未成年を極端な恐怖に陥れて自殺に追い込み、その様子をライブ中継させて楽しみながら、仲間うちで名声を高めることだった。
被害は米国にとどまらない。米紙Washington PostとWired、ドイツのSpiegel、ルーマニアのRecorderは24年3月、綿密な調査報道を通じて「数千人の子供たちを標的にした残虐なSNSテロ」(Washington Post)の実態を伝えた。
Washington Postによると、米オクラホマ州に住む少女(当時14)は21年4月、オンラインチャットで加害者の男と知り合い、恋人のように振る舞う男におだてられて自分のヌード写真を送信した。男たちはその写真をクラスメートに見せると脅して少女に自傷行為を迫り、トイレの便器から水を飲ませたり、ペットのハムスターの首を切り落とすなどの残虐行為を強要した。
少女が拒めばわいせつ動画をさらす、弟に危害を加えるなどと脅して要求はエスカレートする。男たちは最後に、カメラの前で自殺しろと少女に要求した。
この少女の場合、風呂場で自分の体を傷つけているところを母親が発見し、加害者の男たちのことを知って警察に通報した。もしここで気付かなければ、娘は間違いなく自殺させられていただろうと母親は言う。
その後も学校への無言電話や家族に対する嫌がらせが続き、17歳になった少女は精神衛生施設への入退院を繰り返している。太ももには、男たちに刻まされた「764」の傷跡が残る。
764のメンバーはこれまでに数人が逮捕されている。このうち1人は、21年1月当時にDiscord上に764を創設したという16歳の少年で、80年の禁錮を言い渡されて服役しているという。
●被害を防ぐために 現実/ネット上で子供の様子に気を配る
ディープフェイクや生成AIが進化を続ける中、ネット上で子供を狙う手口に対しては一層の警戒が求められる。個人的な写真や動画、個人情報などをSNSやデートアプリに掲載したり、ダイレクトメッセージで送信したりする際は十分な注意を払う必要があるとFBIは言う。保護者に対しては以下のような子供の様子に気を配ってほしいと呼び掛けている。
・切り傷やあざなどの不審な傷跡がないかチェックする
・行動や外見の突然の変化に注意
・不自然な状況で長袖や長ズボンを着ている子供に注意
・子供のオンライン上の行動をモニターして、情報やコンテンツ共有のリスクについて話し合う
・家族や子供の情報をネットで頻繁に検索して個人情報の拡散を防ぐ