東京都の行政DXを推進する団体・GovTech東京(東京都新宿区)は11月22日、AIエンジニアの安野貴博さんが13日付でアドバイザーに就任したと発表した。AIを使って膨大な数の意見を収集・分析・可視化する手法「ブロードリスニング」を、技術的に支援するという。安野さんは「世界的に見ても、非常に先進的な事例になる」と記者会見で意気込みを語った。
今回のブロードリスニングは、SNSやGoogle フォームなどでのコメント募集に加え、郵送での意見表明や、有識者からのテキストでの回答にも対応する予定。安野さんは「デジタル媒体はあまり使わないという方の声や、専門家の意見も集め、さまざまなチャンネルから広く声を寄せてもらい、オープンな形で公開するのが良い」との考えを示した。
集めた意見は、都の未来の戦略に反映するという。ブロードリスニングについて、安野さんは「政治や行政と有権者が双方向のコミュニケーションを行うために不可欠な取り組み」であると説明し、「有権者の声が行政に届くことによって、より建設的な議論ができる」としている。
ドナルド・トランプ氏が再当選した米大統領選や、国民民主党が躍進した日本の衆議院選ではSNS上の選挙戦略に注目が集まったが、都によるブロードリスニングは過熱するSNS上の議論を踏まえた施策でもあるという。安野さんは、SNS上での議論について「いわゆる『フィルターバブル』と呼ばれるような、特定の立場の意見だけが表示され、誰もが同じように考えていると錯覚させられてまうケースもある」と警鐘を鳴らす。
一方、ブロードリスニングによってSNSに限らない情報収集を行うことで「多様な意見を集め、意見の全体像を可視化するブロードリスニングのやり方は、フィルターバブルを乗り越えることにもつながる」とした。
「既存のメディアや行政機関が果たせる1つの役割は、(意見の)全体像がどういうものか、データを取って解析して見える化すること」「自分の見ていた世界というのは、この全体のマップのごく一部だったのかもしれないと気付ける機会を作ることが重要」(安野さん)
今回のブロードリスニングは、2050年代を見据えた都の長期戦略「シン東京2050(仮称)」の一環。22日~12月13日まで、XやYouTube、郵便などで都民の声を募集する。安野さんはこれを機に「普段政治に関する興味関心が薄い方も含めて、どのような意見、考えを持っているのかを可視化したい」として、「この期間中に東京の未来について1度考え、SNSなど気軽な形で良いので声を届けてほしい」と呼び掛けた。
なお、安野さんのアドバイザー就任は、9月以降、都とGovTech東京とブロードリスニングに関する意見交換をしたことがきっかけという。「AI技術を使って都に関する声を広く集め、その声を政策や長期ビジョンの策定に生かせるという考えに興味を持ってもらった」として、都に協力することになったとしている。
安野さんは、7月に投票が行われた東京都知事選に立候補していた。AIやデジタル技術を駆使した選挙戦を展開。約15万票を獲得し、56人の候補者中5位となっていた。