中国の深セン大学や北京大学、オーストリアのウィーン工科大学などに所属する研究者らが発表した論文「Time Delays as Attosecond Probe of Interelectronic Coherence and Entanglement」は、量子もつれの形成過程を「アト秒」(1×10^-18秒=100京分の1秒)という超微細な時間スケールで観測することに成功した研究報告である。
これまで量子の世界における出来事は「瞬間的」なものとして考えられてきたが、最新の研究により、その過程を超微細な時間スケールで観察し理解できるようになってきている。
研究チームは、時間依存シュレーディンガー方程式という方法で、スーパーコンピュータを用いて精密に計算することで、これまで瞬間的とされてきた量子現象の時間経過を追跡する。
量子もつれとは、2つの粒子が特殊な形で結びついた状態を指す。この状態では、たとえ粒子が物理的に離れていても、一方の粒子の状態を観測すると、もう一方の粒子の状態が即座に決定できる。この現象の形成過程を、今回の研究では詳細に観察することに成功した。
実験では、強力な高周波レーザーパルスを原子に照射した。このとき、まず1つの電子が原子から引き離されて飛び出し、続いて2つ目の電子が影響を受けて原子に残り、原子核の周りを周回する。
興味深いことに、放出された電子の「誕生時刻」、つまり原子から離れた瞬間と、原子に残された電子の状態との間に量子もつれが生じる。
研究結果によると、原子に残された電子がより高いエネルギー状態にある場合、飛び出した電子は比較的早い段階で放出された可能性が高い。一方、残された電子が低いエネルギー状態にある場合、飛び出した電子の誕生時刻はより遅かった可能性が高い。平均して約232アト秒後だという。
Source and Image Credits: Wei-Chao Jiang, Ming-Chen Zhong, Yong-Kang Fang, Stefan Donsa, Iva Brezinova, Liang-You Peng, and Joachim Burgdorfer. Time Delays as Attosecond Probe of Interelectronic Coherence and Entanglement. Phys. Rev. Lett. 133, 163201 - Published 15 October 2024
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2