イスラエルのエルサレム・ヘブライ大学に所属する研究者らが発表した論文「12,000-year-old spindle whorls and the innovation of wheeled rotational technologies」は、約1万2000年前に発掘された穴が開いた石を3D解析した研究報告である。
研究チームは、イスラエルのナハル・エイン・ゲブII(Nahal-Ein-Gev II)遺跡で発見された約1万2000年前のナトゥーフ文化期の穿孔された(穴が開いた)100個以上の石について分析を行った。
これらの石の95.5%は石灰岩で作られ、その多くは柔らかい白亜質であった。大きさは比較的小さく、重さは1~34g(平均9g)と軽量。形状は60%が円形または対称的で、残りはやや角張った不規則な形をしている。
注目すべき特徴は、ほぼ全ての石で穿孔が重心に位置していることである。3D解析により、穿孔の詳細な特徴が明らかになった。95%の石は両面から穿孔されており、穴の最小幅は3~4mmとかなり標準化されていた。
研究チームは出土した穿孔石器の用途を探るため、既知のさまざまな穿孔された道具と特徴を比較分析した。装飾品(ビーズ)としては大きすぎること、漁網の錘としては素材が柔らかすぎること、織機の錘としては軽すぎることからこれらの用途は否定された。
代わりに、形状と重量、穴の位置と大きさなどの特徴から、紡錘車としての使用が最も合理的だと結論付けた。紡錘車とは、手で繊維を紡ぐ際に棒の先端に取り付ける円盤状の重りで、回転の勢いを維持して効率的に糸を紡ぐことを可能にする道具である。
研究チームは仮説を検証するため、同じ遺跡近くから採取した軟質石灰岩礫を使用して複製品を製作し、伝統工芸の専門家に依頼して繊維を紡ぐ実験を行った。実験の結果、完全な円形でなくても、穴が重心にあれば紡錘車として十分に機能することを確認できた。特に興味深いのは、両側から穿孔する方法が、紡錘車を軸に固定する際に有利に働くことが判明した点である。
この発見の重要性は2つある。1つは、紡錘車の歴史を覆す可能性がある点。これまで紡錘車は新石器時代後期(約8000年前)になって初めて出現したと考えられていたが、この研究により1万2000年以上前から存在していた可能性を示した。
もう1つは、これらの紡錘車が「車輪と車軸」の機械的原理を示す最古の証拠の一つとなる点である。紡錘車は中心軸に円形の重りを取り付けて回転運動を生み出す仕組みを持ち、この原理は後の土器ろくろや車輪付き運搬具などの回転技術の基礎となった。この発見により、回転技術の起源がこれまで考えられていたよりもはるかに古い時代にまでさかのぼる可能性を示唆した。
Source and Image Credits: Yashuv T, Grosman L(2024)12,000-year-old spindle whorls and the innovation of wheeled rotational technologies. PLOS ONE 19(11): e0312007. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0312007
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2