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「チルノのパーフェクトさんすう教室」「今だけダブチ食べ美」の声優、実は金融系SEだった 不思議な二足のわらじについて、本人に聞いた

ITmedia NEWS 2024年11月26日 7時40分

 「すごいアホみたいなんですけど、“伝説の会社員”になれたら面白くないですか?」──「チルノのパーフェクトさんすう教室」「今だけダブチ食べ美」など、ネットを席巻してきたコンテンツの声優・歌手として知られるmikoさんは、自身が目指すキャリアについてこう話す。

 読者の多くが、ニコニコ動画やX、その他動画サイトなどで、一度はmikoさんの声を聞いたことがあるはずだ。ある年齢層のオタクたちに多大な影響を及ぼしてきたmikoさんだが、実は専業の歌手・俳優ではない。本業は金融系のSEで、副業として歌手・声優として活動しているという。

 兼業について「『その設定すごい好きです!』といわれることもあるんですが、いや、設定じゃないんだよなと(笑)」とmikoさん。不思議な二足のわらじについて本人に聞くと、それぞれの仕事に対する熱意と思いがうかがえた。

●「Linuxで言えばpwdしてls!」 歌手・声優になったきっかけ

 mikoさんが歌手・声優としての活動を始めたのは15歳、高校生のころ。「友達にだまされて、この世界に入ることになっちゃった」という。

 「もともと人前に出ることは得意じゃなくて。歌とかもすごく苦手で、今でも苦手意識があります。でも友達にだまされて、とある収録に声で参加し、作品が完成したのを見たとき、たくさんの人がスキルを持ちよって作品を作ることに面白さを感じました。それで、どうしても作り手側に回りたかったんです」

 しかし15歳当時のmikoさんは、デザインや音楽、作詞など、クリエイティブのスキルを持っているわけではなかった。そこでmikoさんは、消去法で声での活動を選んだという。

 「活動者側になる最短ルートって何? って考えたら、声を使うことしかありませんでした。こんなこと言ったら怒られちゃいそうなんですけど、完全に消去法ですね。今思えば、当時の私はLinuxでいうpwdしてls! をしてました」

※編集注:Linuxにおいて、pwdは現在のディレクトリ(Windowsで言うフォルダ)のパスを調べる、lsはディレクトリにあるファイルとサブディレクトリを確認するコマンド。

 しかし、声や音楽の活動1本でキャリアを積む気はなかったとmikoさん。学生時代も学業を優先しながら活動しており、就職と共にやめるつもりだったという。しかし、自身の活動に想定外の反響があったことで「手放すのはもったいない」と感じ、現在までの約21年、二足のわらじを履くに至った。

 「私のことなんか誰も知ることないでしょ、と思っていたんですが、なんかバズってしまって。音楽や声の活動を主軸にしないまでも、自分の使えるものとして持っておけば、10年後20年後に面白いことができるんじゃないと思い、両立する道を選びました。欲しいものはどっちも手に入れればいいじゃないか! と(笑)」

●なぜSEに? 実は「履歴書がウルトラ汚くて……」

 卒業後はまず事務職に就職。その後6回の転職の中で、法人向けヘルプデスクやITインフラの仕事を経験し、SEに転向したという。「履歴書がウルトラ汚くて、あんまり格好いい経歴ではないんですが……」とmikoさん。文系出身で、学生時代にプログラミングの講義を受けたことがあるものの「SからCの4段階評価で、よくCを取れたな、ってくらいできませんでした。(講義が)終わったときには『二度とプログラミングなんかしないぞ!』と思ってたんですが……」と、自身の選択を振り返る。

 それでもSEに転向したのは「周りの人にすごい恵まれた」結果だったという。

 「事務としてシステムに情報を投入したり、操作をしたりする中で、問題が発生したときの対応をしなければならないこともありました。そのとき『これはなぜこのシステムの法則にそぐわないんだ?』とか、ささいな疑問を都度周りに聞いていました。先輩も事務員だから分からないので、客先のSEと仲良くなって聞いていました」

 そうして質問を繰り返すうちに、相手が毎回エラーの内容や、事象の詳細について尋ねてくることに気付いた。そのうちに「これまではエラーが出てきたら『なんか出てきたぁ!』という感じだったんですが『もしかしてこれ、難しい言葉使ってるだけで、エラーの原因を教えてくれてるんじゃないか?』と気付いた」

 そこからは「どんどん踏み込んだ」とmikoさん。普段使っているExcelのマクロ機能を知り、終業後にコードの勉強を始め──とステップを踏んでいき、転向に至った。ちなみに、好きな言語は「Visual Basic系統」。生成AIによる業務効率化にも関心があるいう。

 とはいえ、まだ歴は浅く、苦戦することも多いとmikoさん。「実はSEとしての経歴は短くて、理解曲線でいう『何も分からない』状態です。やり始めたころは『完全に理解した!』と思ったんですけど、いざ現場に出ると何も分からない(笑)」

●「実はビビリでリアリスト」 二足のわらじを続ける理由

 それでも今の仕事で兼業を続けるのは、自分の社会的立場への不安が理由だという。

 「リーマンショック世代の人間で、正社員の立場を得るのに苦労した人間なので『次私はどこで雇ってもらえるんだろうか、何を武器にしたらいいんだろうか』と考えていました。あとは人に養ってもらう才能が絶望的にないので、どうにか一人で生きていかなきゃダメだって諦めがついたことも理由ではあります(笑)」

 ヒット作があるにもかかわらず、就職と同時に活動をやめようと考えていたのも、同様の不安からだった。mikoさんは自身の性格を「作品のイメージからは想像できないかもしれないが、ビビリで不安症、リアリスト」と評す。

 「将来の不安とお金の不安を抱えて活動するなんて無理だと思っていました。音楽で売れなくても、生活に困らない状況を作っておきたかった」

●今の仕事のいいところ・悪いところは

 現実志向でSEを選んだというmikoさんだが、今の仕事は音楽・声優活動と両立しやすく、気に入っているところもあるという。例えば服装に規定がないため「週末にライブをして帰ってきて、そのまま寝てしまっても、ライブ用のキラキラのネイルをしたままでも何も言われない」

 逆に、相性が悪い点もある。「私に限らず全てのエンジニアに当てはまると思うんですが、締め切りは変えられません。基本的には何があっても間に合わせなきゃいけないので、勤務時間が長くなることもあります。その期間は副業の仕事を受けられないし、ライブの予定を入れてしまっていたら、どんなに本業で体力を消耗していようとそのスケジュールは変えられない。ライブの練習も平日夜が多いんですが、その時間も削られます」

 ただ、コロナ禍では二足のわらじが幸いしたとmikoさん。当時は外出やイベントの自粛により、ライブハウスやミュージシャンが大打撃を受けたが「当時はすでにITに足を突っ込んでおり、(当時)在宅勤務を支援する仕事をしていたので、むしろ本職の仕事が激増しました。出社したら、15人くらい(対応を待つ)待機列ができていたこともあります」

●「日本語でおkって思うんですけど……!」 IT業界への不満と好感

 IT業界全体への好感や不満も話してくれた。例えば「英字3文字に略せばいい習慣、あれなんなんですかね?」とmikoさん。

 「全部書いてくれればいいじゃないですか。そうしたら単語から意味を推測できるのに。IDEとか、統合開発環境でいいじゃん……! 日本語でおkって思うんですけど……!」

 一方で、IT業界の間口の広さについては良く思っているという。

 「ダサい経歴を持つ私からの視点にはなるんですが、とても間口が広くなっていて、私みたいなちんぷんかんなやつでも受け入れてもらえるところが増えたというか。もちろん一定の“地盤”は必要でしょうけど、勉強すればスーパーマンは無理でもある程度にはなれる。上から下までいろんなレベル・役割の仕事があって、そこから自分に合ったところを選べるのはすごく良いなと思います」

 ちなみに、現在の勤務先にはまだ“正体”はバレていないという。「活動について、表立っては言っていません。なんか一人『気付いてるんじゃないかな?』って人はいますが、知らないフリしておいてくれたらうれしいです(笑) バレるときはバレるので……過去の職場でも、たびたび声でバレたことがありました」

●「伝説の会社員になりたい」 mikoさんの目指すキャリア

 SEと声優・歌手という、独特のキャリアを歩むmikoさん。そのユニークさゆえか、今後目指すところも独特だ。SEとしてはプレイヤーかマネジャーかで悩んでいるところだが、音楽・声優活動を含めた総合的なキャリアでは“伝説の会社員”を目指したいという。

 「本職を持ちつつ、その範囲内で(歌手や声優としても)規模の大きい仕事をする、海外でも知られるみたいな、およそ普通の会社員では考えられないことがしたいです

 「だって、絶対変じゃないですか? 私は特筆した技術もなければ、ルックスに優れているわけでもないですが、そんなやつが伝説を作ったら面白くないですか? あまり格好良くない経歴をさらしているのも、私と同じように悩んでいる人に『こういうルートあります』という感じで、勇気を与えられたらいいなと」

 取材の最後には、IT業界で働くファンや、ITmedia NEWS読者にもメッセージをくれた。

 「(SEに)転向したとネットで知らせたとき、意外と同業の先輩方がたくさんいて、自分の未熟さにへこんだときにアドバイスをもらったり、励ましたりしてもらいました。同業のリスナーさんとあるあるトークができるのもうれしく思っています。設定じゃなくて本当に現場で働いていますので、もしもお会いできたときは、お手柔らかに……」

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