大学受験も佳境を迎えている。昨今は大学入試制度も様変わりしており、総合型選抜、いわゆる自己推薦による入試は既に10月に終わって、11月上旬には既に合格が決まった子もいる。11月末から12月に今度は学校推薦型選抜が行われ、こちらの合否は12月中旬には分かる。今や大学入試は、この2つの推薦試験で半分ぐらいは決まってしまう。
大学入学共通テストを受けて二次試験も受ける一般選抜の合否が分かるのは、3月上旬。入学準備に1カ月もなく、結構バタバタするものである。
かく言う筆者の娘は総合型選抜で早々に大学進学が決まったので、進学のバタバタは人ごとではなくなった。授業料だ奨学金だといったお金の問題の中で、簡単に考えていると地味にハマるのが、「大学生用PCをどうするか」である。
大学ではPCが必要という話はもう随分昔からあるが、ある意味大学や学部学科にもよるという格好であった。それが20年に発生したコロナ禍により、リモート授業に対応できるようにということで、21年から明確に全学部学科必須として、入学前に準備するよう求める大学は多い。
小中高校まではGIGAスクール対応として、PC以外にもiPadやChromebookという選択肢もあったが、大学ではPC一択となる。基本的に学生の私物として大学に持ち込むという格好になるが、経済的理由から難しい生徒に関しては、大学からの短期貸出や、大学生協での中古販売などで手当するという道もある。
こうした動きを受けて、早くもPC量販店やメーカーなどでは、大学生向けPC特集といった記事を挙げ始めている。筆者もそうしたサイトをいくつか回って、大学生の標準というものをつかもうとしたのだが、「ホントかそれ?」といった内容にも遭遇して困惑することがしばしばある。
ここでは本当に来年から大学生になる子供を抱える親として、またPCで30年以上食ってきた技術系ライターとして、大学生が使うPC像にフォーカスしてみたい。
●4年間使う前提でいいのか?
一般に大学のカリキュラムは、1~2年生までは教養課程、3~4年から専門課程となる。これに応じて、1~2年と3~4年ではキャンパスが違うという大学も珍しくない。一般に1~2年は、郊外キャンパスに割り振られる。
そう考えると、大学前期と後期では求められるスペックは当然変わってくる。そもそも、4年間ずっと使うという前提自体がおかしい。前期は遠距離通学になる可能性があることや、座学中心となることから、通学時や教室移動の負担を考慮すべきである。後期は通学も近くなり研究も多くなることから、移動負担よりもCPUやGPUパワーが重要になる。パワーが必要になった時点でもう古い、というのでは困るわけで、大学生のPCは大学前期と後期で別に考えるべきではないのか。
前期において移動の負担ということでは、軽量であることが望ましいが、一般に軽量PCはそれだけで付加価値があるため、高価だ。さらに使うのが19~20歳ぐらいの年齢ということを考えれば、軽量化と共にある程度の堅牢性も必要である。
PCは小型になれば重量も軽くなる。堅牢性とのバランスを考えれば、13インチ程度の一般的なノートPCが妥当ということになるだろう。加えて2年しか使わないと割り切るならば、最新PCである必要はない。
一般にPCの耐用年数は4~5年とされているが、実際には会社支給のPCなどはもっと長く使っていることだろう。それで処理能力に支障があるかと言えば、一般業務であれば4~5年前のPCでは全く役に立たないということはないだろう。
筆者の手元には2020年に購入したM1版 MacBook Airがあるが、取材やモバイルでの原稿執筆に何か支障があるかと言えば、全くない。なんなら4Kビデオ編集もこなせる。
今はもう処理速度の問題よりも、バッテリーの耐用年数のほうが問題だろう。これが大体5~6年で性能が落ちてくる。バッテリー内蔵型の場合は、膨張し始めるとそもそも使えなくなるので、そこで修理するか、寿命を迎えることになる。
バッテリーの耐用年数を考えれば、最初の1~2年向けのPCは、2~3年落ちぐらいのモデルで十分だろう。中古品という手もあるが、昨今はメーカーでもリファービッシュ品の販売に力を入れており、純粋な中古品よりも信頼できる。
大学がPCショップと提携して、廉価なPCを提供しているケースもある。娘の大学もそうしたショップがあり、ラインアップを調べてみたが、なんと4年前のモデルであった。ショップで手厚い保証はついているが、修理している間は使えないわけだし、代替え機があっても必要なデータやアカウントを全部入れ直しの手間を考えると、良い選択肢とは思えない。
選択順としては、値下げされた流通在庫 > メーカーリファービッシュ品 > 大学提携ショップ品 > 中古品ということになるだろう。その他、メーカーによっては学生・教員向けの特別価格で販売するところもあり、大体15%オフぐらいで買えるようだ。2年前のリファービッシュ品とどっちが安いかということになるが、リファービッシュ品はモデルに選択肢が少ない。ちょうどいいモデルがあるかどうかで考えるべきだろう。
●大学生向けPC指南サイトは、信用できる?
こうしたことを踏まえてみると、現在展開されている大学生向けPC選びの指南サイトでよく見かける条件は、ちょっと違うんじゃないかなと思う部分がある。筆者なりに判定してみたので、参考にしていただきたい。
・OSはやっぱりWindows → 大学の要件を確認
メーカーや量販店の扱いはやはり圧倒的にWindows PCが多いので、こうしたお勧めが各所で見られるところだが、大学で使用するPCの要件はあらかじめ公開されている。学校側の都合でWindowsに限定しているところもあるだろうが、WindowsでもMacでもどちらでもよいとするところもある。まずは入学が決定した大学の要件を調べてみるべきだ。
・MS Officeバンドルで安心 → そもそも学生は無料
大学の授業ではWord・Excel・PowerPointあたりは普通に使うことになるだろうが、特にOfficeバンドル版を選ぶ必要はない。
Microsoftでは、教育機関向けに格安で契約できる「Microsoft 365 Education」を用意しており、大学側であらかじめ契約している場合は、学生には無償か廉価で提供されるからだ。大学側で提供していなくても、大学発行のメールアドレスがあれば、Webアプリのみではあるが「Office 365」は無償で利用できる。
・メモリーは文系なら8GB、理系なら16GB → 文系だから少なくていい理由はない
搭載メモリーに関しては、Windowsは比較的少ないメモリーでもそこそこ動くこともあり、文系では8GBでも十分とされている。
とはいえ、教養課程において文系はメモリーが少なくて良いという理由は特に見つからない。例えばフィールドワークで写真や動画の記録を大量に扱うということになれば、むしろ文系の芸術系や伝統文化系のほうが大量に扱うことになるのではないか。
11月に発売された一連のMacでは、メモリー搭載量が最低16GBに改められた。今後のApple Intelligenceへの対応を睨んでの事だろう。一方Microsoftも、Copilotによって知らないうちにAIを使っているといった状況になるかもしれない。大学でAIをどう扱うかに関しても、あらかじめガイドライン等で確認しておくべきだ。
ただ少なくとも理系の情報工学系ではAIを使わないという選択肢はないだろうし、文系でもレポートには使用しないとしても、インタビューやヒアリングで録音した内容をAIで文字起こしするといった使い方は容認されるだろう。
がっつりAIを使うか使わないかはさておいても、OSやブラウザレベルでAIがインテグレートされてくれば、今後WindowsでもMacでも16GBが最低ラインになるのではないだろうか。
・バッテリーは10時間以上あると安心 → モバイルバッテリーがあれば何とかなる
大学で各自PC用のACが用意されていないというのは、当然ありうることだ。丸1日の授業で全部PCを使うとすれば、確かに10時間分あれば十分ではある。
だがそれにより、価格や重量が著しくアップするのであれば、5時間程度を基準にして、あとはモバイルバッテリーとの併用を考えれば済むことだ。むしろバッテリーを2、3個用意しておいて、フル充電した1個は常に大学に置いてあるぐらいの方が安心できる。
その点では、USBーCで充電できるというところはPC選びの条件にしたい。専用ACアダプター以外は受け付けないというのは、論外である。
・ストレージ容量は文系128GB~、理系256GB~ → 最低ラインが256GBでは
「Microsoft 365 Education」とも関係する話だが、大学ではこうしたアプリケーションとともに各個人が使えるクラウド領域も提供するところがある。よほどタッチーな研究をしている人は別として、われわれの仕事のデータもほとんどがクラウド領域にあり、ローカルにはリンクしかないという状況になっている。
とはいえ、クラウドと同期するにしても、一時的にはローカル領域が必要になる。クラウド領域が1TBぐらいあるなら、ローカルは256GBぐらいはないと厳しいのではないだろうか。大学生協で手配できるPCでも、最低ラインは256GBに設定してあるようだ。
●それ以外のポイント
いわゆる指南サイトでは指摘されていないが、気にしておきたいポイントがいくつかある。意外に見落とされがちなところを考えてみたい。
・ネットワーク環境は自前でも戦えるように
学生のPC必須化に伴って、大学のWi-Fiが遅いという問題が顕在化している。既に回線を増強して解消した所も多いようだが、こればかりは行ってみなければ分からない。
どうしてもダメだという場合は、スマートフォンからのテザリングで凌ぐことも考えられる。状況を見ながらということになるだろうが、一時的にデータが買えるとか、1日使い放題に変更できるといった通信プランで契約しておく必要があるかもしれない。
あるいは研究室に行けば、Ethernetが使えるということもあるだろう。こうした場合に備えて、ネットワーク端子付きの多機能USBーCハブを持たせておくということも検討すべきだろう。
・HDMI端子は結構使える
ノートPCの外部出力端子として、HDMI端子の搭載が増えている。大学で発表の際にプロジェクタ投影で必要とされることもあるが、それよりも家に帰ったら大型ディスプレイにつないで画面を広く使うという用途で便利である。PC専用ディスプレイでなくても、HDMIならテレビにつないで大型画面化することもできる。
ノートPCに端子がなければ、USBーCハブでHDMI出力をサポートしているものをもたせれば問題ない。
・標準がJISキーボードなのは問題ではないのか
日本で売られているノートPCのほとんどがJISキーボードを搭載しており、大学生向けにも普通にそれで通しているが、外国語学部や、文学部英文科、国際学部といったグローバルな学部学科に通う生徒向けもJISキーボードでいいのか、ということも議論されるべきではないだろうか。
日本で学んでいるうちは日本語がメインだから問題ない、と言われるかもしれないが、将来海外で働く可能性が高いことや、外国語をタイプすることが多いことを考えれば、今のうちにUS ANSI配列に慣れておいた方がいい。JISとANSIでは、外国語で頻出する「”」「’」「&」といった記号キーの位置が全然違う。
そもそも海外に出れば、JISキーボードは入手困難だろう。あるいは会社の専用端末を使うことになった場合、少なくともJISキーボードではないだろう。「使っているうちに慣れる」と言われればそうなのだが、その慣れるまでのストレスは大変なものがある。メーカーも大学生用モデルとして販売するのであれば、CTOでUSキーボードも選択できるようにするべきだ。
さて大学1~2年時のPCの要件は大まかに絞り込めたわけだが、専門課程に進む3~4年に関して、今から決め込むことにあまり意味がないのではないかと思う。このペースでAIの機能向上が進んで行くとしたら、あと3年後に求められるPCのスペックなど、誰も予想できない。
特に理工学部では研究や解析でAIを使ったり、AIそのものの研究者になる子も増えていくだろう。社会がそれを望むからである。また情報系でも、自動運転車の普及に向けて、処理する情報量が今までとは比べものにならない桁になっている可能性も高い。少なくとも言えるのは、AIの登場により、今年のPCで3年後もまだ戦えるとは限らなくなった、ということである。
筆者の考えを皆さんに押し付けるものではないが、少なくとも大学1~2年はまだ本気PCでなくても十分、それより3~4年の専門課程で本気で考えるという方法論がいいのではないかと思っている。皆さんの考えも、SNS等で発信していただければ幸いだ。