「mixi2は一応、自分の発案だったと思ってるんですけど……」「収益についてはまだ、検討段階というか……」
歯切れが悪い。
新SNS「mixi2」を統括する笠原健治氏(49)のインタビューは、いつもこんな調子だ。シャイで控えめ。慎重に言葉を選ぶ。
だが実績は雄弁だ。東京大学在学中に創業したMIXI(旧:イー・マーキュリー)は現在、連結正社員1600人超・年間売上高1400億円超の大企業に成長した
SNSの草分け「mixi」は、笠原社長の下で2004年に公開。2011年3月期のピーク時にはアクティブユーザー1500万、年間売上高161億円(セグメント利益48億円)を稼ぎ出した。
13年に社長をバトンタッチした後は、取締役として新規事業に注力。15年にリリースした家族向け写真共有アプリ「みてね」は現在、世界2500万ユーザー(うち4割が海外)を獲得し、着実に売上を伸ばしている。
笠原氏が立ち上げた「mixi」も「みてね」も基本は無料。開始時は広告も課金もなく、多くの人「もうかるのだろうか?」と疑問を抱いている間に、収益化の道筋を付けた。
mixi2も無料・無課金でスタートした。モデルとするX(Twitter)は収益化に苦慮した末、混迷を極めたが、その二の舞を避け、ビジネスを成功させられるか。
「mixi2のサービスに価値を感じていただいている限りは、必ず収益化できるんじゃないかと思ってます」。笠原氏は自信を込める。
●Xは「自分の家に、知らないおじさんがいる」
mixi2は、友人や気になるユーザーをフォローし、その投稿をタイムラインで閲覧したり、自分自身でテキストや写真を投稿できる。
Xに似ているが、投稿(タイムライン)の表示順が大きく違う。Xはシステムが推薦する(レコメンド)投稿が上位に並ぶため、“見知らぬ人のバズった投稿”が目に入りやすい。mixi2のホームは、ユーザーが選んでフォローした人のつぶやきだけが、時系列に並ぶ。
笠原氏はレコメンドタイムラインを「自分の家だと思ってたのに、突然知らないおじさんがいました、みたいな状態」と表現。mixi2は、知らないおじさんが乱入しない、「自分が主役になれる場でありたい」という。
初代mixiのような、人と人との関係を深める本来のSNSを提供したいと考えている。「SNSは、つながった人・つながりたい人との関係性を深めるものだった。レコメンドもいいけれど、友人とのコミュニケーションに本当に価値がないんだっけ? って」(笠原氏)。
●mixi2は「自分でコントロールできるサービス」に
歴史を振り返ると、当初のTwitterは“本来のSNS”だった。タイムラインは完全時系列だったが、徐々にレコメンドを強化していった。刺激的なコンテンツを優先的に表示し、タイムラインを新鮮に保つことで滞在時間を延ばし、広告をはじめとした収益につなげることが目的だ。
笠原氏は「それはビジネス上は正しいのかもしれない」と理解を示す一方で、「レコメンドの強化による成長は、短期的・一時的な可能性がある。中長期的には裏目に出てしまう可能性もある」と考えている。
mixiはレコメンドを優先せず「ユーザーが自分でコントロールできるサービスにしたい」という。「情報の波に受動的に飲み込まれるのではなく、自分が選んだチョイスが反映され、自分で自分が見たいものをコントロールできるようにしたいと考えています」
●構想は2022年、マスク氏のTwitter買収ごろ
mixi2の構想を始めたのは、イーロン・マスク氏がTwitterを買収し、相次ぐ仕様変更でサービスが動揺した2022年末ごろ。Twitterの混乱で「短文テキストの領域で変化が起き、チャンスが生まれるのでは」と考えた。
とはいえ、テキストSNSは既にレッドオーシャンだ。Twitterは開始から約20年経ち、BlueskyやThreadsなどXの後釜を狙うサービスが乱立。短文SNSは厳しい市場といえるのではないか――。
笠原氏は「短文SNSで新しい体験を提供できるかは、チームでも悩んだ」と言いつつも「ベーシックなコミュニケーションとして、短文テキストは強い。王道、絶対なくならないもの」と考えて、参入を決めたという。
mixiから社名をとり、mixiの成功で上場した同社。「コミュニケーションサービスど真ん中であるSNSで主流となるサービスをもう一度やりたい」という思いを温めてきたという。
mixi2は笠原氏が統括する事業だが、「自分が発案した」と言い切ることには抵抗があるようだ。mixiへの期待の声は社内外からあったという。発案当初「予算はつけなくていい」と思っていたが、他の役員が予算を確保してくれるなど、役員から社員、社外まで”みんなの思い”がプロジェクトにのっているためだ。
開発は2023年にスタート。当初5人ほどのメンバーに、他の業務と兼任で関わってもらったが、24年初頭から専任化していった。笠原氏に賛同して集まってくれたスタッフばかりで、今は約10人に増えている。mixiに関わっていた40歳前後と、新卒も含む20代で構成されているという。
●ぶらさない2つの軸
mixi2には2つの軸がある。1つは「つながった人との関係性を深める」、2つめは「興味関心持ってることについてコミュニケーションできる」こと。この2つはぶらさないと決めている。
前者は、フォローした相手のつぶやきを確実に見られる時系列タイムラインが担う。レコメンドによって「知らないおじさんのつぶやき」が差し込まれないホーム画面を維持し、リアクションなどで交流を深めてもらう。
誰でも登録できるSNSが多い中、ユーザーの招待状で登録する「招待制」を採用したのも、人間関係を深めるツールと位置づけているから。招待を通じて口コミで広げていきたいという意図もある。
2つめの役割は、興味関心で集まった人で交流できる「コミュニティ」が担う。登録直後は招待者の投稿のみでタイムラインは“過疎”状態だが、コミュニティを訪れれば、活発な交流を体感できる。コミュニティには、タイムラインを賑やかにする役割もある。
●リアクション採用、足あと不採用の理由
mixi2の機能は、「喜び、発見、驚き、共感など喜怒哀楽を、あたたかい形で共有できるインフラにしたい」という思いで検討。投稿への反応をさまざまな表情の画像で表現できる「リアクションアイコン」や、文字が震える「エモテキ」が特徴的だ。
リアクションアイコンは100以上。絵文字に加え、「エモ」「かわいい」「おつかれ」など感情を示す文字アイコンを豊富にそろえており、テキストを入力しなくても、気軽に反応できる。「いいねボタンだけでは面白さが足りない」と実装した機能だ。
文字のリアクションは、ポジティブな内容を多く選ぶことで“ほっこり”した雰囲気を導く。また、クリスマスや正月など季節行事には期間限定のリアクションアイコンを実装。活発に利用されたという。
他にもあらゆる機能を検討し、取捨選択した。mixiの特徴だった「足あと」も「再三議論にはなった」というが、採用は見送った。
「短文SNSで何をもって足あととするか……タイムラインに一瞬でも表示されたら足あとなのか、プロフィールまで見に行ったらつくべきかなどが難しかった」ためだ。
●「マイミク」は「重い」から不採用
フォローは一方的にでき、双方向の承認が必要だった「マイミク」にはしなかった。「気軽にフォローしてほしいし、フォローを外すのもいいと思います。双方向だと割と重くなっちゃうので」。メッセージ(DM)機能にも既読を付けず、気軽に読めるよう配慮した。
「mixi2」というストレートな名称は、自然な発想だったという。
「かなり初期からmixi2で行こうと決まっていた、と自分は思っていて。社名は今もMIXIだし、mixiの名で再び、主流となるSNSをやりたいっていう思いもありました。過去のブランド資産を生かせるとか、伝わりやすいという感覚もあったと思います」
名称的にも、かつてmixiを楽しんだ中年以上の世代がターゲットなのだろうか? 「いえ、mixiを使っていない若い人にも使ってもらいたい。両方取っていきたいと思っています」(笠原氏)。
●開始時がピーク? 熱狂は落ち着いても「自然な成長がいい」
一般公開は12月16日。プレスリリースを打たない“サイレント公開”だったが、社員から招待状を受け取ったWeb系のインフルエンサーが拡散し、お祭り騒ぎになった。
Xのトレンドにもmixi2が入り、各アプリストアでダウンロードランキング1位を獲得。初速は想定を大きく上回り、5日で120万登録を突破した。
その後は利用が落ち着き、大みそか近くには「mixi2のタイムラインが“過疎”ってきた」という声も聞かれるようになった。
「初期の盛り上がりがちょっと異常値的だった」と笠原氏。だが「12月31日の紅白歌合戦や、1月1日のあけおめ投稿で投稿ボリュームがすごく増えた」という。「そこは(リアルタイムに共有できる)時系列タイムラインの良さかな、って」。
1月2日以降は元日よりやや下がりつつも「アクティブユーザー数、アクティブ率、投稿ユーザー数も上がってきている」状態だ。「使う人にはしっかり使ってもらっており、新しく入ってきた人もなじみながら、だんだん数字が積み上がってきている状況かなと思ってます」。
今後も口コミベースの自然な成長を目指す。「愚直に機能を改善していきながら、使ってる方々が満足し、招待が広がったり、評判を聞いた人がやってみたいと入ってくる、自然な成長が一番いい。mixi2のコンセプトは”善なるもの”であり、多くの人に受け入れられる可能性はあると思っています」。
●収益化の道筋は
収益化はどう考えているのだろうか。Twitterはユーザーに愛されながらも赤字が続き、イーロン・マスク氏による買収とサービスの混乱を招いた。
mixi2のビジネスについて笠原氏は、「サービスを立ち上げてるフェーズなので先のことは読めないし、検討段階ですが……」と濁しつつ、「収益は非常に大事。使い勝手の良いサービスを提供するためにも、しっかり作っていかなくちゃいけない」と覚悟を示す。
基本機能は「将来的にも無料であるべき」と考えているが、広告や付加サービスでの課金の可能性も含めて、幅広く検討する。
広告という“知らないおじさん”がタイムラインに現れる可能性があるのか? と問うと、「(広告主に対して)どなたでしたっけ? って話もあると思うんですけど、より良いサービス作っていくために、やむを得ない部分なのかなって気はしてます」。
新たなビジネスアイデアも検討する。「(広告・課金以外の)もっと面白い仕組みや、新しい収益の取り方も、あるのかもしれない」。
●「みてね」を参考に、mixi2のビジネスを考える
収益化のイメージとして、初代mixiや、笠原氏が立ち上げた写真共有アプリ「みてね」が参考になるかもしれない。mixiは開始半年で広告を導入。1年弱で課金サービス「mixiプレミアム」(当初は月額315円)を始め、開始1年強で単月黒字化した。
「みてね」は開始2年目に有料フォトブック作成機能を、4周年の2019年にユーザー課金「みてねプレミアム」(当初は月額480円)と年賀状プリント「みてね年賀状」を開始。子ども用GPSなど周辺サービスへも展開して黒字化しつつある。
筆者は「みてね」を使い始めて約10年の課金ユーザーだ。プレミアムは当初から利用しているし、別料金で紙写真を購入することもある。姉妹サービスの「みてねみまもりGPS」(月額528円)は子どものランドセルに入れ、位置情報を把握している。
月額1000円以上支払っているが、“お金を取られている”感覚は薄い。子どもたちの写真や動画を祖父母に見てもらえるのが楽しく、満足感が料金を上回っているためだ。電気代や水道代、もしくはAmazonプライムのような、日常を支えるインフラ費用というイメージだ。
サービスが愛され、日常のインフラになれば、付加価値や周辺領域にお金を払うことへの抵抗が減る。mixi2が目指すのは、そんなポジションなのかもしれない。
●「いいサービスと収益は両立する」
現時点のmixi2は、まずサービスを成長させることを目指しており、ビジネス化はその次の課題だ。
「多くの人がよく使ってくださる、プライオリティの高いSNSにしていくことが大事。そこに価値を感じていただいている限りは、必ず収益化はできるんじゃないか」――笠原氏の基本スタンスは、mixiリリース当初から笠原氏(当時は社長)が話していた「いいサービスと収益は両立すると」変わらない。
mixi2の開発チームは約10人の少数精鋭。「現状、かなり少数なチームでできていますし、経営体力的にも全然カバーしていける」
MIXIグループは約900億円の現預金(2024年6月時点)を保有し、自己資本比率は8割を超えるなど財務は極めて盤石だ。可能性のあり事業に投資する余力は十分だ。
●いずれ海外も
mixiはピーク時でアクティブユーザー数1500万、通期売上高161億円をたたき出した。みてねは「家族専用SNS」という狭いターゲットながら世界2300万人が利用する。
mixi2の成長余地はどう見ているか。「多くの人にとってプライオリティの高いSNSになれば、自ずと数字も大きくなっていくんじゃないか」。笠原氏は数値の明言を避けつつも、前向きな展望を述べる。
海外展開も検討する。「今は立ち上げ段階なので、収益同様、あまり偉そうには言えないんですが……。いずれ海外でもやっていけたらな、と思っています」。
●AI時代に人と人をつなぎたい
mixi2は社会やユーザーにとって、どんなサービスでありたいか。改めて聞くと――。
「ほっこりとした、他愛のないことを気軽につぶやける、自分が中心・主役となれるような、居心地のいい空間でありたい。そういう場があることは、社会にとってもとても大事というか……」。ここで笠原氏は唐突に「AI」というワードを口にした。
「この先、AIが発展して生産性が上がり、余暇が増えたり、仕事をしなくても不自由なく生きていけるような社会になっていくのではと思ってます。健康寿命も延び、より長寿社会になるだろう、と」
そんな時代にさらに大切になるのは、家族や友人など大事な人と過ごす時間や、趣味に没頭し、さまざまコミュニティで交流すること。mixi2は、AI時代に人間同士の交流を円滑にするサービスになりたいという。
「つながった人との関係性を深められる、趣味、興味関心でコミュニケーションできるmixi2のようなサービスは、人と人とのコミュニケーションの受け皿としての役割を担っていけたらいいな、と思っています」
ただ当面は、サービスの改善と、ユーザーの拡大・定着を目指していく。「mixi2 をプラットフォームとして完成させるのは簡単なことではないですし、大きな挑戦になると思います」