中国科学技術大学を中心とする研究チームが発表した論文「Exploring the boundary of quantum correlations with a time-domain optical processor」は、光子を使った量子物理学の実験で、37次元という極めて複雑な状態を作り出すことに成功した研究報告である。
研究チームが焦点を当てたのは、グリーンバーガー・ホーン・ツァイリンガー(GHZ)タイプのパラドックスと呼ばれる現象だ。このパラドックスは量子測定の文脈依存性を示すもので、量子力学の基本的な特徴を明らかにする重要な実験として知られている。
文脈依存性とは、ある物理量の測定結果が、同時に測定する他の物理量(文脈)の選び方によって変化してしまう性質である。今回の研究では、理論的に可能な最小数である3つの文脈でGHZタイプのパラドックスを初めて実現することに成功した。
実験では、光ファイバーを使った装置を開発。時間領域で多重化された光パルスを用いることで37次元の量子状態を作り出し、その状態を精密に測定することに成功している。特に、強いコヒーレント光(参照光)を用いることで、量子状態の振幅と位相の完全な情報を抽出することを可能にした。
実験結果は量子理論の予測と極めて良い一致を示し、古典的な理論の予測とは明確に異なることを実証している。測定の不完全さを考慮に入れても、古典理論では説明できない結果が統計的に有意な形で得られた。
Source and Image Credits: Zheng-Hao Liu et al. ,Exploring the boundary of quantum correlations with a time-domain optical processor.Sci. Adv.11,eabd8080(2025).DOI:10.1126/sciadv.abd8080
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2