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Xeon 6にLunar Lake 全方位で競合をリードする、信用のブランドがIntelだ――基調講演でパット・ゲルシンガーCEOが語ったこと

ITmedia PC USER 2024年6月5日 17時5分

 2024年6月4日、台湾・台北市で開幕した「COMPUTEX TAIPEI 2024」において、Intelのパット・ゲルシンガーCEOが基調講演を行った。講演のタイトルは「Bring AI Everywhere(AIをどこにでも届ける)」とのことで、AI(人工知能)に絡めて同社の新製品などを紹介していった。

 この記事では、ゲルシンガーCEOが基調講演で語ったことをまとめる。

●COMPUTEXと80286は“ほぼ同い年”

 ゲルシンガーCEOは、COMPUTEX TAIPEIが最初に開催されたのが1981年であることに言及した上で、「その翌年(1982年)に『80286』を出したんだよね」と、80286の実物を取り出して観客を沸かせた。

 80286について念のために補足すると、現在のIntel製CPUの源流ともいえるCPU「8086」の後継として1982年2月に登場したCPUで、命令処理の高速化、扱えるメモリ容量の拡大(最大1MB→16MB)、そしてマルチタスク対応に備えて「プロテクトモード」というメモリやプロセスを保護する動作モードが追加されたことが特徴だ。

●Intel Foundryは「AI時代」を支えるための取り組み

 80286のリリース当時、CPUのトランジスタ数は十数万個だった。しかし、2030年までにCPUが備えるトランジスタの数は1兆個に到達すると予測されている。

 AIの応用と実用化が加速している昨今、コンピュータ業界は全てのデバイスのAI化に挑戦しており、近い将来において全ての企業が何らかの形でAIに関与するようになる――ゲルシンガー氏はこう推測している。

 その上で、ゲルシンガーCEOはAI対応プロセッサ(SoC)の受託生産(ファウンドリー)事業「Intel Foundry」を2024年に開始したことを紹介した。この事業は、「Era of AI(AI時代)」を支えるための取り組みだという。

 なお、Intel Foundryに関しては過去に拙著で詳しく解説しているので、合わせて参照してほしい。

 このIntel Foundryを鍛え上げているのが、自社設計したCPUの生産だ。

●用途に合わせてPコア/Eコアを選べる「Xeon 6」

 Intelは、このIntel Foundryで他社のプロセッサ製品を製造するわけだが、その際に使われる「先進プロセスノードの鍛え上げ」は、さまざまな自社設計のCPU製品の製造によって行われている。

 ゲルシンガーCEOは、その一例として6月から順次発売される「Xeon 6プロセッサ」を挙げ、同プロセッサに関する話を始めた。

 その名の通り、Xeon 6プロセッサは「第6世代」のXeonプロセッサだ。クライアント機器向けCPUの「Coreプロセッサ」と同様に、AI時代を迎えることに合わせてリブランドしている。

 Xeon 6プロセッサは、科学技術計算(HPC:ハイパフォーマンスコンピューティング)用途を想定した高性能コア(Pコア)のみ構成しているモデル(開発コード名:Granite Rapids)に加えて、マイクロサービスや一般的なサーバ用途に最適な高効率コア(Eコア)のみで構成しているモデル(開発コード名:Sierra Forest)の“2本立て”で順次発売することを改めて発表した。

 ゲルシンガーCEOは、Xeon 6 6700Eの144コア144スレッドモデル(Xeon 6 6780E)と第2世代Xeonプロセッサの28コア56スレッド/2ソケット対応モデル(Xeon Platinum 8280)で、56個の動画ファイルをトランスコードするデモンストレーションを披露した。すると、Xeon 6 6700Eの方は毎秒2600コマを処理していくのに対し、第2世代Xeonプロセッサは毎秒630コマと、速度差は4倍以上となった。 

 「Xeon 6への移行で得られるのは、4倍以上の性能向上だけではない」とゲルシンガー氏CEOは語る。というのも、Xeon 6プロセッサに移行すれば、必要なラック数(体積)は3分の1に、4年間で節約できる電力は約8万MWh(※1)となるからだ。この電力量は、台北市のランドマーク的な高層ビル「Taipei 101」を500年間光らせることができる電力に相当する。

(※1)Xeon 6関連のパフォーマンスインデックスの「7T2」を参照

 Xeon 6シリーズはEコアのみの小型パッケージから発売されるが、今後Pコアを搭載する大型パッケージ(Xeon 6 6900Pシリーズ)、Eコアを搭載する大型パッケージ(Xeon 6900Eシリーズ)とPコアを搭載する小型パッケージ(Xeon 6 6700Pシリーズ)が順次発売されることもアナウンスされた。

 サーバエンドで実行するAIやHPCでは、AIアクセラレーターも欠かせない。

●最新スタイルのAIには「Gaudi 3」を

 ゲルシンガーCEOは、AIの最新形態の1つである「RAG(Retrieval Augmented Generation」に触れ、「RAGスタイルのAIの利用度が上がっていくと、CPUベースのサーバはそのデータベースとして運用されていき、AIモデルそのものは主にAIアクセラレータで動作するようになっていくだろう」と語る。

 RAGは、LLM(大規模言語モデル)に外部情報(検索エンジンや特定分野の専門情報など)を掛け合わせることによって、生成される回答(データ)の精度を高めるための仕組みだ。

 このような用途において、現在はGPUサーバを使うことが多い。それに対して、ゲルシンガーCEOは「IntelにはGaudiシリーズがある」と語り、このタイミングで第3世代AIアクセラレータ「Gaudi 3」の展開をアピールした。

 Gaudi 3は、FP8(8bit浮動小数点)演算における「GEMM(General Matrix-Matrix Multiply)」の理論性能値が最大1835TFLOPSとなる。競合のNVIDIAのAIアクセラレーター「NVIDIA GH200」の同一条件における理論性能値は最大1514TFLOPSとなるため、約321TFLOPSの性能差がある。

 そこでゲルシンガーCEOは「Gaudi 2やGaudi 3は、競合と比べてどのくらい安いの?」と、RAGを適用したAIチャットに質問した。そう、このAIチャットにはGaudi 2やGaudi 3、そしてNVIDIA GH200の価格情報へとアクセスできるように設定されていたのだ。

 すると「(NVIDIA GH200に対して)Gaudi 2は3分の1、Gaudi 3は3分の2です」と応答していた。

●クライアントPC向けCPUもAI推し

 基調講演の終盤は、クライアントPC向けCPUの話題が取り上げられた。

 Intelは2023年末、クライアントPC向けCPUのメインブランド「Coreプロセッサ」のリブランドを実施し、長年付いていた「i」を取ると共に、上位モデル向けの新ブランドとして「Core Ultraプロセッサ」を立ち上げた。

 Core Ultraプロセッサは名前が変わっただけでなく、AI時代の突入に合わせて推論アクセラレータ(NPU:Nueral Processing Unit)「Intel AI Engine」を新たに搭載した。その初代製品が、現行の「Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)」(開発コード名:Meteor Lake)だ。

 このタイミングから、Intelは「Core Ultraは『AI PC』を実現するためのものである」というメッセージを訴え始めたのだ。

 そして今回、このCore Ultraプロセッサシリーズに新たな製品バリエーションが追加されることが発表された。「Lunar Lake」という開発コード名で開発が進められてきたCPUだ。

 Lunar Lakeは、標準消費電力が15Wクラスで、低消費電力タイプのノートPC向けCPUと位置付けらている。CPUアーキテクチャもMeteor Lakeから刷新され、特にPコアはハイパースレッディング機構が廃止されることとなった。NPUは演算能力を約3倍に増強し、内蔵GPUも「Battlemage」(開発コード名)の設計思想を反映した「Xe2アーキテクチャ」となった。

 現行のCore Ultraプロセッサ(シリーズ1)とLunar Lakeは、共にモバイル(ノートPC)向けのCPUだ。一方で、デスクトップ向けのCPU「Coreプロセッサ(第14世代)」は、第12世代Coreプロセッサで採用された設計の延長線上にあり、3年間に渡って大きなアーキテクチャ変更はなされていない。

 そのことを意識してか、ゲルシンガーCEOは「これまでのAI PCはノートPC向けのものとして訴求されてきたが、2024年下期からは、デスクトップPCにも波及させる」と宣言した。これは、2024年後半に発表される予定の「Arrow Lake」(開発コード名)のことを指すと思われるが、この基調講演ではその具体像は明らかとならなかった。

 その代わりなのかは分からないが、Arrows Lakeの次に控えるCPU「Panther Lake」が最新プロセスノード「Intel 18A」で製造されることが明らかにされた。

 サーバ向けCPU「Xeon 6プロセッサ」、AIアクセラレーター「Gaudi 3」、そしてクライアントPC向けCPU「Lunar Lake」――今回も怒濤(どとう)のペースで新製品を投入してきたIntel。かつて不調だった頃のIntelの印象は薄まってきているだろうか。

 AI PCしかり、Intelが掲げるAI Everywhereしかり、激しい争いが続く中でどこが覇権を握るのか、しばらくは目が離せそうにない。

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