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なぜASUSは「Copilot+ PC」を他社に先駆けて数多く用意できたのか? 同社幹部に聞く

ITmedia PC USER 2024年6月12日 13時0分

 台湾の台北市で行われた見本市「COMPUTEX TAIPEI 2024」の期間中には、各所でさまざまなイベントが開催された。そのうち、台湾ASUSTeK Computer(ASUS)が日本のメディア向けに同社エグゼクティブのグループインタビューを開催した。

 ここでは、同社におけるAI PCの展開、AI PCがエンドユーザーにもたらす影響、新型ポータブルゲーミングPC「ROG Ally X」なども含めた日本市場におけるASUS JAPANの製品展開などについて興味深い話を聞くことができた。その模様をレポートしよう。

 お話を伺ったのは、ASUSTeK Computer システム部門 アジア太平洋地域ジェネラルマネージャーのピーター・チャン(Peter Chang)氏、ASUS JAPAN 代表取締役社長 アルヴィン・チェン(Alvin Chen)氏、ASUS JAPAN システムビジネスグループ コンシューマービジネス事業部 統括部長のデビット・チュー(David Shu)氏だ。

●アーキテクチャの違いを吸収するAI

―― CPUにNPUを統合するトレンドがありますが、一般消費者にとっての具体的な利点は何ですか?

アルヴィン・チェン AI推論処理に特化したNPUがあれば、CPU/GPUの負荷を減らし、快適かつ省電力な運用ができます。当然、ソフトウェアのNPU対応が必要になりますが、WindowsベースのCopilot+ PCでは、各社のNPUに対応したAIアプリケーションがOSレベルで統合されています。そのため、ユーザーはx86/x64/Armといった命令セットアーキテクチャに関係なく、NPUの恩恵あるAI体験ができます。今後ソフトウェアのNPU対応はさらに進み、より多くの場面で恩恵が得られるでしょう。

―― AIにより、PCやスマートフォンはどう変わっていくとお考えですか?

アルヴィン・チェン これまでは、PCとスマートフォンなどのハンドヘルドデバイスには明確な役割の違いがありました。OSや入力環境の違いから「PCは生産性」「ハンドヘルドは消費とコミュニケーション」というように、明確にすみ分けがありました。

 しかし、今AIにより、自然な言語での入力やさまざまな方法でのコンテンツ制作が可能になったことで、その境界は明確ではなくなりました。両方の特徴を統合した複合的な、そしてユーザーがやりたいさまざまなことに対して、より最適な形のデバイスを提供できるのではないかと考えています。

ピーター・チャン 過去をさかのぼると、Windowsの登場によってPCの使い方は大きく変わりました。しかし、実はWindowsはMS-DOS上で動作するソフトウェアの1つから始まっています。同じことがこれからAIによって起こるかもしれません。AIによってPCのエコシステムが変わり、我々の日々も変化し続けます。今日、我々は幅広い製品を紹介しましたが、今後もいろいろなサービスを提供し続け、改革し続けていきます。

●ASUSのAI PCは強固なパートナーシップと独自アプリが強み

―― 今後、PCやスマートフォンにAIをどのように組み込んでいくのでしょうか?

ピーター・チャン MicrosoftやGoogleといったAIプラットフォーマー、そして、Intel/AMD/Qualcomm/NVIDIAなどのシリコンプロバイダーが重要な役割を果たしています。今回、幅広いジャンルで多くのAI PC製品を皆様に紹介しましたが、このようなことができたのも、我々がこれらのベンダーと長年のパートナーシップがあり、密接にコラボレーションできたからこそであり、今後もコラボレーションは重要だと考えています。

 なお、COMPUTEXではタイミングの関係で、AMDとQualcommのCPUに重点を置いていますが、Intelの次世代CPUを搭載した製品も開発中です。2024年後半の発表に向けて準備を進めているところです。

―― 確かに、Snapdrogon X EliteやRyzen AIの発表と同時にこれだけたくさんの製品をそろえられるのは、ベンダーとの密接な関係がなければできないことです。

ピーター・チャン コラボレーション以外の部分でも、我々のAI PCは独自の特徴を持っています。今回発表したCopilot+ PC準拠の「ProArt」シリーズには、画像生成AIアプリ「MuseTree」やデジタルアセット管理アプリ「StoryCube」など、当社独自のAIアプリケーションを導入しています。これらのソリューションが、クリエイターが簡素なプロセスで事実やアイデアを整理し、より短い時間でクオリティーの高いコンテンツを作り出すことを支援します。

―― AI PCの投入によって、具体的に感じられる効果はありますか?

アルヴィン・チェン AIは我々を含む全PCメーカーにとって重要なトピックであり、その期待の高まりを実感しています。しかしながら、今はAI PCの最初の1年であり、初期段階です。まずはAI PCがどういうものか知っていただく必要があります。日本の販売パートナーとの対話、情報共有が重要だと考えています。

 AI PCとは何か、何ができるのか、どう使うのかといった情報を共有し、日本のエンドユーザーにどのように提案していけばよいか、探していきたいと考えています。

―― AI以外でアピールしたい機能や特徴などはありますか?

ピーター・チャン 我々は、デザインやマテリアルについても探究を続けています。「Zenbook S 16」では、セラミックとアルミニウムを融合させた新素材の「Ceraluminum」(セラルミナル)を使用しています。独特の上質感がありながら耐久性にも優れており、美しい外観を長く保つことができます。ぜひ注目してください。

●ポータブルゲーミングPCの開発には今後も意欲を示す

―― ROG Allyシリーズは、今後も製品ラインアップの1つの柱として成長が見込めると考えていますか?

ピーター・チャン 2023年に「ROG Ally」を発売した後、私たちは非常に良い反応を得ることができました。特に日本は大きな売上げと成長があった国の1つです。PCゲームの市場はまだ成長し続けており、このセグメントも引き続き大きなチャンスがあると考えており、これからも意欲的に開発を継続していきます。

 今回発表したROG Ally Xでは、バッテリー容量を倍増し、USB4(Thunderbolt 4)端子も加わるなど先代製品から大きく進化しており、現時点でのパーソナルコンソールとして完璧な選択だと考えています。

―― ライバルと見ている製品はありますか?

ピーター・チャン 当初は「Steam Deck」を競合と想定していましたが、ROG Allyは、Windows 11が動くポータブルPCとしても受け入れられています。

 私の息子もROG Allyで宿題をしていたりするなど、Windows 11ベースであることで活用の幅が広がっています。Windows 11ベースのPCとしては、現時点では特に意識している製品はありません。

―― Windows 11ベースの製品としては、AYANEOなどの中国製品の他に、LenovoやMSIなどからも製品が登場していますが、それらに対しての優位点は何だと考えていますか?

デビット・チュー ROG Ally Xに導入している「ROG Armory Crate」ユーティリティーは重要なアドバンテージの1つです。ランチャーとして、Steam/Xbox/Epic Gamesストアなどのゲームライブラリーに保存されているゲームにワンストップでアクセスできたり、ボタン機能やゲームプロファイル、システムメモリとグラフィックリソースの割り当てなど、パフォーマンスモードの設定を切り替えたりできます。

 また、フレームレートを向上させ、スムーズな動きを実現するフレーム生成技術である「AMD Fluid Motion Frames」(AFMF)を、いち早くサポートしています。さらに、新型のROG Ally Xについては、放熱設計の改良により、Z1 Extremeの性能を最大限に引き出しているだけでなく、メモリ/ストレージ/バッテリー容量などを大幅にアップグレードして、Thunderbolt 4を含むデュアルUSB Type-Cポートを備えています。こういったスペックの面でも優位に立てていると思います。

●電子ペーパー天板「Project DALLI」の製品化は? BTOの今後

―― 法人向け市場においては、WWAN機能(5Gまたは4G LTE)が重要だと思います。WWAN機能についてのお考えをお聞かせください。

アルヴィン・チェン WWAN機能の重要性は我々も認識しています。最近では教育市場向けにLTEとeSIMをサポートした製品を発売していますが、今後さらに多くの法人向け製品を現在開発中です。

―― ASUS Storeにおいて4月からExpertBookシリーズのBTOサービスが開始されました。反響や今後のプランを教えてください。

アルヴィン・チェン BTOは、現在日本が注力している重要な取り組みの1つです。サービス開始後の最初の30件の注文で、ポジティブなフィードバックを得ています。全ての注文は、Core i7またはCore i5のCPUで、32GBメモリへのアップグレードが選択されており、よりハイスペックな構成が好まれる傾向にあります。

 また、今後は出荷のリードタイムを14日から10日に短縮すること、2024年中にデスクトップ製品をBTOカテゴリーに入れること、2025年の終わりまでにより多くの製品ラインを増やすことを目標としています。

―― 展示会場には「Project DALLI」という天板に電子ペーパー(E Ink)を搭載した製品のプロトタイプがありました。製品へ実装する予定はありますか?

ピーター・チャン Project DALLIについては、現在開発段階です。具体的な投入時期などは決まっていません。これから検討していきます。

●ASUS JAPANのロードマップを公開 Lunar Lakeも準備中

 このインタビューとは別に、日本メディア向けに行われたブリーフィングでは、コンシューマー製品を統括するデビット・チュー氏により、ASUS JAPANの製品展開方針やロードマップが明かされた。

 同氏はまず2024年の成長戦略として、40TOPS以上のAIパフォーマンスを持つAI PCのラインアップを拡大していくこと、そしてクリエイターへのアプローチを挙げた。

 筆者の印象では、これまで同社のクリエイター向けのProArtシリーズはプロフェッショナル向けのイメージが強かったが、今回発表された「ProArt P16」「ProArt PX13」「ProArt PZ13」の3製品は、いずれも大きな魅力ある製品だ。

 特にProArt PX13とProArt PZ13は、これまでになかったカジュアルに携帯できるフォームファクターの製品であり、ユーザー層の拡大を見込めるだろう。日本法人が力を入れて展開するのであれば、大いに期待したいところだ。

 また、今回発表された製品の日本市場への投入時期も明かされた。Qualcomm X Eliteを搭載する「Vivobook S 15」(S5507QA)は6月18日に発売予定だ。「ZenBook S 16」は7月以降、ProArtシリーズ、ゲーミングの「ROG Zephyrus G16」は8月のリリースを予定しているという。

 今回グローバルのイベントではフィーチャーされなかったが、Ryzen AI 9 HX 370を搭載したCopilot+ PCとして、Vivobook S 16とVivobook S 14も発表されている。こちらは投入予定が7月中旬で、価格は20万円~25万円での発売が見込まれる。

 さらに、Intelの次世代CPUであるLunar Lake搭載機についても、Intelと開発を進めている最中であり、年内に投入すべく準備を進めていることが明かされた。

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