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忙しい教職員をサポートするソリューションにも熱い展示が見られた「NEW EDUCATION EXPO 2024」レポート

ITmedia PC USER 2024年6月20日 12時0分

 2021年度にスタートしたGIGAスクール構想──実は、それより前から教育にITを取り入れようと、まい進していたのが内田洋行(東京都中央区)だ。Windows 95で世間が沸いた翌年の1996年に始まった「NEW EDUCATION EXPO」も、2024年で29回目を迎えた。

 今回は、6月6~8日にかけて開催された同イベントの模様をレポートする。前編ではハードウェアの話題を中心にお届けしたが、今回はソリューションに注目して紹介していきたい。

●授業準備と“マル付け”の省力化に電子辞書をプラス──カシオ計算機

 カシオ計算機では、小中学校にも展開しているICT学習アプリ「ClassPad.net」と、グループ企業になったリブリーのデジタル教材プラットフォーム「Libry」を展示していた。

 ClassPad.netはペーパーレスで児童・生徒に課題の配布から提出までを行える授業支援機能ソリューションだ。児童・生徒は課題を提出するだけでなく、自由にノートを作成したり、作成したノートに付箋を付けたりして、奥行きのある学びを得られるとしている。

 カシオ計算機ならではともいえるのが、電子辞書コンテンツ「EX-Word」を利用できることだ。学習中に分からないことが出てきたときに、わざわざ紙の辞書を引いたり、電子辞書端末を隣に並べたりすることなく、全てがClassPad.net内で完結する。引いた内容をそのまま付箋に貼り付けて何度も見返すこともできる。

 Libryにはデジタルで配信された教材や課題に直接書き込む機能はない。問題集を開くイメージで配信された教材を端末で開き、ノートにペンで書き込んで答えていく。解き終わってから解答をLibryで確認し、自己採点したその結果を教師に送信するという流れになっている。教材配信と学習履歴管理を1つのツールで行えるといったイメージだ。

 教師側では児童・生徒各人のどこが弱いのかを学習履歴から確認できるため、個別指導しやすいというメリットがある。リブリーの担当者は「せっかくグループに加われたので、ゆくゆくは、書き込みできるよう、カシオ計算機のClassPad.netで展開していきたい」と語っていた。

●紙のドリルでは得られないメリット──富士通Japan

 富士通Japanは「デジタル教材提供サービス」を展示していた。

 キャッチコピーは「ずっと使ってきたものをデジタルでも。全ての教員にとって 日常使いを無理なく」というもの。

 デモ端末を見ると、はるか昔に見たことがあるようなドリルの紙面がそのままディスプレイ上に再現されていた。習得したい漢字とその書き順が表示されており、スタイラスペンを使って手本に沿って書き込む。「書き順」の欄でわざと誤った書き順を試してみると、形は合っているが書き順が異なるということで、採点は「三角」となった。さらに正しい書き順の隣に自分の書き順が動画で表示された。なるほど、これなら正しい書き方を身につけられそうだ。

 テスト形式で表示する機能も用意されており、こちらもあえて正解ではない漢字を書き込んだところ、正しい漢字を書き順と共に示しつつ、自分の書いたものも隣に表示され──まるで“個別指導”を受けているような気持ちになった。子供の頃にこれがあれば……と思わずにいられなかったのは言うまでもない。

●こだわりの教材を配信──MetaMoJi

 手書きといえば、MetaMoJiの存在を抜きに語ることはできない。

 「MetaMoJi ClassRoom」は、教師が配布した教材を配信し、それに児童・生徒が書き込める学習支援アプリだ。アプリといっても、GIGAスクール構想要件を満たすWebブラウザ上で機能する。書き込んでいる様子は、教師側の端末でリアルタイムに確認できる。進ちょく度合いによっては遅れている児童・生徒のそばへ行き、どこでつまずいているのかを聞くこともできる。

 クラスの誰かをピックアップして全員の端末に表示させ、なぜそのような解き方をしたのかを発表してもらうこともできる。これにより、レガシーな授業で指名した児童・生徒にわざわざ黒板まで移動してもらい、書かせて戻らせるという手間と時間を短縮する。

 授業時間が減ったのに学ぶ科目が増えてしまった昨今、少しでも効率よく授業を進められるのは教師にとっても生徒にとってもありがたいことだろう。

 解答に対して、その場で教師がマル付けやアドバイスを書き込むことも可能だ。これも提出の時間を短縮したり、教師が放課後などに行う作業を減らしたりするのに役立つ。

 MetaMoJi ClassRoomではPDFを配信できるため、既存の教材だけでなく、教師独自の教材も配信できる。ブースの担当者は「中学、高校では、先生方の教材へのこだわりが強く、ご自分でオリジナル教材を作っていらっしゃる方もいる。そのようなニーズに応えられる」と説明する。なるほど、中3時代の数学の先生が「xxx(教師の名前)の宝箱」というプリントを自作しており、その教材のおかげで要点を理解できるようになった経験が筆者にもあるのでうなずける。

 印刷のためにプリンタの前に並ばなくても良いこと、回収のために授業時間をロスしなくて良いことなど、MetaMoJi ClassRoomには授業の質や業務の質を高める仕組みのあることがよく分かる展示であった。

●板書のために背を向けない──NeoLAB

 手書きしたものをそのままデジタル化する「Neo smartpen」でおなじみNeoLABブースでは、手元を黒板にする「Grida Board」(グリダボード)のデモ展示を行っていた。

 Neo smartpenアカウントをGrida Boardに接続するだけで、手持ちのNeo smartpenで書いたものが端末に表示されるようになる。その教師の端末画面をプロジェクターまたは電子黒板システムなどを使い、教室の前方に共有すれば、児童・生徒たちに背中を見せることなく板書ができる、というわけだ。これにより、教師は板書している間でも、児童・生徒がどこに興味を引かれているのか、逆に興味を失っているかを確認できる。

 また、同じくNeoLABの「PaperTube」アプリを併用すれば、オリジナルコンテンツを教室で共有しながら板書することも可能だ。中学や高校のように複数のクラスで同じ内容の授業をする際、何度も同じもの──例えば、キーボードの図やメダカの図などを書かなくても済む。これにより、時間短縮も図れるというわけだ。

 なお、Grida BoardもPaperTubeも利用料は無料だ。Neo smartpenやN codeの印刷されたノート(N notebookシリーズ)、オリジナルコンテンツを印刷する用紙「NコードA4」などの購入の際に費用が発生するだけとなっている。

●ディスプレイをチェンジして短い休み時間を有効に使う──アイ・オー・データ機器

 ディスプレイと時間の有効活用に何の関係があるかと思われるかもしれないが、これが大いにある。文部科学省初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチームの「校務の情報化に関する調査結果(令和4年9月時点)」によれば、校務用端末と教務用端末を使い分けていると回答した教員は全体の約8割だった。

 しかし、管理コストの手間を考えると校務・教務端末一元化が望ましい。とはいえ、教室ではWi-Fiに接続し、職員室ではセキュリティの関係上、有線LANに接続する。職員室へ戻るたびにわざわざネットワークの切り替えをするのは煩わしいし、何よりケーブルを何本も抜き差ししていると時間がかかる。

 アイ・オー・データ機器の「BizCrysta」シリーズなら、ドッキングステーションの機能を持っており、職員室へ戻ってきたらUSB Type-Cケーブルを1本挿すだけでその他の周辺機器や有線LANでつながった職員室のネットワークに接続できる。MACアドレススルー機能を搭載しているので、ディスプレイではなく教師のノートPCのMACアドレスをネットワーク側で認識するので、遮断されることもない。

 さらに、ディスプレイ下部にある人感センサーは、距離の設定が可能だ。職員室に生徒がやって来て教師が対応のためディスプレイから少し離れるだけで表示をオフにする。個人情報を含む大切な情報を盗み見られる心配もないというわけだ。

 教職員だけではない、生徒など多数の人が出入りする職員室にこそぴったりなディスプレイといえそうだ。

●ホワイトボードを電子黒板に──内田洋行

 主催者の内田洋行もいくつかのデモ展示を行っていた。例えば後付け型電子黒板ユニット「e-黒板」は、プロジェクターを使ってホワイトボードや白い壁などに投影した画像に、指などで書き込めるようになる。これはレーザーユニットの照射範囲に指などが当たることでその反射をカメラユニットが感知し、その座標を端末に戻すことで実現している。実演してもらったが書き込みは非常にスムーズで、ペンなどを使った通常の電子黒板との差は少なかった。

 ユニットは後付けなので、これまで使っていた装置を無駄にしない。さらに120型まで対応しているので、広い教室でも少ないコストで使えるというメリットがある。

 「RealCAST」(リアルキャスト)や「wivia R+」(ワイビア)は、児童・生徒たちの画面をモニタリングしたり共有したりできるソリューションだ。

 RealCASTでは、教室内だけでなく、オンライン上の児童・生徒の端末のデスクトップもリアルタイムでモニタリング可能で、取りこぼしのない授業を行える。ブラウザ上で動作するので、学校で指定されたものではない端末を持ち込んだとしても問題ないというのもメリットの1つだ。

 wivia R+は、OSを問わずに使えるMiracastのようなものだ。同じネットワーク内にある最大20台の端末画面を共有可能で、接続した端末は教師側で一元管理できる。最大4台の端末画面を映し出せるので、比較学習や発表などで使うこともできそうだ。学校全体ではWindows端末を指定しているのに、複数生徒が学習用にiPadを使っているといった場面で有効だ。

●通訳の予約が取れなくてもOK──ソースネクスト

 地域によっては日本語を理解できない児童・生徒を抱えている学校がある。そのような場合、先生の努力だけではどうしようもないため、通訳者を呼んで授業を行うが、必ずしもスケジュールが空いているとも限らない。

 そこで有効なのが「ポケトーク for スクール」だ。これは、「ポケトーク ライブ通訳」と「ポケトーク カンファレンス」を応用したツールで、教師が日本語で話した内容をリアルタイムで翻訳して児童・生徒の端末に自国語で表示するというものだ。

 アカウントは教師もしくは学校側が管理し、1つのアカウントに対して1つのシリアルが発行され、そのQRコードを児童・生徒が端末で読み込んでWebブラウザ上のポケトーク for スクール共有リンクを開ける。あとは「相手の言語」を「日本語」に、「私の言語」をリストから言語を設定すれば、端末のマイクが聞き取った日本語を適宜翻訳してブラウザ上にテキスト表示する。

 日本語も通訳した言語もテキストをダウンロードできるので、振り返り学習にも適している。

 また、音声取り込み先をPCに設定すれば、対面学習だけでなく、オンライン授業や録画された授業でも翻訳された内容を読める。

 1アカウントの料金は年間で40万円だが、都度通訳者を呼ぶよりはるかにコストがかからずスケジュールに縛られることもなく、コミュニケーションコストもかからない。

 2021年度にスタートした第1期GIGAスクール構想を通して見えてきた課題に対処するフェーズとなったNEXT GIGA。ITツールを導入したことで、かえって業務の増えてしまった教職員をサポートするソリューションが増えてきていると感じられる展示会だった。手書きというアナログな部分を残しつつ、デジタルの良いところの恩恵も受けられる。印刷する必要がなくならないのであれば、それをいかにスピードアップさせるかを考える。

 教職員にとってメリットのあるツールは、引いては学習者である子どもたちにもメリットがあるので、これからも使いやすさと効率の良さを両立させたツールが開発されることを願いたい。

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