こんにちは! refeiaです。
今日はHUIONの高級液タブ「Kamvas Pro 19」を見ていきましょう。液タブや板タブの分野で、海外メーカーのXPPen TechnologyやHUIONが台頭してきたのはご存知の通りだと思います。それらのメーカーは従来、若干の妥協と引き換えに“実用的+コストパフォーマンス”というのが主な強みで、上位モデルにも何らかの隙がある状態でした。
そして今回見ていくのは、ワコムの「Cintiq Pro 16」(実売20万円前後)と競えそうな価格になった上位モデルです。
発売から数カ月経ってはいますが、個人的に海外メーカーにも上位機に進んできてほしいと思っていたので注目していたモデルです。じっくり見ていきましょう。
●空白地帯だった18型液タブ
まずは、おおまかなスペックから見ていきましょう。
・18.4型/4K(3840×2160ピクセル)ディスプレイ
・新世代のペンシステム
・マルチタッチ対応
・色域カバー率:Adobe RGB 96%/DCI-P3 98%
・同社公式通販で16万9980円(税込み、以下同様)
4K/広色域/タッチ対応と、全体的に上位モデルのスペックになっています。海外メーカーは従来ではタッチ対応には消極的だったので、タッチ操作が欲しい人には朗報です。ただし、現状ではタッチ操作はWindows PCに接続した場合のみ利用できる、とのことでした。
また、18.4型のサイズも非常に良いです。これまで液タブといえば16型近辺から急に22型や24型まで飛んでいて、その中間のニーズを満たせずにいました。
ワコムが新Cintiq Proシリーズで17.3型を出したものの約37万円と高価すぎて別枠になってしまい、旧Cintiq Pro(16/24/32)の領域では大きな隙ができていました。そこにスポッと収まる格好になるのが本機です。
●外観と接続をチェック
それでは本体を見ていきましょう。全体的にソリッドで、好感を持てるデザイン。ナローベゼルのおかげで比較的大画面の割に設置しやすいサイズになっています。
背面は旧Cintiq Pro風の内蔵スタンドとVESAマウントがあり、片側にUSB Type-Cポートが2基とヘッドフォン端子、上端には電源ボタンとタッチ有効/無効スイッチがあります。
PCとの接続はType-Cケーブルか、3in1ケーブル(HDMI)を選べます。3in1ケーブルは液タブ側が2本に分かれていてやや不思議な形式ですが、頻繁に運搬したり片付けたりするようなモデルでもないので不便は感じないと思います。
そしてなかなかナイスなのが、液タブからノートPCに給電する機能です。付属のACアダプターは最大出力が65Wなので、ゲーミングノートPCでもなければ充電しながら制作することもできそうです。
●忠実性を訴求したディスプレイ
それでは、ディスプレイをチェックしていきましょう。基本的にはアンチグレアとフルラミネーション処理されたイマドキの良い液タブのディスプレイです。それに加えて本機は色の忠実性も訴求していて、シリアルナンバーつきのカラーキャリブレーション報告書が添付されています。
また、工場出荷時の設定でsRGBモードが有効になっています。標準的な発色をデフォルトにするのは、好ましいと分かってはいても、展示機などで色が薄いと見られてしまうことを恐れてなかなかできないことだと思います。ここは素直に拍手を送りたいです。
発色をネイティブモードに設定して測色機で計測すると、Adobe RGBとDCI-P3のおおむね両取りできる広色域だと分かります。カラーシミュレーションはsRGB/Adobe RGB/DCI-P3から選べます。
●豊富な付属品
海外メーカーあるあるですが、本機も例にもれず付属品が豪勢です。
標準ペン、スリムペン、ペンスタンド機能付きケース、K20の左手デバイス、クリーニングクロス、手袋……と、手袋は手のひらからタッチが通りにくくなるようなクッションが入っており、誤爆を防ぐ役割があるようです。
従来は細いペンが無いのが惜しい点の1つになっていましたが、オプションとして用意するどころか付属してしまうのは太っ腹です。ペン自体はおおむねワコム「Pro Pen 2」シリーズに似た形状で、慣れた感じで握ることができます。
●付属の手袋をしないと誤爆しがちなタッチ機能
本機は海外メーカーの液タブとしては珍しい、10点マルチタッチ対応です。主にペンを使っていないときの作業効率の面で「液タブにもタッチほしい」派の自分にとっては、とてもうれしい仕様です。ところが実際に、Cintiq ProやiPad、Galaxy Tabなどで描いているときのような感覚でペンを使うと、かなりの頻度で手の横側が誤爆してしまいます。
付属の手袋を着けていれば(上の方を操作しようとして腕が触れた際以外は)おおむね大丈夫とはいえ、あまり着け心地が良い手袋というわけでもなく、これを前提にしなくてはならないのはうれしくはないです。
これはどうやら、以下のようなパームリジェクションの処理が上に挙げたデバイスよりも徹底していないことが関係していそうです
・手の横側のような特徴を検知して無視する
・ペンがホバー範囲から出た後、手が一度離れるまでは検知しない
試しにペンを持ったような手の形で画面を撫でるテストをしてみると、Cintiq Proではパームリジェクションが働いて無傷、Kamvas Proでは乱雑な線が引かれました。
正直、ペンデバイスのタッチ対応としては熟成が不足気味だと思います。幸い、誤爆防止になる手袋が付属していること、本体上端のスイッチですぐにオフにできることに加えて、アプリによってはタッチを無視するような設定もできたりするので、致命的な問題ではありません。
また、ペンを使っていないときは(非常に貴重な)大型のタッチ対応ディスプレイとして使えるので、無いよりはずっとうれしいとも思います。
●ペン性能をチェック
さて、肝心のペンをチェックしていきましょう。本機は新世代の「PenTech 4.0」ペンシステムを採用しています。自分は「PenTech 3.0」の板タブを持っているので直接比べられますが、以下の点が向上していると感じました
・強い筆圧まで頭打ちにならない
・軽い筆圧の安定感が増している
特に強い筆圧は先代までの弱点で、強い力で線を安定させたりダイナミックに強弱を付けたりしたいときにはあまり余裕がありませんでした。この点は改善を期待していましたが、期待通り満足できるレベルになったと思います。
軽い筆圧については、本機は狙った薄さが連続して出せる感覚が向上していて、古い方はちょっと揺らいでいたんだというのに気づいた感じです。
ジッターや妙なクリック感などはもう昔の話になっているので、ペンの基礎的な描きやすさの面ではほぼ不満がなくなりました。そろそろレビュワー廃業ですね。
ただ、全てにおいて違和感がなかったかというと、そうでもないです。
・遅延がややある
・ペンを傾けたときにカーソルがずれることがある
遅延については、たぶんディスプレイ内部での遅れだと思いますが、主にペンやタッチでスクロールしたときにモッサリ感が出やすいです。試しにワコムの「Cintiq Pro 17」を60Hzに落とした状態でペン遅延を比べてみると、やはり60分の1ぐらい遅れています(Cintq Pro 17を120Hzで動かせばもっと差が出ます)。
これはおそらく、自分が以前使っていた「Cintiq Pro 16 前期モデル」と同程度のはずで、気分はともかく作業に支障があるというほどでもないと思います。遅延が気になりがちな人は実機を見て判断するのをおすすめします。
カーソルずれについては、不思議なことに上下/左右方向に傾けたときにはずれず、それ以外の角度に傾けるとずれてきます。かなり深く傾けないと大きくはずれないですし、仮に気になったとしても自分が普段ペンを持つ角度で座標キャリブレーションをし直せば良いだけなので、実用上の問題にはなりづらいと思います。本機を検討しているならば一応、知っていれば使用感を改善できるかもしれないとだけ覚えておいてください。
また、筆圧の平滑化処理のせいか、素早く文字を書くと少しヒゲが出やすいようでした。絵を描く時にはほとんどの場面で影響ないと思いますが、素早いハッチングをたくさん描きたい人はチェックしておくとよさそうです。
●実用性チェック! うれしいペン性能と惜しい遅延感
さて、実際の作業に使ってみましょう。このパートは海外モデルでも最近はペン性能についてあまり指摘することがなくなっていますが、今回はさらになくなりました。
逆に、筆圧検知の余裕と自然さは実感できます。軽い筆圧が意図した通りに使えるので、ラフでは薄い線で探っていくような描き方もやりやすく、強い筆圧でも頭打ちにならないため、線画では摩擦力で線を安定させるような筆運びも安心して使えます。
彩色も特に困ることはなく、軽い筆圧で薄く塗る時もコントロールしやすくて快適でした。
先に挙げたカーソルずれは、自分の作業では気になることはありませんでした。どちらかというと気になったのは遅延感です。普段は120Hzディスプレイでガチガチに遅延を切り詰めたCintiq Pro 17を使っているので、本機のペン先と線が少し離れている感じや、スクロールするときにのっそりついてくる様子で差を感じてしまいます。
ただし快適性に差は出るとはいえ、作業効率にまで影響するかというと、そうとも言えないかな……ぐらいでした。
パームリジェクションの弱さについては、Photoshop+自前の手袋で作業し始めてすぐに、キャンバスの移動やレイヤーパネルのスクロールなど複数の誤爆が発生したので、以後はタッチオフで作業を続けました。自分が液タブにタッチ操作を求めるのは主にペンを握っていない時なので、ディールブレイカーというほどではないですが、オン/オフを切り替えながら使うのは面倒ではあります。
●今までで一番好みのサイズ
そして、特に好印象だったのがサイズ感です。個人的に17.3型のCintiq Pro 17を使って感じるのは「19型ぐらいまであってもいいな……」なので、本機の18.4型は余裕を感じてとても感触が良いです。
イラスト制作も文章入力もフルスピードでできる「ダブルキーボード」配置は、液タブが大きいと腕が開きすぎて使いづらくなりますが、今回は無理なくできました。
また、本機はファンレスで、最大輝度で2時間以上動かしても右上あたりがほんのり暖かくなるぐらいで問題なさそうでした。ある程度暑い日でも、タブレット用手袋をしていれば大丈夫だと思います。
●まとめ
では、まとめていきましょう。
気に入った点
・高品質な4Kディスプレイ
・設置しやすいサイズと形状、内蔵スタンド
・完成度が増した新世代のペン
・細いペンの選択肢が付属品として提供されている
・左手デバイスが付属
・タッチ入力対応
・ファンレス
・Cintiq Proよりもリーズナブルな価格
難点になりうる点
・表示にやや遅延がある
・パームリジェクションの不足
・Macではタッチ非対応(執筆時点では)
・HUION機としてはかなり高価
Kamvas Pro 19は、HUIONが全面的に真のハイエンドを求めた液タブです。4Kのディスプレイと、従来の弱点が大きく改善した新しいペンで、これまでよりも妥協のない作業環境を構築できます。また、タッチ対応や細いペンの選択肢、価格帯も含めて、旧Cintiq Proキラーとしての役割もより強く意識されています。
一方で、ペンも使うタッチディスプレイとしての熟成不足や、表示遅延など、惜しい点もあります。基本、海外メーカーの弱点はすぐ直ってしまうので心配はしていませんが、真のハイエンド機としてはあと一歩、洗練の余地があるとも言えます。
上記のような惜しい点こそあれ、旧Cintiq Proシリーズが古くなりつつある現在、従来にないサイズ感、豊富な付属品、ファンレスや省電力、モダンな仕様など、有利な点も沢山あります。この価格帯の液タブ上位機を導入したいならば、外して検討するわけにはいかないモデルと言えるでしょう。
また、同世代のシリーズとしては27型の「Kamvas Pro 27」も存在します。こちらも29万9980円と高価ですが、大きいサイズが好みの人は「Cintiq Pro 24」のライバルとして検討してもよいでしょう。