Infoseek 楽天

ASRockの「DeskMini X600」には自作PC気分を手軽に味わえるロマンあり! “小さな”実機をじっくり検証した

ITmedia PC USER 2024年6月25日 12時10分

 小型のデスクトップPCを求める読者には、ASRockのDeskMiniシリーズから登場した新製品「DeskMini X600」を紹介したい。ASRockのラインアップにあるベアボーンキットの中で、小型に分類される製品だ。Ryzen 8000GシリーズをはじめとするAMDのAM5ソケットに対応し、DeskMiniならではの高いストレージの拡張性も備わっている。

 ただ、「小さいPCって組み立てるのが難しいでしょ」と思っている方もいるだろう。ちまたの完成品ミニPCとどちらがコスパが良いのかも気になる。そこでは今回は、DeskMini X600にパーツを組み込み、予算感も出してみた。

●2Lサイズのミニボディー CPUやメモリなどが選べるベアボーンキット

 DeskMini X600は約1.92リットルのボディーを採用するベアボーンキットだ。2Lクラスなので、体積で言えばNUCをはじめとする0.5LクラスのミニPCの4倍はある。ただ、見た目は多くの方がイメージするミニPCか、それよりも小さく感じられるだろう。

 具体的なサイズは、縦置き時の場合は約80(幅)×155(奥行き)×155(厚さ)mmで、17cm四方のMini-ITXで組む場合よりも一回り小さい。ASRockらしいシンプルなデザインだが、フロントインタフェースを始め、十分な接続性を備えている。

 前モデルの「DeskMini X300」からDeskMini X600になり、いくつかのポイントが強化されている。ソケットはAM4からAM5になり、搭載できるマイクロアーキテクチャもZen 3からZen 4にステップアップした。

 各種インタフェースの進化もある。メモリはDDR4-3200からDDR5-6400へ、M.2スロットは「Gen 3×2基」から「Gen 5×1基+Gen 4×1基」へ、有線LANは1GbEから2.5GbEに引き上げられた。

 設置方法は標準で付属するゴム足か、オプション(別売り)でVESAマウントキットを追加してディスプレイ裏や壁掛けする方法が選べる。

 付属のACアダプターはFSP製で、出力120W(19V、6.32A)となる。比較的小さく、特にACアダプターからDeskMini X600本体までは細めのケーブルを採用しているので収まりがよい。なお、電源プラグは外径5.5mm、内径2.5mmでセンタープラスとなっている。

 続いてDeskMini X600の内部にパーツを搭載していこう。まずケースを開けるには背面4隅のネジを外す。ネジを外せばスライド式にマザーボードベースを引き出せる。フロントパネル用のケーブルだけはケース側と接続されているので、これを外せばマザーボード上へのパーツの装着が楽になる。

 マザーボードはMini-ITXよりもさらに一回り小さいが、AM5ソケットにM.2スロット(PCI Express Gen 5 x4)、2本のSO-DIMMスロットといった具合で構成は同じだ。高密度に感じるが、実際に組んでみるとそこまで窮屈感はない(あくまでMini-ITX比だが)。

 なお、マニアな方にはMOSFETなどの部品をじっくり堪能していただきたい。チョークの数から6フェーズと思われるが、その裏を見るとタンタルだろうか、薄型のMOSFETが19個並んでいる。たぶん、これをおかずに白飯3杯いけるマニアもいるだろう。

 サポートしているCPUについては、AM5のRyzen 8000G/7000シリーズで、かつTDPが65W以下だ。ただし多くの理由から、実質的にはRyzen 8000Gシリーズが本命と思われる。Ryzen 7000シリーズでは、末尾「F」以外には統合GPUが搭載されたものの、性能は必要最低限だ。

 プリントサーバのような使い方ならそれでもよいが、デスクトップPCとして利用するには少々キビシイ……。一方のRyzen 8000Gシリーズは統合GPUとしてはかなり高性能ではある。グラフィックスカードを搭載できないDeskMini X600なので、統合GPU性能の高さを選択の基準とするのがよいだろう。

 DeskMiniシリーズが、他のミニPCに対して大きくアドバンテージを持っているのが、ストレージの拡張性だ。マザーボードベース裏には2.5インチシャドーベイを2基備えている。また、マザーボードベースからマザーボードをいったん取り外せば、2番目のM.2スロット(PCI Express Gen 4 x4)にアクセスできる。トータル2基のM.2 SSD、さらに2基の2.5インチSSD/HDDを搭載できるのは、通常このサイズのミニPCでは考えられないだろう。

●DeskMini X600をベースにカスタムPCを組んでみた

 それでは今回試しに組んでみたDeskMini X600のパーツリスト(OSなどは別)を紹介しよう。

・パーツリスト

・ベース:DeskMini X600(3万3000円前後)

・CPU:Ryzen 5 8600G(3万4000円前後)

・メモリ:DDR5-5600 32GB(1万8000円前後)

・ストレージ:Crucial T500(M.2、Gen4 x4、2TB)(2万6000円前後)

・CPUクーラー:Noctua NH-L9a-AM5(7000円前後)

・LEDストリップ:DeskMini Addressable LED(3000円前後)

 ハイパフォーマンスでもミニマルでもなく、Ryzen 5を中心としたメインストリーム向けのスペックだ。上記構成での予算は12万円前後となる。下2つについてはカスタマイズパーツなので省くのもアリだ。その場合で11万円前後になる。

 CPUやメモリ、ストレージが組み込まれて販売されている完成品のミニPCと比較してコスパどうか、気になる方は多いと思う。

 実機がないので実売価格ベースの調査だが、同じZen 4世代でRyzen 5搭載モデルは10万円前後(クーポンは除外する)のようだ。OSの価格も含めると2~2.5万円程度、DeskMini X600の方が高くなるだろう。ただ、性能という点では完成品ミニPCがモバイル向けCPUであるのに対し、DeskMini X600はデスクトップ向けCPUを搭載する。パフォーマンスは1つ上のクラスとなるので、同じ性能の完成品ミニPCを求めるなら1つ上のCPU……という具合で価格差は小さく、あるいは逆転することもあるだろう。筆者なら自作PC気分を味わえるDeskMini X600のロマンを選びたい。

●実際に組み立て

 それでは組み立てに入る。マザーボードベースを引き出したら、早速CPUの組み込みだ。リテンションキットは一般的なマザーボードと同じなので、CPUの装着は通常の手順と変わらない。

 DeskMini X600付属のCPUクーラーを使うなら、CPUグリスを塗ってからCPUソケットの上下にある黒いプラスチック製の純正固定具にあるツメの部分にCPUクーラーの金属プレートを引っ掛け、レバーでテンションをかけ固定する。

 今回は「NH-L9a-AM5」を組み込んだ。市販のCPUクーラーを利用する場合、AM5対応であることはもちろんだが、高さ47mm以下という条件もあるので注意しよう。公式のクーラー互換性リストが参考になる。NH-L9a-AM5は適合済みだ。

 NH-L9a-AM5を装着する場合の手順を紹介しよう。まず純正固定具は利用しないので取り外す。CPUグリスを塗り、CPUクーラー本体を載せたらマザーボード裏からボルト4本でクーラー本体を固定する。NH-L9a-AM5は純正バックプレートに純正固定具を固定していたボルト穴に対し、ひと回り細いボルトを通して固定するというユニークな装着方法を採用している。小さな製品と言うと、窮屈で神経を使う作業をイメージするが、そうしたことはない。

 後はメモリとM.2 SSDを装着するだけだ。どちらもスロット形式なので「向き」さえ間違えなければ問題ないだろう。

 これだけで主要パーツの組み込みは完了となる。フロントパネル用ケーブルの端子を戻し、マザーボードベースをケース側に戻したら、背面ネジを締めて完成だ。通常の自作PCとは違い、電源を搭載する、ケースにマザーボードを固定する、電源ケーブルを接続するといった作業がなく、配線作業も少ない。組み立てだけなら30分~1時間もあれば大丈夫だ。それでいて自作PCを組み立てる気分は味わえる。自作PC初心者にもオススメできるし、しばらく自作PCから離れていたリターン自作erにもオススメできる。

 さて、今回はLEDストリップの「DeskMini Addressable LED」も装着したいので、再びケースを閉じる前の段階に戻ろう。DeskMini Addressable LEDは、USB内部ピンヘッダ(USB 2.0)を利用して装着する。USB内部ピンヘッダはM.2スロットの横にあるので向きを合わせて挿す。また、DeskMini Addressable LEDの固定はマグネット式なので、金属製のDeskMini X600ケース内に貼り付けるだけだ。

 ついでにDeskMini Addressable LEDの制御方法もここに記しておこう。ARGB LED制御は同社マザーボードで利用されるユーティリティー「ASRock Polychrome SYNC」から行える。執筆時点ではDeskMini X600のサポートページ(ダウンロードページ)には掲載されていなかったので、DeskMini X300からダウンロードしたが問題なかった。

●ゲームは弱いが仕事用や学習用に最適なミニPCが実現できる

 初回起動時のBIOSセットアップについては省くが、確認するのはメモリやストレージが認識されているかどうか、メモリクロックは適正なプロファイルが読み込まれているか、CPU温度が異常に熱いようなことがないか(グリス不良や保護フィルムの外し忘れなど)などでいいだろう。

 他はファンの回転数制御がデフォルトでSilentになっているので、高性能CPUを組み合わせる際は、まず「Performance」など回転数の高いモードで様子見し、しばらく運用して問題なければSilentに戻すなどした方がいい。BIOSセットアップが完了したらOSのインストールを行う。

 なお、最近のASRock製品ではOSの初回起動時に「Auto Driver Installer」の通知が表示される。DeskMini X600に必要な各種ドライバのインストールを自動化してくれるものだ。

 肝心なのはユーティリティーとしてアプリ自体がインストールされるものとは異なる点だ。ドライバ導入後にWindowsの「インストールされているアプリ」で確認すれば分かるが、Auto Driver Installerはもちろん、ASRockのその他のアプリも一切インストールされていない。ドライバ充当を楽に行えつつ、行儀がいいと言うのがよいだろうか。

 それでは今回組んだDeskMini X600のパフォーマンス測定といこう。

 PCMark 10 Extendedベンチマークのスコアは6817ポイントとなった。EssentialsとProductivityについては1万1000ポイントを超えるスコアで軽快だ。一方、Digital Content Creationについては8616ポイント、Gamingは5519ポイントだった。この2つはGPU性能の依存度も大きい。統合GPUとして考えれば比較的高スコアだが、3Dコンテンツ制作や3Dゲームをメイン用途にするには力不足だ。

・Extended score:6817

・Essentials:1万1068

・Productivity:1万1088

・Digital Content Creation:8616

・Gaming:5519

 3DMarkでは新規追加されたSteel Nomad Lightで2231ポイント、Solor Bayで9224ポイント、伝統的なDirectX 11テストのFire Strikeが6374ポイント、軽量なWild Lifeで1万3029ポイントというスコアだった。

 ポータブルゲーミングPCが近いスコアになるので、フルHDでなくHD(1280×720ピクセル)、画質設定から可能な限り軽量な設定を適用できれば、60fpsをクリアできるかもといった感触だ。

・Steel Nomad Light:2231

・Solor Bay:9224

・Fire Strike:6374

・Wild Life:1万3029

 実際のゲームではどうかと言うと、例えばSTREET FIGHTER 6 Benchmark ToolでV-SYNCオフにして計測すると、LOW(1920×1080ピクセル)設定で93/100点とまずまず快適にプレイできそうなところ、LOWEST(1280×720ピクセル)設定なら100/100点が得られた。

・LOW(1920x1080):93点

・FIGHTING GROUND:59.04(60fps上限)

・BATTLE HUB:66.86(120fps上限)

・WORLD TOUR:52.40(120fps上限)

・LOWEST(1280x720):100点

・FIGHTING GROUND:59.96

・BATTLE HUB:104.71

・WORLD TOUR:80.16

 また、ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークでは「1280×720ドット」設定なら高品質(ノートPC)で9070ポイント、平均65.6fpsで「快適」評価を得られたが、「1920×1080ドット」設定では標準品質(ノートPC)で6901ポイント、平均47.6fpsで「やや快適」評価にとどまった。

 3Dゲーム性能を向上させる方法はある。統合GPUが強力なRyzen 7 8700Gを組み合わせるプランだ。コアがRyzen 5 8600Gの6コア→8コアに増えるだけでなく、グラフィックスコア数が8基→12基に増え、グラフィックス周波数も2.8GHz→2.9GHzに向上する。CPUだけ交換した3DMarkスコアで見ると以下の通りだ。

・Ryzen 7 8700G

・Steel Nomad Light:2739

・Solor Bay:1万471

・Fire Strike:6469

・Wild Life:1万3176

・Ryzen 5 8600G

・Steel Nomad Light:2231

・Solor Bay:9224

・Fire Strike:6374

・Wild Life:1万3029

 また、こうした統合GPUにおいてはメインメモリのパフォーマンスが大きく影響する。しかし、DeskMini X600はSO-DIMMなのでデスクトップ向けDIMMほどOC(オーバークロック)メモリの選択肢が豊富ではない。ただ、自己責任でOCすることは可能だ。DeskMini X600のメモリに関するBIOS項目は他のASRockマザーボードに近く、クロックやレイテンシを詰められる。

 最後にDeskMini X600付属のCPUクーラーとNH-L9a-AM5との違いを紹介しよう。まずPCMark 10 Extended実行中の温度グラフを見る限り、付属CPUクーラーの方が若干高いシーンもあるが、そこまで顕著な差はなかった。冷却性能という点では付属CPUクーラーでも冷やしきれる。

 一方、動作音については大きな開きがある。付属CPUクーラーはアイドル時やCPU高負荷時のCINEBENCH R23、GPU高負荷時のFFXIVベンチマーク、いずれも40dBA台だったのに対し、NH-L9a-AM5は30dBA台となった。

 NH-L9a-AM5には静音化アダプターも付属するが、今回は使用していない。使用せずとも30dBA台だった。40dBAでもそこまで爆音というほどうるさくはないが、30dBA台は夜間も気兼ねなく運用できるレベルの静かさだ。

 カスタムパーツでガラッと性格が変わるところが、組み込み済みミニPCではできない自作ミニPCの楽しみ方だ。もちろん付属CPUクーラーでコストを抑えるのもアリ。しばらく付属CPUクーラーで運用しつつ、やっぱり静かな方がよいという結論に至ったならCPUクーラーを交換してみるといった2段階プランも可能だ。

●パーツ選びやカスタマイズ、お手軽なのに自作PCの醍醐味を味わえる

 DeskMini X600はミニPCなのでサイズ由来の制約があるとはいえ、主要なパーツについては自分好みのものを組み込める。ベアボーンだからいくつかのステップを省いて簡単、短時間で組み立てられるということもあり、気張ることなく自作PCを楽しめる。

 熱量やバランスを考えると今回のようなメインストリーム構成がベターだが、Ryzen 7やPCI Express Gen 5 x4のSSD、大容量メモリを組み合わせてこのサイズでの最高性能を狙ってみるのもいいだろう。

 パーツの選択や、CPUクーラーやLEDといったカスタマイズによって、自由に個性的なPCを組み立てられるところも組み込み済みミニPCにはない楽しみ方だ。今回は純正カスタムパーツとしてDeskMini Addressable LEDを用いたが、その他にUSBハブやUSB 2.0ポート増設キット、Wi-FiキットなどがASRockから販売されている。DeskMini X600にはDeskMini X600Wというホワイトモデルもあるのでそちらもチェックしよう。

この記事の関連ニュース