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2024年のテーマは「みがき上げる」――FMVのふるさと「島根富士通」は何を目指すのか?

ITmedia PC USER 2024年6月26日 17時0分

 国内最大級のPC生産体制を誇る島根富士通が、2024年度の企業方針として「みがき上げる」を掲げた。2025年度以降に国内におけるPC需要が大幅に増えるという見通しが強まる中、「ものづくりのブラッシュアップ」「ロボットによる生産性向上」「人の成長支援」の3点を軸に、旺盛な需要に応える生産体制の強化に取り組む1年と位置付けた格好だ。

 その一環として、同社は「ものづくりセンター」を新設し、デスクトップPCの生産ラインに「パレタイズロボット」を新たに導入した。同社の神門(ごうど)明社長は、「いま一度、基礎を徹底することで、ものづくりをブラッシュアップしていきたい」と語る。

 この記事では、FMV(LIFEBOOK/ESPRIMO)の“ふるさと”でもある島根富士通の、2024年度の取り組みを追う。

●「ものづくり企業」としての原点回帰

 神門社長が「みがき上げる」というメッセージを打ち出した背景には、ものづくり企業として、改めて原点回帰を図る狙いがあるという。

神門社長 島根富士通ではここ数年、「スマートファクトリー」を実現するための取り組みを強化してきた。プリント基板製造の完全無人化や、AGV(無人運搬車)による運搬の自動化、組立ラインにおけるロボットの導入、データを活用したものづくりの改善などに取り組んできた。 これらのベースにあるのは“カイゼン”への取り組みだが、そのマインドが薄れているという危機感がある。2024年度は、カイゼンマインドを改めてみがき上げ、その上でスマートなものづくりを推進していく姿勢を打ち出した。

 その象徴的な取り組みが、神門社長の肝入りで新設された「ものづくりセンター」である。同センターは4月に設置されたばかりで、長年のものづくり経験者をリーダーに据える一方で、若手社員も参加させているのが特徴だ。

 同社ではこれまでにも、トヨタ生産方式をベースにした「富士通生産方式」(FJPS:参考リンク)の定着を図るために「生産革新センター」を設置していた。しかし、FJPSの定着に手応えが得られたことから、この組織を解消した。

 ところが、コロナ禍を経て事業環境は大きく変化した。そのことから改めて今回、ものづくりセンターの設置を決断したのだという。

 多くの企業は「働き方改革」によって柔軟な勤務体系の実現を目指している。その一方で、主に少子高齢化に起因する「人材不足」も大きな課題として横たわる。生産性の向上は、企業にとって避けては通れない課題の1つだ。

 このことは、島根富士通も例外ではない。ものづくり改革を進めると共に、生産性向上への取り組みは必至となっている。

神門社長 若手社員を中心にいま一度、ものづくりの基礎を徹底することで、現場の改革を図っていく。新たな機器を導入したり、デジタルを活用したりといったことだけでは、ものづくりは進化しない。ものづくりの“ブラッシュアップ”が、重要なテーマとなる。

●従業員への教育機会をさらに拡充

 同社では、従業員への教育機会の提供にも継続的に取り組んでいる。2023年度は就業時間の4%分の教育機会を用意し、受講実績は3.4%となった。それに対して、2024年度は就業時間の5%分の教育機会を用意し、3.7%の受講実績を目指すという。具体的には、1人当たり年間70時間の教育を受けてもらうことを目指すそうだ。

 この目標を逆算すると、全社員が月平均で約6時間を教育時間に割くことになる。生産ラインが毎日稼働している現場(工場)として、これは十分に高いハードルだ。しかし、この取り組みは全社を挙げた重要な取り組みとして位置付けられており、一般教育だけでなく、現場で役立つ専門教育にも多くの時間を割り当てている。

●生産台数を増やしつつ、スマートファクトリー化も推進

 島根富士通は、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の子会社として富士通ブランドのPCの製造を担っている。2024年度、同社はPCの生産台数を前年比1%増となる156万台と見込む(2023年度実績は155万台)。また、売上高は4%増、営業利益は2%増を目指している。

 神門社長は「2025年度以降は、生産台数が一気に増加する。2024年度は、それに向けた体質改善の1年とし、カイゼンしなくてはならない箇所は、ラインを止めてでも見直しを図る姿勢で臨む」と意気込む。

 島根富士通のPC生産能力だが、近年では2020年度、同社としては過去最高の約240万台を達成している。しかし、皆さんご存じの通り、ここ数年の国内PCの市場は需要の低迷が続いている。それに合わせて、同社のPC生産台数も減少している。

 同社では、PCの需要が落ち込んでいる“今”こそ、カイゼンの好機だと捉え、生産ラインの中に入り、無駄取りの作業を進めるなど、ものづくり改革でも“原点回帰”を促進し、ものづくり体質の強化を図る考えだ。

 一方で同社は、スマートファクトリーの進化に関する取り組みも手綱を緩めずに進める方針だ。

 具体的には、AGV(無人搬送車)による部品供給をノートPCの全生産ラインに展開したり、混流ライン(※2)でもPCのボディーへのラベル貼り付けを自動化したり、といった取り組みを開始している。さらに今後は、協働ロボット(※3)の利用領域の拡大、AMR(自律走行搬送ロボット)の導入、パレタイズロボットの導入などを通して自動化率を向上。さらに、データの活用率の向上も図るという。

(※2)異なる種類の製品が混ざり合って流れてくる生産ライン(※3)人と協調して稼働するロボット

神門社長 これまでは、自動化できる箇所からロボットの導入などを始めていた。今後は、導入したロボット同士をつなげていく必要がある。また、搬送の自動化は進展したが、今後は組み立て工程を中心に、自動化装置のインライン化に取り組むことになる。

 生産ラインにおける自動化率は、2023年度の実績で37%を達成したという。2024年度は、これを41%まで引き上げる目標を掲げている。また、データ活用率は、2023年度の26%から32%に向上する計画だ。データの活用は、特に「生産性向上」「品質向上」で進めたいという。

神門社長 せっかくデータを取得しても、今までは活用しきれていないという課題があった。この改善が、2024年度のテーマの1つとなる。同年度中には、プリント基板工程における自動倉庫の導入と、リール部品などの自動供給も検討していく。 (これを実現できれば)プリント基板工程での自動化率は80%程度にまで高まり、かつて約200人が従事していた同工程の人員を、70人台にまで削減できるので、余った従業員をより付加価値の高い業務にシフトできる。プリント基板ラインにおけるデータ活用も加速したい。

●デスクトップPCの生産ラインでは「パレタイズロボット」を導入

 島根富士通では2024年度、新たな設備としてデスクトップPCの生産ラインに「パレタイズロボット」を導入した。その名の通り、パレタイズロボットは「パレットに荷物を載せるためのロボット」で、具体的には梱包(こんぽう)を終えたデスクトップPCをパレットに自動積載してくれるものだ。

 組み立てラインから運ばれてきた梱包済みデスクトップPCを手作業でコンベアに載せると、コンベアに設置されたカメラが梱包箱に貼られた二次元コードを読み取る。すると、仕向け先別に分かれた4つの「ステーション」に本体を持ち上げて移送し、パレットに積み上げる――投入から搭載までの所要時間は、平均で17.4秒だという。

 パレタイズロボットが実際に動いている様子を動画に収めたので、見てみてほしい。

 このロボットを導入したことで、従来は人手で行っていた作業が削減でき、省人化と共に、作業負荷の大幅な軽減も実現できたという。

 同じことを手作業で行うと、低い位置から高い位置まで積み上げる動きも求められる。しかしデスクトップPCの場合、1台当たり約7kgと重量が大きいため、作業者にかかる身体的負荷が高い。

 またデスクトップPCの場合、パレットには10段程度の梱包済みPCが積載される。パレタイズロボットを使用することで、作業者ごとの積載スキルのばらつきが抑えられ、輸送時に荷崩れが起こりにくく、運搬もしやすくなるというメリットもあるそうだ。

 同社では1日約5000台のPCを生産している。そのうち、デスクトップPCが占める割合は約20%と、“台数”で見ればノートPCが圧倒的に多い。しかし、配送用パレットの数では、およそ3分の2がデスクトップPCが占めるという。

 ピザボックス型の薄型の梱包材を使っていることもあり、ノートPCは1つのパレットに240台を積載できる。だが、デスクトップPCでは同じパレットに40台しか積載できない。同じ“台数”なら、6倍のパレットが必要となってしまう。ゆえに、デスクトップPCの生産ラインからパレタイズロボットを導入したのだという。

 なお、現在稼働しているパレタイズロボットでの積載に対応する梱包箱は、1種類のみとなる。「1種類だけ?」と思うかもしれないが、同社が作るデスクトップPCのうち、約8割がこの箱を使っているので、1種類のみの対応でも省力化に大きく貢献しているそうだ。

 またこのロボットでは、最大4つの「ステーション」(積載場所)を設置可能で、ステーションを出荷先別にすることで“仕分け”をしやすくできる。出荷台数が多い東京/大阪のデポ向けの出荷に活用しており、全デスクトップPCのうちの3割で本機能を活用できているという。

 なお、他のデスクトップPCなどは、現在も手作業での積み上げを行っている。今回の導入の成果を見極めつつ、パレタイズロボットの導入範囲を拡大する検討を行うとのことだ。

 島根富士通では、2024年度下期からはWindows 10のサポート終了(いわゆる「EOS」)を控えた買い替え需要がスタートすると見込んでおり、それを想定した増産体制を敷くことになる。

 また、同様に2024年度下期からは、GIGAスクール構想の第2期(いわゆる「Next GIGA」)に更新需要に向けたPCの生産を開始する予定で、それに向けた新たなラインの構築にも取り組むことになる。加えて、NPUを搭載する「AI PC」の生産に向けた準備や、富士通が一括受注した生命保険会社向けPCの生産の本格化も進めるという。

 2024年度上期の島根富士通は、2025年度以降の旺盛な国内PC需要に対応した増産や、次の成長に向けた準備に注力するフェーズにある。

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