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リブランドした「Intel Xeon 6」はどんなCPU? Intelの解説から分かったことを改めてチェック

ITmedia PC USER 2024年7月2日 16時5分

 Intelが6月上旬に発表した「Xeon 6プロセッサ」は、「Sierra Forest」(開発コード名)というサーバ/データセンター向けCPUとして予告されていたものだ。Xeon 6プロセッサには、Sierra Forest以外にも「Granite Rapids」(開発コード名)として開発されている製品もあるが、そちらは少し遅れて登場するようだ。

 これまでXeonプロセッサは、データセンター/HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向け製品が「Xeon スケーラブル・プロセッサ」、ワークステーション向け製品が「Xeon Wプロセッサ」、組み込み機器用製品が「Xeon Dプロセッサ」、中小規模サーバ向け製品が「Xeon E プロセッサ」……と、用途別に細かいセグメンテーションが行われてきた。

 ところが、今回登場するXeon 6プロセッサでは、シリーズ名がXeonの後ろに世代数を添える形に変更され、用途の区分けをモデル名によって行うようになった。このようなリブランドの背景として、Xeonの成り立ち自体に“大きな変化”が起きたことがあるという。

 本稿では、Xeon 6プロセッサの基本情報と、同プロセッサで行われた“大きな変化”を解説する。

●Xeon 6は「コア」と「パッケージ」の組み合わせで大きく4種類用意

 先述の通り、Xeon 6プロセッサのCPUコアには「Sierra Forest」と「Granite Rapids」の2種類が存在する。電力効率に優れた高効率コア(Eコア)だけを搭載したものがSierra Forest、シングルスレッド性能重視の高性能コア(Pコア)のみを搭載したものGranite Rapidsだ。

 どちらも同じ「Xeon 6プロセッサ」なのだが、得意とする用途が異なる。そもそも搭載されているCPUコアの種類も異なるため、それぞれが“別の”CPUのような扱いで開発が進められてきた。

 速報記事にもある通り、6月から出荷が始まったのは小型パッケージで提供されるSierra Forest「Xeon 6 6700Eシリーズ」で、2024年第3四半期(7~9月)には大型パッケージのGranite Rapids「Xeon 6 6900Pシリーズ」の出荷が始まる予定だ。

 その後、2025年第1四半期(1~3月)に大型パッケージのSierra Forest「Xeon 6 6900Eシリーズ」、小型パッケージのGranite Rapids「Xeon 6 6700P」もリリースされる予定だ。なお、大型パッケージのCPUソケットは「LGA7529」、小型パッケージのCPUソケットは「LGA4710」にそれぞれ適合する。

 ここまでの話を整理すると、Xeon 6シリーズの現時点における構成は以下のようになる。

・CPUコアの種類

・Eコアのみ:モデル名末尾に「E」が付く

・Pコアのみ:モデル名末尾に「P」が付く

CPUのサイズ(ソケットの種類)

・小型パッケージ(LGA4710):「6700シリーズ」に分類

・大型パッケージ(LGA7529):「6900シリーズ」に分類

 繰り返しになるが、6月にが始まったXeon 6 6700Eシリーズは、すなわち「小型パッケージのEコアモデル」となる。

●Xeon 6のアーキテクチャの概要

 今回のXeon 6プロセッサの発表に伴い、IntelはXeon 6 6700/6900シリーズのダイ構成を公開した。パッと見でも分かるのだが、どちらも意外と複雑だ。

CPUコアは「Core Ultra(シリーズ1)」と同じアーキテクチャ

 Xeon 6プロセッサのPコアは「Redowood Cove」(開発コード名)ベースで、現行の「Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)」(開発コード名:Meteor Lake)のPコアと基本設計は同一、つまりハイパースレッディング(マルチスレッド)動作に対応している。

 一方、Eコアのアーキテクチャは「Cresmont」(開発コード名)で、こちらもCore Ultraプロセッサ(シリーズ1)のEコア同様、つまりこちらは逆にハイパースレッディングには非対応となる。

Compute TileやI/O Tileの組み合わせ

 Xeon 6 6700Eシリーズは、Eコアのみを集約した「Compute Tile(CPUコアタイル)」と2基の「I/O Tile(入出力タイル)」を組み合わせた製品だ。Compute TileのCPUコアは、最大144基のEコアを内包している。

 一方、Xeon 6 6700Pシリーズは、Compute Tileについて「Pコア16基×1」「Pコア48基×1」「Pコア48基×2」の3構成が用意される。ただし、最大CPUコア数は86基となる(Pコア48基×2のパッケージにおいて、CPUコアを10基無効化している)。

 Xeon 6 6900Pシリーズは、48基のPコアを集約したCompute Tileを3基、これに2基のI/O Tileを組み合わせた製品だ。計算上、最大CPUコア数は144基となるが、こちらは16基のCPUコアを無効化した最大128コア構成となる。

 Xeon 6 6900Eシリーズは、最大144基のEコアを集約したCompute Tileを2基、これに2つのI/O Tileを組み合わせた製品となる。Compute Tileは素直に「144基×2ダイ=最大288基」となり、CPUコアの無効化措置は行われない。

Compute Tileの連結でスケーラビリティーを確保

 CPUコアを集積したCompute Tileは「EMIB(Embedded Multi-die Integrated Bridge)」で連結させることで、任意の規模のCPUに仕立てることができる。

 EMIBとは、平面方向に並べた複数のタイル(ダイ)を、インターポーザー基板を介して接続するパッケージスタイルだ。本技術の解説は、筆者が執筆した過去の記事で行っている。

 Xeon 6 6700Pシリーズでは最大2基、Xeon 6 6900Pシリーズでは3基、Xeon 6900Eシリーズでは2基のCompute TileをEMIBで連結している。

 Xeon 6プロセッサでは、メモリインタフェースをCompute Tileに実装している。そのため、当該タイルと“直接”接続しているメモリに対してはアクセス遅延を極小化できるが、別のタイルと接続されたメモリへのアクセスには遅延が生じることになる。

I/O TileはCXL 2.0をフルサポート

 I/O Tileでは、プロセッサ同士の内部接続用に用意された「UPI(Ultra Path Interconnect)バス」の他、「PCI Express 5.0バス」「CXL 2.0バス」と、外部アクセラレータへの接続インタフェースが提供される。

 Xeon 6プロセッサでは、I/O Tileは必ず2基搭載されている。2基のI/O Tileは、Compute Tileが1基構成の場合はその両端に、2基構成の場合にはCompute Tileが連結されていないの方の末端に接続される。

 Xeon 6プロセッサの目玉でもあるCXL 2.0のフルサポートは、この新しいI/O Tileによって提供される。CXL規格のあらましやCXLメモリについては、筆者が執筆した過去の記事でも紹介している。

 CXL 2.0は、第5世代Xeonスケーラブル・プロセッサが対応していた「CXL 1.1」よりも新しいCXL規格だ。CXL 2.0の大きな強化ポイントとして「スイッチング機構」が挙げられることが多いが、Intelはメモリシステムの階層化への対応を強くアピールしている。

 CXL 1.1でも、「Single Tier Memory」モードのCXLメモリがサポートされていた。それに対し、CXL 2.0ではその発展形である「Flat Memory Mode」がサポートされる。これは高速なローカルメモリ(DDR5)を「Near(近くの)メモリ」として定義し、低速だが容量の大きいCXLメモリを「Far(遠くの)メモリ」として定義して運用するメモリシステムだ。どちらのメモリを使うかは、ソフトウェアからその用途に応じて使い分けられる。

 例えば「SSDやHDDに格納しておくほどに使う頻度が低いわけでないけれど、かといって高速なメモリ(≒DDR5メモリ)に常時置いておくようなものでもないよなぁ……」という、利用頻度がそこそこのデータ置いておくスペースとして、CXLメモリの活用が進むと思われる。

●Xeon 6の「Pコア版」「Eコア版」はどう使い分けるの?

 Xeon 6プロセッサでは、性能特性に明確な違いを持つ2バージョンが用意される。ユーザー(顧客)視点に立つと、そのことはこれまでのCPU選びのセオリーが適用できなくなることでもある。

 そのことを想定してか、Intelは「Pコア版」「Eコア版」それぞれの想定用途をまとめた表を作っている。下表は、Pコア版とEコア版の簡単な機能差分を示している。

 この表を見ると、SIMD系の拡張命令セット「AVX-512」と、行列演算系の拡張命令セット「AMX」はPコア版でのみ利用可能であることが分かる。Pコア版は科学技術計算を始めとするHPC用途、あるいはAIの学習処理用途といった、演算負荷の高い用途が向いていそうだ。

 一方で、Eコア版はストリーミングサービス、SaaSアプリケーションなどのマイクロサービス用サーバや、Webサーバ、メールサーバ、クラウドストレージサーバなどの一般的なサーバ用途などに適している。

 なお、6月に出荷を開始したXeon 6 6700Eシリーズの製品ラインアップは以下のようになっている。

 競合するAMDのサーバ向けCPU「EPYC」シリーズとは明らかに異なる設計方針で展開されるXeon 6プロセッサ。業界でどのように受け止められるのか注目したい。

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