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将来は「AIのBTO」も――サードウェーブが法人事業の戦略を発表 個人向けで培った技術力やサービスを投入

ITmedia PC USER 2024年7月4日 12時5分

 既報の通り、サードウェーブは7月3日、法人向けPCの新製品を発表した。法人(企業/学校)においてAI(人工知能)の利用が広がる中、AIにまつわる作業をより快適にこなせるよう、NPUを統合したCPUや外部GPUを備えるモデルを強化したことが特徴だ。

 新製品の発表に合わせて、同社は同日に「法人向け新製品発表会 2024夏」を開催した。創業から40周年を迎え、改めて法人事業への注力することを宣言した他、パートナー企業であるエヌビディアとインテルからゲストを招き、協業の深さもアピールした。

●個人向け市場の経験を生かしてサービスやソリューションも提供

 サードウェーブのこれまでの歩みを紹介する動画が流れた後に登場した、同社の井田晶也次期社長(現副社長)は、「業種や業態に特化したターゲットへの取り組みの強化」「パートナービジネスの強化」「コンシューマー(個人向け)市場で培った技術力と、サービスを駆使した革新的なソリューションの提供」「環境に配慮した製品開発」「持続可能なビジネスモデルの推進」を今後の法人向けビジネスの基本戦略とすると説明し、いくつかの分野については、取り組みの概要を解説した。

 1点目に挙げられた「業種や業態に特化したターゲットへの取り組みの強化」という点では、以下の法人ユーザーを積極的に獲得していく方針が示された。

・CADをベースとした設計

・ゲームに関係したグラフィックス制作/サウンドデザイン/プログラム開発

・映像コンテンツの制作

 「コンシューマー市場で培った技術力と、サービスを駆使した革新的なソリューションの提供」については、まず“製品”たる今回の新PCを見てほしいとする。その上で「(今後は)製品に最適化されたサービスを展開しつつ、製品そのものはユニークなものを開発していきたい」と締めくくった。

●エヌビディアやインテルとのパートナーシップもアピール

 続いて、サードウェーブのパートナー企業が登壇し、同社との協業体制について説明した。

 まず登壇したのは、エヌビディア(NVIDIA日本法人)の大崎真孝代表だ。大崎氏は、NVIDIAの副社長も兼務している。同氏は「サードウェーブの製品展開が、NVIDIA製品のポートフォリオになっている」と言い切る。

大崎代表 NVIDIAもサードウェーブも、ゲーミングPC業界で名前の知られているメーカーで、この分野でたくさんの製品を生み出してきた。新しいraytrekには、NVIDIAの技術の“粋”を集めたといってもいいGPU「RTX」を搭載している(編集注:ここでいうRTXは「NVIDIA RTX」と「GeForce RTX」の両方を指すものと思われる)。 RTXはゲームやシミュレーション、コンテンツを扱えるだけでなく、AIの処理まで行える、柔軟かつ高性能なプラットフォームだ。AIコンピューティングの必要性が増す中、グラフィックスを通じたゲーミングPCから関係の続いていた両社のつながりのもと、RTXを搭載するサードウェーブ製品が「AIの民主化」を先導するものと考えている。

 大崎代表は、さらにこう続けた。

大崎代表 NVIDIAのプラットフォームは、1つの共通のGPUアーキテクチャで成り立っている面がある。GeForceを採用するPCを開発してきたサードウェーブが、その延長として同一アーキテクチャのGPU(NVIDIA RTX)を用いて、法人向けのAIコンピューティング製品としてraytrekを発表するのは、私たちから見ても自然な流れだ。 今後は、多くの開発者/技術者/大学の研究室で(raytrekが)使われ、世の中に貢献することを期待している。

 続けて、インテル(Intel日本法人)の大野誠社長が登壇し、いわゆる「AI PC」の核となるNPUを登載した「Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)」が、かつての「Intel Centrino」の再来ともいえるような速度で普及していることを紹介した。

 この急速な普及の原動力は何か――大野社長はこう語る。

大野社長 世界中のユーザーが、AIによって(PCを使った)作業や操作の効率向上が期待できるということで、高い関心を持っている。そして(AI PCに関する)理解が深まりつつあるからこそ、現在の状況に至っているのではないだろうか。 機械翻訳、音声認識、文字起こし、画像/動画/楽曲などの生成を、ネットワークにつなぐことなく、シームレスに利用できるのがAI PC。よりプライベートでの利用ができるようになる。

 その上で、大野社長は「サードウェーブが発表したCore Ultraプロセッサ搭載のraytrekを通じて、幅広いユーザーのニーズに応えられるだろう」と、新製品への期待を寄せた。

●サービスやソリューションにも注力 将来的には「AIのBTO」も目指す

 今回発表された新製品は、既報の通りだ。発表会では、宮本琢也氏(法人企画・マーケティング統括本部 統括本部長)から周辺サービスに関する説明も行われた。

 まず、製品保証について、デスクトップPCやノートPCでは故障したPCを修理センターに送付する「センドバック(標準)」か、PCの設置(利用)場所まで専門技術スタッフ来て修理してもらう「オンサイト(オプション)」が用意されている。サポートセンターは24時間/365日運用されているので、「(困ったことがあったら)まずは電話をしてもらいたい」(宮本氏)という。

 その他、ワークステーションに関しては、利用度合いに応じて「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」から保証を選べるという。

 サービス/ソリューションとしては、「PCのサブスクリプション/レンタル」「中古PCの買い取り/販売」「XRソリューション」「クラウドGPUサービス」「BI(ビジネス・インテリジェンス)構築」といったものを用意する。

 サブスクリプションモデルを導入する意図について、宮本氏は「大企業と異なり、地方自治体や中小企業、スタートアップで『購入』となると初期コストが負担となる場合もある。サブスクリプション、あるいはレンタルなら使ってもらいやすい」と説明した。

 BI構築ソリューションについては、これまでの知見を生かしたAI開発にも取り組んでいるという。

宮本氏 オンプレミスまたはデータセンター、さらにはSaaSを利用する家庭で、「たまっているけど散らばった企業内データ」をまとめ、将来の事業に生かすために、「ChatGPT」といった外部ツールを使わずに分析できるようにしている。分析結果をSaaSに戻すためのAPIなどは、既に完成している。

 ただ、この取り組みを自社単独で進めることは“限界”もある。宮本氏はAIの構想についてこう語った。

宮本氏 とはいえ、全てをサードウェーブ内で行うのには限界がある。AI開発をしている企業とパートナーシップを構築していきたいと考えている。その過程でraytrekシリーズの購入サポートも行いたいと考えているが、購入が厳しい場合はサブスクリプションやレンタルを使っていただきたい。これらも難しいとなった場合に備えて、当社では開発環境としての「raytrek cloud」サービスも提供している。 パートナーのSIerや販売店などを巻き込みつつ、raytrek Workstationを使うお客さまの輪を広げていきたい。(将来的には)PCなどのハードウェアだけでなく、AIもBTOできるようにしていきたい。

●ミニPCからワークステーションまで、幅広いラインアップ

 最後に、発表会場に展示されていた主な新製品を写真を使って紹介しよう。

 ミニデスクトップPC「THIRDWAVE HG5024」は、ディスプレイ裏に取り付けられるほどにコンパクトながらも、映像出力端子が「HDMI」「DisplayPort」「USB Type-C(DisplayPort Alternate Mode)」「D-Sub(アナログRGB)」と豊富に用意されていて、最大4台のディスプレイに映像を同時出力できることが特徴だ。

 14型モバイルノートPC「raytrek A4-M」は、厚さ約19mm/約1.5kgのボディーで持ち運びやすいことだけでなく、右側面にUSB 3.2 Gen 2 Type-C端子、Thunderbolt 4(USB4)端子とUSB 3.2 Gen 2 Standard-A端子を、左側面にmicroSDメモリーカードスロットとUSB 3.2 Gen 1 Standard-A端子を、背面にはLANポートとHDMI 2.1出力端子を備えるなど、拡張性の高さも魅力だ。

 「14型ノートPCでもたくさんポートが欲しい!」という環境にピッタリといえる。

 16型ノートPC「raytrek R6-MT」は約2.1kgと重量はややあるが、外部GPUとして「NVIDIA GeForce RTX 4060 Laptop GPU」を搭載している。「現場などでもAI処理を行いたい」というニーズにかなう製品だ。

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