Infoseek 楽天

分かりにくい「AI PC」をHPが料理するとPCやビデオ会議がこう変わる! 海外イベントに参加して分かったこと

ITmedia PC USER 2024年7月15日 21時15分

 2022年11月に「ChatGPT」がデビューして以来、生成AI(Generative AI)が世の中に広く認知され、多くのユーザーに活用されるようになってきた。ChatGPTのデビューから1年半以上が経過した現在、このムーブメントはIT業界全体を巻き込んで急速に進んでいる。

 ハードウェアベンダーがAIを主軸に据えた戦略をアピールする機会も増えた。今回話題に挙げるHPも2023年10月、本社のある米カリフォルニア州パロアルトで開催したイベント「HP Imagine 2023」において「AI PC」をプレビューしたのを皮切りに、AIを強力に推進する姿勢を見せている。

 そしてHPはこの7月、米ニューヨーク州ニューヨーク市において「HP Imagine AI」というイベントを開催。同社の最新のAI戦略と、最新PCのラインアップを披露した。7月15日(米国東部時間)、イベントで披露された新製品の情報が解禁されたので、その情報をお伝えしたい。

 なお、このイベントで披露された新製品の日本での展開は未定だ。

●最新のRyzen AI 300シリーズ搭載の「HP OmniBook Ultra 14」

 「HP OmniBook Ultra 14」は、NPU(ニューラルプロセッサ)単体のピーク処理において発表時点において世界最高を実現した14型モバイルノートPCだ。CPUにはAMDの「Ryzen AI 300シリーズ」を採用し、16GBまたは32GBのLPDDR5Xメモリを搭載、512GB~2TBまでのSSDストレージが選択できる。米国では8月の発売を予定しており、最小構成の想定価格(税別、以下同)は1449.99ドル(約22万8900円)となる。

 HPが買収したPolyの知見を生かした約900万画素のインカメラ「Poly Camera Pro」と、NPUを生かした「Windows Studio Effects」の組み合わせにより、高画質なオンライン会議に対応できる他、同社独自の「HP Wolf Security」のセキュリティ機能を駆使してAIにまつわるデータを保護するなど、「高いAIパフォーマンス」と「安全性の両面」をアピールする。

 Ryzen AI 300シリーズのNPUのピーク性能は、AMDの公称値で「50TOPS」となっている。HPはそれよりも5TOPS高い数値をアピールしているが、同社によると「HP向けにカスタマイズされたもので、AMDとの特別なパートナーシップが実現した」という。

 なお、本製品はストレージ容量を含めてMicrosoftが定める「新しいAI PC(Copilot +PC)」の要件を十分に満たしているが、今回のモデルではCopilot +PCへの対応は特にうたわれていない。

 筆者の推測だが、現状の「Copilot +PC」は、Qualcommの「Snapdragon X Elite」「Snapdragon X Plus」の搭載を想定したものとなっているため、要件的なアップデートがあり次第、Copilot +PCをうたうようになると思われる。

●高スペックのオールインワン型デスクトップPC「HP OmniStudio X」

 コンシューマー向け製品としては、ディスプレイが一体になった(AIO)デスクトップPC「HP OmniStudio X 27-inch/31.5-inch」も発表されている。こちらも米国では8月の発売を予定しており、最小構成の想定価格は1149.99ドル(約18万1500円)だ。

 ベースとなるCPUは両モデル共通で、Intelの「Core Ultra 5 125H」または「Core Ultra 7 155H」となる。メモリの容量は16GBまたは32GB(DDR5規格)となっている。GPUはCPU内蔵の「Intel Arc Graphics」が基本だが、31.5型モデルでは独立GPUとしてNVIDIAの「GeForce RTX 4050 Laptop GPU」が追加されている。

 ディスプレイについては、27型モデルはフルHD(1920×1080ピクセル)または4K(3840×2160ピクセル)のタッチ対応IPS液晶を選択可能な一方、31.5型モデルは2240×1400ピクセルのタッチ対応IPS液晶のみとなる。本体背面には映像出力(DisplayPort 1.4 Alternate Mode)対応のUSB Type-C端子を備える他、HDMI入力/出力端子を1系統ずつ搭載している。

 またディスプレイ上部には約500万画素カメラ(顔認証対応)と、ノイズ除去機能を備えたデュアルアレイ式デジタルマイクを内蔵する。

●AIはより現実で“実体”のあるものに

 西海岸(太平洋側)から東海岸(大西洋側)まで、HPは全米をまたいで“AI”関連イベントを行ってきた。

 本イベントの冒頭、あいさつに立ったHPのアレックス・チョウ氏(パーソナルシステムズ担当プレジデント)は、「こうしたイベントを開催するのも、AIを“リアル(現実)”とするだけでなく、“実体のある”ものとするためだ。われわれは今歴史の転換点におり、私のHPにおけるキャリアの中で最も忙しく、エキサイティングな瞬間の1つとなっている」とした上で、「HPがパートナーを含めたエコシステムに影響を及ぼし、この中でリーダーシップを発揮することで刺激的なイノベーションを実現していることを見てほしい」と述べた。

 AI PCの時代で興味深いのは、NPUやGPUなどのプロセッサパワーをいかに活用し、より便利なアプリケーションやソリューションを素早く構築するかに注目が集まっている点だ。そのため、結果としてこれらを開発する“パートナー”の存在がより重要になっている。

 今回のイベントでも、どちらかというとPC本体よりもパートナーの紹介が主軸に据えられていた。エコシステムの拡大と共に、AIがより多くのユーザーにとって身近なものになりつつあるといえる。

 分かりやすい例としては、コロナ禍以降の「ハイブリッドワーク」において欠かせなくなったオンライン会議(Web会議)だ。先に少し触れた通り、HPは2022年、オンライン会議システム手掛けるPolyを買収している。今回発表されたOmniBook Ultra 14に見られるように、HPはPolyの培ってきた技術を自社製品に取り込みつつある。

 本イベントでは、英ロンドンにいるHPのPolyチームとオンライン会議システムで接続され、従来型のオンライン会議と、HPのAIソリューションを組み合わせた最新型会議システムの比較が行われた。

 パートナーのエコシステムの事例としては、同社が2023年から推進しているAIアプリ開発支援ツール「HP AI Studio」に、Galileoの知見を組み合わせることによって、企業における生成AIの一層の活用と拡大を目指すことが明らかにされた。

 Galileoは、Googleを始めとするAI研究開発を行う企業から、最先端のエンジニアらが集まって生まれた企業だ。特にエンタープライズ環境での生成AIの評価システムを得意としている。

 現在AIを活用する各ユーザー企業では、自社が持つデータや各種リソースを組み合わせ、社内外での活用が可能な独自の生成AIの構築を目指していたりするが、その際に問題となる「ハルシネーション(事実に基づかない情報の提示)」や「ドリフト(モデル精度の低下)」「バイアス(偏見)」に加え「データ保護」など、種々の問題を解決するツールや手段をHPとの協業で提供し、信頼性の高い生成AI構築に寄与するという。

 Galileoとのコラボレーションによる新機能は、2024年秋をめどに実装される予定だ。

 この他、HPは複数のソフトウェア/AIベンダーとのコラボレーションを発表し、AIがどのような形で身近な作業を、より便利で快適なものにしていくかを紹介している。

 詳細は後日改めてレポートするが、1点重要なのが「全ての窓口はPC、特にHPのデバイスを通じて利用できる」という点にある。

 昨今、クラウド対応やスマートフォンなどのデバイスの興隆によりPCの相対的地位の低下がうたわれているが、実際のところ、実務作業を行うにあたってPCの重要性はいまだ健在だ。クラウド上にしろローカル内にしろ、何らかの形でデバイスを通してアプリを実行しなければならない。

 HPではそのために必要なデバイスを、Polyの会議ソリューションやプリンタなども含め、全てラインアップとして用意している。

 AI活用に必要なものは、全てHPが用意できる――本イベントでは、このことが強調された。

この記事の関連ニュース