Infoseek 楽天

Appleの新CMが訴える“ブラウジングをのぞかれない権利”の重要性

ITmedia PC USER 2024年7月17日 1時5分

 Appleが新しいCMを公開した。怪しげなフルートのメロディが流れると同時に、監視カメラが羽を羽ばたかせスマートフォンを使う人々に近寄ってきては、その行動をのぞき始める。

●Webブラウザ「Safari」の安全性をアピール

 最初の犠牲者は、やたらと角張ったスマートフォンでサボテンを買おうとしている男性、続いて格安旅行サイトでバカンスの行き先を探している女性の丸みを帯びたスマートフォンの画面がのぞき込まれる。ここで広告コピーの「見ているあなたも、見られています。」が表示され、ロマンス小説10選を物色している女性も犠牲になる。

 そして、監視カメラの群れが次なるターゲットの女性を目掛けて襲いかかる。彼女はそれを冷静に見ながら、スマホの「Safari」をタップ。すると、監視カメラたちが爆発し消滅していく。

 ここで、画面には「Safari。プライバシーを守りたい人のブラウザ。」の文字が現れる。

 Appleは、この夏展開するこの広告キャンペーンを通して、人々が日々利用しているWebブラウザが実は監視の対象であって、どのWebページを開いてもユーザーを追いかけ回すターゲティング広告や、プライバシー情報の裏取引についての意識を高めようとしている。

 プライバシーに配慮したOS設計で有名な同社だが、実はWebブラウザのSafariでもプライバシー配慮で業界をリードしてきた。

 例えば、特定のWebページを自分が誰だか特定されず、履歴も残さずに見ることができるプライベートブラウジングという、今ではどのWebブラウザにも当たり前についている機能があるが、これも2005年にSafariで採用された機能で、クッキーと呼ばれるWeb利用中に個人を特定するための情報を初めてブロックしたブラウザとなった。その後、2019年にはSafariは初めてクッキーの利用を全面的にブロックしている。

 同社は「Private Browsing 2.0」という7月17日公開のブログ記事の中で、2023年リリースされたSafari 17.0以降で搭載している、さらに強化したプライベートブラウジングの詳細や、強力なプライバシー保護を実現しながら、ユーザー制御可能な柔軟な保護機能と微小な調整を組み合わせることで、既存Webページとの互換性も保とうとしていることが明らかにされている。

 こういった同社の対策にもめげず、ネット上のデーターブローカーたちは、例えばシステム構成やPCにインストールされたフォントやプラグイン、場合によっては画面解像度などあらゆる情報を使って、あるWebページを見ていた人物と次の瞬間に別のページを見ていた人物が同一人物かを見極めて、人のWeb利用歴をのぞき見の技術を洗練させてきた。しかし、同社はそうした行為を見つけては、その抜け穴をつぶすようにSafariのプライバシー保護技術を発展させてきた。

 SafariはWebブラウジングの追跡行為、利用者の位置の特定、Webブラウザ用の拡張プラグインを通してのプライバシー侵害に耐性のあるWebブラウザとなっており、最も先進的なプライベートブラウジング機能を持ったブラウザでもあると同社はうたう。

 今回、ライバルブラウザであるChromeとのプライバシー配慮の違いを示すシートも公開した。

 「自分向けにカスタマイズされた広告を見たいというユーザーもいるかもしれないが、そういった広告を許すか否かの選択権はユーザーの側にあるべき。ユーザーの知らないところで情報を盗み見することは止めなければならない」とAppleの関係者は言う。

 筆者が2001年にGoogleの共同創業者であるラリー・ペイジ氏を取材した際、同社は既にAdWordsという広告サービスを始めてはいたが、まだ実験的なサービスで、同氏も「現時点で、広告を収益モデルの中心にするかは決めていない」と語っていた。

 しかし、その後もGoogleの広告技術は革新を続け、2003年には今でも多くのWebサイトが使用するAdSenseが登場し、2005年頃くらいまでは広告ビジネスが予想以上に大きな収益を上げ始め、無視できない存在になった。

 最近ではそのGoogleでさえ、プライバシーの保護に真剣に取り組み始めている。20年ちょっとのインターネット広告の歴史では、どこまではよくて、どこから間違ったのか、今、改めて振り返って検証するタイミングが来ているのかもしれない。今回の広告は、そんな良いきっかけを与えてくれることにもなりそうだ。

 ちなみに、この新CMで使われているフルートの音色が耳に残る曲は、1944年スウェーデン生まれのフルート奏者であるビョルン・J・リンド(BJORN J:SON LINDH)氏が中東のフルートに魅せられていた時代の「Billathi Askara」という曲だ。

 リンドは、後に同郷のギタリストと組んでスウェーデンJazzを米国に広めるのにも一役買い、ABBAやMike Oldfieldなどのミュージシャンともコラボをしたという。

この記事の関連ニュース