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「Surface Laptop 7」を思わず自腹購入! プロイラストレーターが試して分かった満足点と懸念点

ITmedia PC USER 2024年7月24日 12時0分

 こんにちは! refeiaです。「Snapdragon X Elite、発売前が話題のピークだったな……」みたいな雰囲気になって程よく経ちましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。自分はというと、その“スナドラPC”を買ってしまいました。

●はじめに

 そもそも、Arm版Windowsとは何か、Copilot+ PCとは? というお話は下記の記事を参照してください。

 購入したのは、「Surface Laptop 7 13.8インチ」の「Snapdragon X Plus」搭載機で、シリーズの中では一番ベーシックなモデルとなり、Microsoft Storeでの価格は20万7680円です(自分は別のショップで買いました)。

 目的は古いノートPCの置き換えですが、最近の自分は仕事も趣味もデスクトップPCを利用するのがほとんどなので、ノートPCの重要度が下がっています。それなら多少は「変わった味がする」のを食べてもいいよねと、PC趣味の血が騒いでしまい、本機を選択した次第です。なお、自分の用途では「Copilot+」は目当てにしていませんが、後で少しだけ触れようと思います。

 それではよろしくお願いします!

●本体をチェック

 さて、早速本体を見ていきましょう。Surface Laptop 7の一番下のモデルで、スペックは

・CPU:Snapdragon X Plus (10コア/3.4GHz)

・ディスプレイ:13.8型/2304×1536ピクセル液晶

・メモリ:16GB

・ストレージ:256GB

 です。Snapdragon X Eliteが12コアのところ、2つ減らして10コアになったのがPlusです。Eliteの上位には、動作クロックが1割ほど高くなったり、少コアでさらにブーストクロックを使えたりするなどの構成もありますが、IntelやAMDほど上下の格差がないので、基本的には似た内容/似た性能だと思います。

 その他、「荒すぎも細かすぎもしない」2304×1536ピクセルのディスプレイや、感圧+ハプティックフィードバック式のトラックパッド、品質の良い剛性感のあるアルミボディーなど、良い意味でMacBookの影を追ったような仕様になっています。

 接続ポートは左側面に3.5mmのヘッドフォンジャック、1基のUSB Standard-A端子、2基のUSB Type-C端子(Thunderbolt 4対応)があります。

 右側面には、磁気吸着式の充電や専用アクセサリー端子の「Surface Connect」があります。また、画面オンのまま本体のUSB Type-C端子2基からそれぞれ4K(3840×2160ピクセル)ディスプレイに映像出力することが可能でした。

 背面もクリーンで、吸排気口は見当たりません。ヒンジの見えづらいところにありそうです。

●Webサイトが読みづらくなるディスプレイ?

 本機の画面サイズは13.8型で、2304×1536ピクセル(201ppi)、120Hz~24Hzの可変リフレッシュレート対応の液晶ディスプレイです。AppleやMicrosoftは以前から、デバイスを見る距離に適したピクセル密度(ppi)を決め、ピクセル密度とサイズから解像度を決める、という方法を取っています。

 これくらいのサイズのノートPCはフルHDではドット感が気になったり、4Kや3K表示ではバッテリー駆動に響くことがあるので、とても良い取り組みです。ただし、国内で使う限りにおいては、良い解像度とは簡単には言えません。まず下の画像を見てください。

 真ん中が、何だか横線が細くて読みづらいのが分かるでしょうか。国内のWebサイトで広く使われる「メイリオ」フォントは、表示サイズによってはゴシック体でありながら縦線と横線の太さが異なり、本文として読みづらい字体になってしまう領域があります。

 メイリオフォントは今から20年近く前、Windows Vistaのために「液晶画面でも読みやすいフォント」として作られました。字の丸みを大きく描き、画面のRGB配列まで考慮して滑らかに見せるレンダリングが開発され、1024×768ピクセルや1280×800ピクセルなどの低解像度の時代に「小さく表示しても読みやすい、Windowsの標準フォント」という役割を果たしてきたフォントです。当時からフルHDぐらいまでの時代では、上記の縦線が太くなる字体になるのは見出しなどのためにサイズを大きくした場合で、見出しではむしろ太字のような効果も出てちょうどよかったと思います。

 ところが本機では、2304×1536ピクセル/デフォルトのスケーリングが150%に指定されているために、この本文では避けるべき字体が本文に表示されてしまいます。もちろん本機に限らずWindows PCで共通に起こる問題で、ユーザーが解決する方法もあり、Webサイトを提供する側も気をつけることはできます。

 とはいえ、OSもハードもMicrosoftが製造して長らく、その点が無頓着にされたままというのは、これずっとケアしてくれないのかな……と、無念さを感じてしまうのが正直なところです。

●イラスト用途も一応チェック

 さて、何かお小言みたいになっちゃった気もするので、ここからはイラスト用途での現況を見ていきます。自分はこのPCをイラスト制作に使う予定はないですが、せっかく買ったので使えるかどうかを見ておきましょう。

 まず、ワコム/HUION/XPPenのタブレットドライバは今のところArm対応していないようです。えっ、終了……!?。

 手元で試した限り、ワコムのドライバはインストール不可、HUIONのドライバはエミュレーション状態でインストールされ、手元の板タブで試すと、Armアプリ上では動作しないもののエミュレーション状態のアプリ上では動作している様子でした。

 また、ワコムはArm対応作業中なので、いずれ使えるようになるでしょう。

 本機はSurfaceペンにも非対応です。Surface Laptop 5や6はペンが利用できていましたが、今回は仕様表から「ペンの互換性」という項目自体が削除されています。個人的には普通のノートPCでも書き込みやマーキングにペンは使いたいので、ここは残念な点です。

 総じて、現状ではイラスト用途は対応待ちの状態です。ドライバが出てきたら、既にArm版が提供されているPhotoshopは問題なく使えるようになるでしょう。CLIP STUDIO PAINTなどのアプリは現状でもエミュレーションで動作しますが、動作速度にハンデを負うはずなのでうれしくはないです。他のクリエイティブ用途においても、メジャーな動画制作アプリはまだArm対応は道半ばで、今すぐにスナドラPCを進んで選ぶ理由はないと言えます。

●ほとんどのアプリが動くのはすごい! だがしかし……

 せっかく互換性に話が及んだので、エミュレーションで動作するアプリについても見ておきましょう。ちょっと乱雑ではありますが、手元でよく使うアプリをざっと試した結果が以下の通りです。

 エミュレーション動作による性能低下もほどほどに抑えられているため、重いアプリでもなければモッサリ感もなく実用的に動作します。一方で動かなかったアプリは、システムの深めのところを触らなくてはならないものが多いようです。

 特にGoogle DriveやGoogle 日本語入力、ATOKなどは無いと困る人もいるはずで、それだけでご破算という場合もあると思います。

 ゲームについては手元では試していませんが、動いたり動かなかったり、動いても不安定だったり、オンライン対戦のためにアンチチートツールが導入されるものはだいたいNGだったりと、一般的なアプリより厳しいようです。

●周辺機器はより厳しい現状

 液タブ以外の周辺機器も見ておきましょう。ドライバが無くても動くUSBストレージや充電器などはほとんど問題ないですが、問題があるのは、ドライバを導入しなくてはいけないのにArm版のドライバがない場合です。ここもザッとで恐縮ですが、見ていきます。

 キヤノンのプリンタは、OSの標準ドライバで動作する、というような記述もあります。手元ではOSがプリンタを認識している様子でしたが、エラーが表示されて印刷動作には至りませんでした。液タブと同様に、ドライバがインストールできない場合や、インストールされるものの正常に動作しない場合などさまざまですが、現状ではあまり期待しないのがよさそうです。

●従来のハイパフォーマンスノートPCに引けを取らない高い性能

 それでは、性能もチェックしておきます。手元にはあいにく、2020年に散々Apple Silicon版MacBookの“かませ犬”にされたIntel MacBookとほとんど同じ内容のWindowsノートしかなく、比較に使うには古すぎます。

 そこで、Ryzen 7 8700GをTDP 35W制限にしたデスクトップPCを用意しました。この状態で、7840HSや8840HSなど、Core Ultra 7と競合するCPUを備えた高性能の薄型ノートPCと近い使用感になると思います。

 まずは、Armに対応しているアプリやベンチマークテストでの比較です。Ryzen 7 8700G(TDP 35W)を100%としたときの速度比較ですが、でこぼこはあるもののだいたい似た性能になっているのが読み取れます。勝った負けた的な話は避けますが、Snapdragon Xの中で最下位のモデルであっても、高性能なノートPCとしてサクサク動くだろうということは読み取れると思います。

 実際に、しばらく使って体が慣れた状態で2つのPCを入れ替えたり、アプリの起動時間なども比べたりしてみましたが、どちらかがモッサリということもなく、似たような感覚で使えました。

 次にArm非対応のアプリで、8700Gではネイティブ動作、Snapdragon X Plusではエミュレーション動作になる状態で比べてみます。こちらはエミュレーションのペナルティで7割ぐらい、といったところでしょうか。

 GPU性能は何とも言えないばらつき方をしているとはいえ、本格的にゲームをやるようなPCではないとすれば、十分な能力があるといえそうです。

●バッテリー駆動時でも高いパフォーマンスを維持

 次は電源の接続状態や、電源設定でどれだけ性能が変わるかです。本機の電源設定には「推奨」「高パフォーマンス」「最も高いパフォーマンス」がありますが、今回は「推奨」と「最高」だけを使い、「AC電源接続+推奨」を100%とした速度で比べました。

 意外にも、どの条件でもたいして性能が変わりません。従来のPCではACアダプターを外した途端に動作がモッサリになるモデルもあったので、バッテリー動作で遅くならないのはうれしい点です。

 また、全体として冷却ファンが静かなのが印象的でした。平常時はほとんど気になることはなく、全コアをぶん回すようなテストですら、聞こえるけどうるさくはないぐらいにとどまっています。

●バッテリー持続時間は最大の強み

 バッテリー持続時間も非常に好印象でした。自分で2時間ぐらいずつ試した限りでは、輝度40%の設定で

・Webブラウジングだと13時間ぐらい

・YouTubeで4K 30pの動画再生だと18時間ぐらい

 で、バッテリーが満タンからゼロになるペースで減っていきました。軽い作業で10時間以上が見込めるならば、外出先に長時間いる場合でも、自宅で持ち運びながらでも、かなり使いやすいと思います。

 とはいえ、最近はIntelやAMDのノートPCもバッテリー持続時間は従来から大きく改善しています。特に「Intel Evo」準拠PCでは「フルHD機種において実使用で9時間以上」の達成が求められていたり、大容量バッテリーなども加えてかなりの長時間駆動を実現していたりするモデルは少なからずあります。そういう意味では、AppleがIntelからApple Siliconに移行した2020年ほどの決定的な差とは言えなくなっています。

 また、高負荷でぶん回しているときには相応にバッテリーは減ります。CINEBENCHのような全コア全力のベンチマークを走らせていると、2時間はもたなそうなペースでバッテリーが減っていきました。

●「おま環」だけど思わぬトラブル発生

 冒頭にも書いた通り、濃い味を求めて買っているので、本機をいじっている間に起こる不都合のほとんどは、自分にとっては「お~」で済みます。それでもちょっとショックだったのは、これまで体験したことのない重めのWi-Fiの問題に遭遇したことです。

 いつも使っている自宅のWi-Fiアクセスポイントに接続して使っていたら何か通信が途切れ、おかしいな? と思っていると、ついには同じアクセスポイントにつながっている機器が全て通信不能になりました。

 Wi-Fiルーターは国内のコンシュマー向けとしては信頼されているメーカーのWi-Fi 6対応製品で、古くないモデルです。どうやらしばらく利用しないなどで低電力状態になるタイミングで問題が発生するらしい、以上のことは今回分からず、現在は別のWi-Fiルーターを使って問題を迂回(うかい)しています。

 これ自体はレアケースでしょうし、「相性」とか「おま環」の一種だと思います。ただ、トラブルが発生したときに、フォーラムやコミュニティーに期待できる情報量がIntelプラットフォームに対して圧倒的に少ないのも、現状のスナドラPC共通の弱みとも言えそうです。

●まとめ

 それでは、まとめていきましょう。

 Surface Laptop 7は非常に良いノートPCです。ボディー/ディスプレイ/キーボード/タッチパッド/内蔵スピーカーの音質など、多くの点で高い品質を実感できるできになっており、通常ではトレードオフになりがちな性能/静粛性/バッテリー持続時間が、どれも犠牲にならず満足できるレベルにあります。所有欲を満たすできでもあり、長く頼れる性能を持っているといえます。

 一方で、Arm版Windowsには長い歴史があるにも関わらず、互換性の問題は続いています。ゲームやシステムに関連するアプリ、周辺機器のドライバなどでは特にArm版を入手できないために利用しづらい状況のままです。これによって、

・ゲーム用途にはお勧めできず

・クリエイティブ用途にもお勧めできず

・オフィスや事務用途にもお勧めしづらく

・バッテリー持続時間が最優先の場合は、MacBookの方が詰まずに課題を解決する可能性が高い

 と、最適なユーザーを見つけるのが難しいモデルになってしまっています。個人的には、現状のスナドラPCはWindows PCの中心ブランド(今回で言えばSurface ProやSurface Laptop)として販売される用意はまだできていないと思います。欧米のように気軽に返品できる商習慣があまりない国内市場ではなおさらです。

 Copilot+については、「まだCopilot+ PCは発売されていない」と考えるのが良いと思います。目玉の「Recall」機能はリリースが撤回されていつ出るかわからない状態、それ以外の機能は、従来からあったり他所にもあったりするようなもので、洗練されているわけでもありません。

 先のチャットAIのブーム以来、いろんなメーカーが良く言えば覇気にあふれ、悪く言えばsloppyというか、強引で空約束ぎみになっています。Copilot+が欲しいとしても、IntelもAMDもこれに対応できるCPUを出す予定があり、ほどなく互換性の心配をしなくていいモデルが出てくるはずです。いずれにせよ、しばらく忘れてみるぐらい、のんびりと構えて見るのが良いでしょう。

 何か、レビューとして普通に書くと内容は厳しくなってしまいますね……。かといって今、自分がこのモデルを気に入っていないわけではないです。普通にボディーをなでなでしていますし、気軽な用途や出先では今後も頻繁に使っていくでしょう。

 その中で不具合が直り、Arm版Windowsのエコシステムが育っていけばとても良い味。もし衰退してしまうなら……なおさら味わっておきたい味、といったところで。

 すくすくと育った、Arm版Windowsを報告できる日がくるといいな。

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